取引実績3000超えてるベテランなのに対応がお粗末すぎるレアキャラは私です。
「しまった〜!」
私は自分のスマホを握りしめて叫んだ。
最近あまりの煩雑さにすっかり忘れてた。フリマアプリに8月くらいに出品した商品が売れた。いま1月だよ?気の遠くなる数を出品して発送してを繰り返してたピークを過ぎてまだ残ってる商品をそのままにしてた。
引越しすると決めてから夏季休暇を使って断腸の思いでグッズ整理した。私はオタク気質で同じグッズを2〜3個買う習性があるので、ダブりのグッズは新品のままずっと段ボールで眠ってる。意味ないじゃんと思われるかもしれないが「所有してる」満足度とスペアがあるという安心感のためだからしょうがない。オタクは大変心配性なのよ。
以前は職場に住んでるんじゃないかと思うレベルで職場に生息してたけどコロナ後は全員自宅からのオンラインに切り替わった。会社が周辺機器の補助やネットワーク環境の強化や自社用のアプリを開発したおかげで在宅なのに社畜という構図が完成。新人が入った時の教育も心配されたけど対面オンラインと定点カメラとチャットでコミュニケートできてる。いまはこの環境を利用して能力ある人材は居住地不問で採用してるから海外在住社員とか北海道と九州の子がふたりで担当するシステムも普通になってる。業績も伸びてるようだからすごいよね。
そんな時に実家の両親が定年退職して本格的に海外在住することになった。帰国する意思はないみたい。実家の管理を任せたいと親から連絡が来た。
実家は地方都市でほどよく田舎にあり最近大きなショッピングモールができた場所。モールの誘致に公共のバックアップもあるからモール周辺の公共交通機関も私が学生してた頃と比べると雲泥の差だ。地方都市なのに徒歩で駅もバス停もあるから車がなくても問題なく生活できる。一応親に言われて大学のときに免許取ってるから困れば車も視野にいれておける。東京の職場まで新幹線なら1時間。ある意味通勤圏だ。
東京で高額な家賃払うくらいなら家賃ゼロの実家でゆうゆう暮らそう。私は引っ越しを決意した。
私はついついグッズ溜め込むタイプなので引越しのたびに少し(じゃないかも)づつ整理してフリマアプリに出品している、チリツモで気づけば取引数は3000件を超えている。ツッコまれそうだし気恥ずかしくてあまり他人に言えてない。でも中古ショップで纏めて二束三文で買い取られるくらいなら、私の大事なグッズをわざわざ検索して購入してくれる人に当時の定価+送料くらいの価格で譲りたいと思ってしまうからわざわざ面倒な出品も発送も集中してこなしてる。
冬季休暇に入り、生活と仕事にギリギリ必要なモノ以外は段ボールに詰めて実家に送った。年明けから両親が不在になると受け取ってくれる人がいなくなるから春夏モノとかグッズとか慌てて送った後だった。
【商品が購入されました】
ピカピカ光るメッセージマークに心の中で謝罪した。
いま任されてるプロジェクトが珍しく他業種との調整が必要なものでなるべくこっちに住んでるうちにリアルな用事は片付けたい。昼は出社して外回りや交渉して夜は自宅で作業する毎日だった。
【発送期限が過ぎていますが、商品はいつ発送される予定でしょうか?早い到着を希望します】
フリマアプリの購入者からメッセージが来た。
ごめんなさいごめんなさい忘れてました。なんて真実は言ってはいけない。
【お待たせしてしまい大変申し訳ございません。
こちらの事情で申し訳ないのですが、ただいま引越しの関係で出品しているグッズ等全てを自宅に置いていないためすぐの発送ができない状況となっております。おそらく2月末〜3月頃の発送となります。
おまけ(類似のキャラクターのグッズ)をお付けするなどの対応をさせていただいておりますが、お日にちかかってしまうのでキャンセルもお受けいたします。
ご迷惑をおかけしますがご検討のほどよろしくお願いいたします。】
これでいいかな?
怒ってキャンセルしてくれていいよ?
