5話
横に安物のデスクトップpcが飾られた俺の机に座りながら用意したインスタントコーヒーを片手に
僕の小説の中でもいちばんの力作、『転生したら最強スキルを得てしまった件〜俺を虐めていた奴らに復讐無双〜』
を二十話ほどつらつらと読み終わった神田はふぅと、肩で息をした。
これは、流石の神田というべきか。
読了スピードが人並みじゃない。
ボクが1ヶ月かけて書き切った話数をものの10分程度で読み切ってしまった。
「1点」
うん。
10点満点中1点か。
ま、辛口評価は予想していたけれども。
面と向かって言われるとやっぱ凹むものはあるなぁ。
「1000点満点中よ」
まさかの1000分の1かよ!?
「ふふ。
今のはちょっとふざけたけど、
本当の点数をつけるなら60点くらい。
まぁまぁ面白かったよ向原くんの小説。
だからこの作品に対して私がとやかくいうことはあまりないかな。
ていうか、
文章なんてものは、人の感情のまま、個性のまま、千差万別があっていい。
あるべきだと私は考えているけれど。
でもそれは、独りよがりだったらの話ね。
それが他人から読まれ、評価をされ、ウケルという点に関しては良い所、悪い所がある。
その点で言えばね、向原君。
厳しいことを今から言うけれど、10」
「10?」
「そう、その数こそが
君の小説の悪いとこ」
・・・
「まずは良いところから褒めます。
まずタイトル及び内容。
これらは昨今のweb小説の需要をよく理解できていると思われるわ。
どの読者がターゲットで、どんな話なのかをタイトルで分かりやすくしている。
これに関しては100点」
「おっ…」
神田から素直に褒められるとちょっと照れる部分がある。
「じゃあこれから貶します」
ああ。
早かったな…ボーナスタイムが終わるのは。
「セリフ以外の文。
つまり地の文が壊滅的。
いくらカジュアルな文体を好む読者が多いwebといえども最低限のレベルは必要なものよ」
「うぐっ」
それは自分でも感じていた欠点だった。
「そ、その地の文ってのは、どうやって鍛えればいいんだよ?」
「一つは才能。
特に考えなく書いて面白く書ける人間ってのは悔しいけど存在するわ。これは、もうそういうものだからアテにしない方がいいわね。
で、二つめ。
これが一番のおすすめ。
とにかく本を読む事。
web小説も読み、文庫本も読み、様々な文体に触れキャパシティ広げる。
これは私がやっている事だけど。
一日に書く時間と同じだけ本を読む。
教材として、本を読む。私はそうしているわ」
「教材として…ね」
「そうそう。
私達だって人間。無限にアイデアが浮かぶはずもないわ。
だから行き詰まるし書き方に迷う。
そんな時は他人をパクり、参考にする。
面白い話ってのは、案外と他人の本を読んでいる最中に生まれてくるものよ」
「…なるほど」
「後は、文字を書くことを習慣付ける…かな。
毎日1時間でも2時間でもいいから必ず文を書く。
サボらず絶対に書く。
そしてそれと同じ時間本を読む。
これをルーティンにするだけで地の文は格段に良くなるわ」
「…分かった。
やってみるよ。一日一書き一読書」
「他にも色々とあるけれど。
細かく叩いていたら日も暮れちゃうからこれくらいにしておいて…。
そうね。
確かなのは、今みたいになんの目標もなくダラダラ惰性で続けちゃあ伸びない。
明確な目標設定でもしましょう。
貴方、ハイファン日間一位を目標にしなさい」
いや無理だろ、日間一位は。
それもハイファンの一位なんて…どれだけの倍率だと思ったんだ。
「もちろん、これは私も参加するわ。
私はweb小説から小説家になったわけじゃないから、貴方にweb小説の伸ばし方を教える教師になるにはまだすこし不十分」
神田は足を組んで僕の目を見た。
「勝負しましょ。
私と貴方どちらが先にハイファン一位を取れるか」
「え?
いや、僕は伸ばし方を聞きたかったわけじゃいし。
勝負したかった訳でもなくて。
ただ、率直なアドバイスが欲しかっただけなんだけどな」
それに神田と争っても勝てる気なんかしないし…。
「でも、たくさんのpvが欲しいんでしょ?」
「そりゃ欲しいけどさ」
「あまり乗り気じゃない?」
そりゃあ。
勝てるはずのない勝負に乗り気になる人はいないだろうね。
「そうね、
だったら向井原くん。
もし貴方が私より先に日間一位になったその際。
貴方に一ついい物をプレゼントしようと思うの」
「へぇ…物で釣ろうと。
いいものね。
100万円とか?」
そんな大金だとしてもどうせ勝てないから、貰えないだろうしな。
「もっと価値のあるものよ」
なら逆に貰えねえだろそんなもの。
「いちおうの興味で聞くよ。
それは、なに?」
「それは私を嫁に貰う権利」
神田はドヤ顔でそう言った。




