表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔性の騎士様をイチオシしていたら、不遇生活が終わりました  作者: りすこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/19

08 俺は彼女の不遇を赦さない (side ルキーノ ⑥)

 ウベルト王都騎士団長に伯爵とマフィアの遺体を任せ、俺は他の騎士団員と共にアルノの詰所に帰ってきた。

 詰所にはヴァニタ男爵夫人がいた。自ら詰所に駆け込んできたらしい。団長は夫人の取り調べをしているが、ヴァニタ男爵夫人は錯乱していて話が通じない。

 ヴァニタ男爵夫人は自ら牢に入ることを望み、ガタガタ震えていた。

 フランカ嬢は、母親の様子に困惑していた。


「マフィアがくるっ……マフィアに殺されるっ……!」

「お、お母様、マフィアって何? ねえ、何が起きているのよっ」

「静かにしなさいっ! マフィアに殺されたいのっ?! ここにいるのよ!」

「お、かあ……さま?」


 俺が牢に近づくと、フランカ嬢は救いを求めるような目で見た。潤んだ瞳を一瞥し、男爵夫人に話しかける。


「ヴァニタ男爵夫人。あなたの夫に仕事を依頼した伯爵は、マフィアが始末しました」

「ひぃぃぃぃ~~っ! い、いやっ……命だけはとらないでっ」

「ヴァニタ男爵と伯爵で取り交わされた契約書がありますよね? どこですか?」

「お願いっ……わたくしを助けてっ……!」


 号泣する男爵夫人に、奥歯を噛みしめる。話にならないなら、心を暴くまで。

 俺は質問をしながら、力を二度、三度、と限界まで使って、彼女の乱れた心を覗いた。

 どうやら、ヴァニタ男爵とマフィアは屋敷にいないようだ。その隙に、男爵夫人は家から飛び出し、詰所に来た。娘を探しに来たのかと思ったが、違うようだ。

 男爵夫人は自分が殺されることを恐れているだけ。娘の安否は気にしていなかった。

 契約書の存在は、彼女の心を暴いても知ることはできなかった。


「団長、ヴァニタ男爵家に行きましょう。使用人から契約書のありかを吐かせます」

「わかった!」


 力の使い過ぎで頭が沸騰したように熱い。俺は余裕がなく、団長と共にヴァニタ男爵邸に突入して、すぐ使用人たちに向かってほえた。


「王都騎士団だ! ヴァニタ男爵がマフィアと繋がり、職人に不当労働をさせている事実は掴んでいる! 契約書を出せ!」

「はっ……はいっ」


 タキシード服を来た執事らしき男性が慌てて、ヴァニタ男爵の執務室へ案内する。震える手で差し出してきたのは、伯爵と男爵の取り引き書だ。


「ヴァニタ男爵が工房を受け継いでからの帳簿、全てを出してください。隠すと身のためになりませんよ」


 執事は小刻みに震えながら、執務室の引き出しを開け、荒らす勢いで、書類を出してきた。それを確認しながら、執事に問いかける。


「ヴァニタ男爵はどこに……?」

「だ、だんなさまはっ……そのっ」


 まどろっこしくなって、俺は心の声を聞いた。その声が吐露した場所は、ライラさんがいる工房。かっと脳天に血が昇り、俺は駆け出していた。


「おい、ルキーノ! どこにいくんだあああ!」

「ライラさんの工房へ! 後は頼みます!」

「ちょっ、おまっ、また熱が出てるだろ! おいいい! まーてーよー!」


 屋敷が飛び出したところで、リバウンドがきた。

 吐き気がこみあげ、俺はとっさに植えてあった木に嘔吐した。

 玉の汗が額から滴りおち、胃の中が空っぽになる。気持ち悪い。嫌になる。

 力があっても、体が脆弱すぎる。俺は空回ってばかりだ――


「――それが、なんだっていうんだ……」


 ふらつく足を踏ん張り、駆け出す。

 ライラさんの顔が見たい。彼女が無事なのか、一刻も早く確認したい。

 その一心で、足を動かしていた。

 

 

 工房にたどりつき扉を開いて見えたのは、ライラさんがヴァニタ男爵に首をしめられている所だった。ライラさんはマフィアに暴力をふるわれたわけではなかった。

 血のつながりがあり、養父である人から暴力をふるわれていたのだ。

 俺は、彼女を知っていたのに。彼女の辛さを知る機会は、幾度となくあったのに。

 またも、俺は彼女を守れなかった――

 