我ながらほんとに失礼な文面だなと心の中で謝罪しながら返信した。
【了解しました。「おまけ」はシノちゃんグッズ希望します。発送待ちます】
キャンセルじゃないんかーい!!おまけキャラ指定入りました。ハイ喜んで!!
こんな気長に待ってくれる購入者さんがどんな人なのか気になってチェックしてみると私の実家の隣県。距離的に割と近くの住所だった。パーライのオタクが近所に存在するの嬉しいな。なんて思いながら仕事に戻った。
3月に入り本格的な引越しがスタートした。
大型家具やパソコン周りのものは業者に依頼した。土曜日に届いたら日曜日にかけてなんとか仕事できる体制まで整えよう。
【お約束の3月になりましたが、商品の発送はいつになりますでしょうか?】
購入者さんからだ。ごめん。
【お待たせしてしまい大変申し訳ございません。
こちらの事情で申し訳ないのですが、まだ引越しが完了していません。グッズの整理がまだ出来ておらずすぐの発送ができない状況となっております。
おそらく3月~4月頃の発送となります。
おまけ(類似のキャラクターのグッズ)をお付けするなどの対応をさせていただいておりますが、お日にちかかってしまうのでキャンセルもお受けいたします。
ご迷惑をおかけしますがご検討のほどよろしくお願いいたします。】
気持ちに余裕がなくて、もうキャンセルしてもらおうかと次の文書を考えていると
【引越し大変そうですね。お手伝いに行かせてください。どちらにお住まいですか?】
神か??
え、手伝ってくれるの?助かる!
【ありがとうございます。3月15日に大物の搬入手伝って貰えると助かります。10時ごろ来れますか?場所は○○県▷▷市□□町です】
思わず引越し作業の手伝いを依頼してしまった。いま思うとかなりテンパってたな私。
住所と名前くらいしか情報ないので、たぶん名前から男性かなとしか想像がつかないけどパーライ仲間だしお友達も連れてきてくれるって言うしたぶんいい人なんだと思う。
玄関のチャイムが鳴って、ドアを開けるとサラサラの黒髪。目がくりっとした小動物系の可愛い顔立ちの20代半ば?前半くらいの青年がいた。お人よしそうな優しい印象。
その背後には背の高いイケメンが私を値踏みするような目で睨んでいた。なんか怖い。
「おはようございます。今日はよろしくおねがいします」
「……………おはようございます」
彼らは私の情報をまったく知らないので男だと思ってたので、出てきたのが女でびっくりしたみたい。
確かに急に呼びつけるようなヤツが女だとは思わないか。パーライユーザーって8割男性だし。
可愛い目がくりくりの子がお取引相手の土屋さん。背の高いイケメンは相澤さんというお名前だった。
とにかく2人の助っ人を確保したので今日中にやれるとこまで頑張ろう。
「佐原です。早速ですがよろしくおねがいします」
土屋さんと相澤さんはテキパキと作業してくれ、想像以上に頑張ってくれた。気さくだし本当にいい人達だ。気持ちに余裕もできて雑談しているうちに、フリマアプリの話になり、土屋さんの住所氏名を先に知ってた話をしたら驚いてた。そりゃそうか。
3人とも同じパーライ仲間なのでゲームの話で盛り上がる。
土屋さんがまだパーライ新規勢だと知り、ムクムクと私のおせっかい心が疼いた。
新規は手厚もてなすべし。古参なら気持ちわかるよね。
私は事前登録勢どころか実は仕事の関係もありテスター参加していたのでパーライには詳しい。なんなら内情にも詳しい。商品発送を優しく待ってくれている上、善意で引っ越しを手伝ってくれる土屋さんになんとか報いたい。私はパーライ内で男プレイヤーだと偽ってるため、あまり積極的にフレンド作っていないけど土屋さんならもう身バレしてるから大丈夫。
「ぜひフレンドになりませんか?」勢いよくナンパしてしまった。
なぜだか土屋さんよりも早く反応した相澤さんも一緒にフレンド登録することになった。
