4話
同学年の女子を自宅に呼ぶなんて僕の人生史上初のことだった。
「ここが、向原君のお家…?」
軒並み並べた住宅街のその中の一つを見上げながら神田は言う。
それは僕にとって10年以上見慣れた我が家だった。
「なるほど…なるほど。
向原くんみたいな普通の人間を育むのはこんな普通の家庭なのね」
「ああ、そうだよ。
お前と違って普通で悪かったな神田」
「あら。
もしかして、今の嫌味に聞こえた?」
「神田の言葉はいつだって嫌味に聞こえる」
「そ」
なんだよ、否定はしないのかよ。
ん、
…ってことは嫌味か!?
「ただいまー」
家の鍵を開け、僕らは家に入る。
「お邪魔します」
神田は丁寧にもそう言って、靴を揃え隅に並べる。
「なんだ。
神田もお邪魔しますくらいは言うのか。
てっきりお邪魔されなさい、
くらい言うかと思った」
「そうね。
だって私、社会性のあるクズですもの」
クズの中でも一番タチが悪いじゃないか。
そんな時だった。
「お、お兄ちゃん…」
玄関の向かい側、
廊下のすぐそこにいたのは妹の絵里だった。
口にあんぱんを咥え、片手にミルクコーヒー。今から部屋で思う存分自堕落を満喫しようとした彼女に僕らはばたりと出会した。
「お、おおおおおおあお」
言葉にならない動揺を見せる絵里。
「お兄ちゃんが女連れてきた…。
しかもすんげえ美人…」
言い方。
言い方ってものがあるだろう。
女って。
まるで僕が歴戦のプレイボーイみたいな言い方やめなさい。
ノンプレイボーイです。
打率0割です。
「彼女、妹さん?」
隣の神田が僕に耳打ち…まではいかないが、若干近寄り囁く。
「ああ、紹介するよ、あいつは妹の絵里。
向原 絵里。
月代学園中等部の2年。
特に言うこともない見たまんまのやつだ。
で、絵里からもだな」
俺はグットサインを横の神田に向ける。
「こいつは神田 葵。
同じ高等部2年、クラスは違うけどな。
神田とは、なんていうか、まぁ色々あって家に呼んだんだ」
色々と言うのは、もちろん僕の書いた小説を読ませるため。
作品名と作者名だけ教えて、あとはweb上で勝手に呼んでね、バイバイってのも考えたけど、
それじゃあちょっと味気ない。
せっかくの機会。
商業作家に読んでもらえるのなら感想とか聞きたかった。
そしてできるなら、これからの執筆活動の為にもアドバイスだって欲しい。
とのことを僕から話したら。
神田は学園などの人目のつくところ以外ならいいという。(どうやら学園で僕とあらぬ噂をされるのが嫌らしい)
なら、僕の家とかはどうか?
と提案して、神田は頷き、そして今に至る。
「初めまして、神田 葵です。よろしくお願いします」
神田は絵里には行儀のいいようでスカートの前に両手を重ねぺこりと一礼。
「あっ…ど、ども」
絵里もあんぱんを齧ったまま頭を下げる。
暫くの気まずい雰囲気が続く中、ボクが2人へ助け舟を出した。
「じゃ、じゃあ神田、案内するよ、僕の部屋に」
「お、お兄ちゃん!!」
「あ?なんだよ?」
絵里に呼び止められ、僕は彼女に振り返る。
「わっ私!今から出かけてくるから!!
3時間は帰らないつもりだから!!
お父さんもお母さんも今日は帰るの遅いはずだからああああああ!!」
「はあ?」
絵里はそのまま顔を真っ赤にしてドタドタと自室に戻っていってしまった。
「ふふ、可愛らしい子ね」
神田はそんな絵里の後ろ姿を見ながら笑う。
微笑ましそうに、まるで小動物を愛でるかのように。
「まぁねウチのアイドルだからアイツ」
「そうね。貴方と違って」
一言余計だ。