 その後は、よく覚えていない。

 マフィアの大男たちを叩きのめし、ヴァニタ男爵とライラさんを引き離した。そして首にあざができたライラさんを抱きしめていた。体は限界で、意識が途絶えそうになる。情けなくて。悔しさをライラさんにぶつけてしまったような気がする。


「ほんと、俺はくそったれな魔法使いだな……っ」

 

 彼女を助けるつもりが、ライラさんを抱きしめながら、意識を失いかけていた。

 情けない話だ。

 くらむ視界の中で、彼女から団長がヴァニタ男爵とマフィアを拘束した聞いて、ほっとした。ライラさんはおろおろしていたが、彼女が目の前にいて、俺はひどく安心した。


「ライラさん、ライラさんっ……」

 

 ライラさんこそ、俺のフェアリーテイル。お守りみたいだ。

 離したくなくて、彼女の手を掴んだまま、俺は意識を失った。


 ***


 目覚めた時、ライラさんは俺の手を握っていた。安心しきった寝顔だったけど、前に見た時より、やつれていた。首のあざは色濃くなっている。心がチクりと痛んで、俺は彼女の手を握り返していた。

 自分が寝かされていたソファに彼女を運び、傷の手当てをしようと工房を見渡す。

 すると、職人のひとりが起きていた。


「騎士様、起きたんですかあ~!」

「……迷惑をおかけしました」

「とんでもないですわあ。お嬢を助けてくださって、ありがとうございます」


 職人が頭を下げてきた。俺は恐縮して、首を横にふる。


「俺の方こそ、ライラさんに助けられていたんです……」

「そうなんですかあ?」

「ええ、あの……ライラさんをお願いします。俺は詰所に戻ります」

「わかりやしたあ~!」


 職人に彼女の手当てを任せ、俺はヴァニタ男爵がいる詰所に戻った。

 ヴァニタ男爵は夫人と同じく、錯乱していて話にならなかった。

 拘置所の中で、醜く夫婦でののしり合っている。

 「あなたのせいだ」と喚く夫人。「お前に何がわかる!」と怒鳴る男爵。

 フランカ嬢は放心していて、両親を見て怯えていた。

 わがままを言いたい放題で、現実を見ようとしなかった彼女にも責がある。

 自業自得だ。


「男爵は、王都の刑務所に収容されます。マフィアへの繋がり、未成年者の養育放棄。過剰労働。職人たちへの不当労働。ギルド規定違反。これだけで、実刑は免れない」

「わ、わたしは、家名を守るために……!」


 まだ言い訳する男爵にプツンと血管が切れた。


「犯罪をしてまで、守らなければいけないなんて。そんな家名、いらないでしょう?」

「あっ……」

「あなたは借金という、自分の失敗を職人たちに押し付けた。さらに、暴力で強制的に働かせた」


 震えあがる男爵に冷たい言葉を矢のように放つ。


「そんなことをして、赦されると思っているんですか」


 目を泳がせながら、黙ってしまう男爵。俺は男爵夫人に目を向けた。ひっと声を出す彼女に話しかける。


「料理人に聞きましたが、ライラさんへの食事をわざと作らなかったそうですね。あなた方に引き取られてからの4年間、彼女はキッチンの隅でひとりで、残り物を食べていたそうですね。あなたもまた、養育者としての義務を果たしていない」

「あ、あっ……」

「あなたは、ライラさんの養育者として失格です」

「っ……!」


 押し黙る男爵夫人から目をそらし、最後にフランカ嬢を見やる。


「フランカ嬢。男爵家は赤字でどうしもなくなっていたんですよ。男爵家は、ライラさんたち職人たちの稼ぎで存続できていたのです」


 俺は愚かな彼女に、愚か者の烙印を押す言葉を吐いた。


「あなたがキレイな服を着られていたのも、学園に通えたのも、すべてはライラさんたちが稼いでくれたからなんですよ。それを知らずに、あなたは彼女を見下していた。自分のやっていることが、恥ずかしいと思わないんですか?」


 嫌悪のこもった目で見ると、フランカ嬢は顔を真っ赤にして下唇を噛みしめた。


 ヴァニタ男爵と、大男のマフィア、ふたり。三人は王都騎士団に連れられて、アルノから去っていった。刑務所の中で、就労することになる。後日、男爵家の爵位返上が決まり、借家だった男爵家は、契約を解除。使用人や、職人の給料を払うために家財道具は売り払われた。

 使用人たちはギルドで職探しをすることになる。

 男爵夫人は慈愛施療院に身をおくことになり、フランカ嬢は未成年ということで、養護施設に入った。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] うわぁ…… ヴァニタ夫妻、醜いなぁ…… なんかフランカに、同情してしまう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