「佐原さん、このプレイヤーネーム?!」
ああ、相澤さん気づいてしまったか。まあしょうがないか。パーライガチ勢だとバレてしまった。
リアルで言うにはちょっと恥ずかしいけどイベントランキング常連なのだよ。
話題を変えるためふたりの推しキャラの話題になると、土屋さんの目がキラキラと輝き出した。うん。可愛い。相澤さんも興奮気味だ。推しには誰にも勝てないからね。わかる。古参のコレクション褒められてなんだかドヤ顔しちゃう。うふふ。褒められるとテンション上がってもっとサービスしたくなる。
手を止めることなく話に花を咲かせていたので、作業は順調に進んだ。
土屋さんに渡す予定のアクスタが入った段ボール、年末にまとめて段ボールに詰めて送った山の中にあるはずなんだけど、大型家具の搬入時に奥に入ってしまい今日は見つけられなかった。せっかく来てくれたのに申し訳なくなる。
「今日はありがとうございました。本当に助かりました!」
お礼を伝えて、荷解きで発見した土屋さんと相澤さんの推しシノちゃんとユウちゃんのコースターを渡す。何年か前のコラボカフェのものだ。
土屋さんの目がまたキラキラした。やはり可愛い。この笑顔守りたいって思っちゃう癒し系ワンコ。
相澤さんも喜んで受け取ってれた。コースターしか発掘できなかったけど想像以上に喜んでくれてよかった。謝るのは今しかない。
「あの…土屋さん、本当に申し訳ありません。土屋さんの購入予定のグッズ、まだ見つかりませんでした。ごめんなさい。」
「わかりました。グッズは間違いなくあるんですよね?」
「あります!あります!あの時の周年アクスタは2個づつフルコンプで購入したので間違いなくあります」
「すいません、至急的速やかに片付けしますのでもう少々お待ちいただけますか?」
パーライおたく100%のセリフで許してもらった。
あれからフレンド機能からチャットできるようになったのに土屋さんからは何のメッセージも来ない。
担当する案件がドタバタでまだ段ボールの山と暮らす私は、まだアクスタを見つけることができない後ろめたさから自分からメッセージを送る勇気がない。至急的速やかにって約束を守れてないから。
相澤さんからはゲーム攻略についてとか、他愛もないこととか、何度かやりとりをしていた。土屋さんが今どうしてるのか何度か聞こうかと思ったけど、なんとなく聞けずに過ごしていた。
『佐原さん、パーライカフェ当選したので一緒に行きませんか?』
相澤さんからメッセージが来た。コラボカフェ限定グッズが欲しくて何度も抽選予約をいれていたのに全部落選して泣く泣く諦めかけていたコラボカフェ。神からのメッセージ?蜘蛛の糸??私はとにかく何も考えず飛びついた。相澤さんと二人きりだと気まずいかと思ったら土屋さんも一緒とのこと。あの可愛いキラキラの顔を見れるかと思うとニヤけてしまう。楽しみだ。
3人の最寄り駅で待ち合わせてコラボカフェへ。ああテンション上がる。
いつものクセでグッズぜんぶ買占めて満足していたら、土屋さんにちょっと引かれたかも。土屋さんと相澤さんはランダムグッズの開封を楽しむタイプなのか。ふむふむ。
コラボカフェは時間が決まっているので私はランダムコースター狙いで時間ギリギリまでドリンクファイトした。土屋さんと相澤さんもいつもより多くドリンク頼んで一緒にお腹タプタプになるまで水分摂取した。楽しい。
場所を変えてカラオケ店でランダムグッズ開封の儀。パーライオタクとわちゃわちゃランダム開封するのが初めてだったので動画撮影させて貰えた。テンション高く楽しむオタクはいいよね。
ふたりの許可を貰ってパーライコミュニティーに開封動画もアップした。古参のランカーだけど仲間と遊んでる動画投稿するの初めてで楽しい。パーライコミュもいつもより活気づいた。
ゴールデンウイーク明けに出社すると、8月に開催するイベントのチームメンバーが急遽退職・補充なしという状況となり、在宅勤務返上でデスマーチがはじまった。
イベントでのゲストを誰にするかというミーティングで私の提案が思いのほかスンナリ企画が通った。土屋さんに恩返しできそうだなと更に仕事に精を出した。土屋さんのキラキラ笑顔が見れるかと思うとワクワクする。私情を持ち込んで仕事するとやる気アップするね。8月のイベントの告知がはじまったら土屋さんと相澤さんを誘うのを目標に頑張った。
【佐原さんお仕事お疲れ様です。夏休みのリアルイベント参加されますか?俺は相澤と行きます。もし現地で会えれば挨拶したいです】
なんと土屋さんから初メール!それもイベントのお誘い。メールしようと思いつつどんな文章にしようか悩んでいたタイミングで来た。
【土屋さんチャットありがとうございます。夏のリアルイベント私も行きます!ぜひお二人に会いたいので時間あわっせましょう。アクスタもお待たせして申し訳ありません。当日お渡しできるよう準備します】
ありがとう土屋さん。やっぱりいい人だ。土屋さんサプライズ喜んでくれるといいな。
イベント当日はサプライズに間に合うよう時間を調整して待ち合わせた。土屋さんも相澤さんも時間通り集合してイベント会場へ到着した。もう人がかなりいる。
「土屋さん、相澤さんコッチです!すいませんちょっと急いでください!」
いろんなブースで足を止める土屋さん達を先導する。まだ閑散としたメインステージに連れて行き最前列に座ってもらう。
「実はあと30分でシノちゃんとユウちゃんの声優さんがサプライズゲストで来るんです」
鳩が豆鉄砲を食うときの表情ってこんな顔なのかなと思うくらい目をパチパチさせる土屋さん。可愛い。
相澤さんもあんぐり口をあけたままだ。面白い。
私のサプライズは大成功でふたりは戸惑いながらも喜んで満足してくれた。本当によかった。ふたりに恩返しできたかな?えへへ。
イベントが終了し、テンション高く帰宅したあと私は準備していたアクスタを渡しそびれてしまったことに気づいた。次に土屋さんに会った時か郵送しようと気楽に考えた。のほほんと。
夜フリマアプリから【取引キャンセル】の通知がきた。
え?
え?え?
なんで?
土屋さん怒った?さすがに呆れられちゃった?
私は怖くなって土屋さんにメールすることができなかった。
イベントが終わり、私はまた在宅メインの仕事に戻った。フリマアプリは取引キャンセルとなりもう繋がりが切れてしまったがパーライではまだ友達を解除されてない。まだ土屋さんと繋がりがあるのが救いだ。相澤さんとはゲーム攻略とかたまにメールが来るがそれ以上の会話はない。
パーライコミュニティーに投稿した土屋さんと相澤さんの開封の儀動画を見返しては「あの時楽しかったな」なんて感傷にひたってた。またパーライの話をしたいな。性別を偽っているためにパーライでリアルでわちゃわちゃする友達は土屋さんと相澤さんだけなので寂しい。このまま嫌われて疎遠になりたくない。けどもう嫌われてしまったかも…もともとのコミュ障気味の性格が前面に出てきてしまった。引っ越しの段ボールが徐々に片付き、土屋さんに渡す予定だったアクスタがずっと机に置いてある。
うだうだしているうちに12月が近づいてきた。
嫌われていても、アクスタだけは渡したい。
というか渡さなければ!と年内にケリをつけると決めた。
【イベントお疲れ様です。年末休みになったら会いませんか?】
無視されるかもしれないと思いながら震える指でタップした。
土屋さんにはたくさんシノちゃんグッズ入れよう。おまけ入れるって約束したし。ずっとつき合ってくれた相澤さんにも準備しよう。私はふたりの為のプレゼンの準備をした。
駅前の文具屋さんでふたりの推しカラーのメッセージカートを購入した。
「遅くなってごめんなさい
またよろしくお願いします」
来年もずっと推し活一緒に楽しめるといいな。




