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魔性の騎士様をイチオシしていたら、不遇生活が終わりました  作者: りすこ


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12/19

12 これからもイチオシはイチオシです

 こうして私はアルノの町で家を探す前に、王都に国内留学することなった。

 なんと留学の費用は特待生として免除されるらしい。

 その代わり二年後に王太子妃殿下が直々に審査するそうだ。

 王太子妃殿下は私をイチオシと言ってくれたから、期待に答えたい。

 アルノに戻った私は、パウロたちに事情を説明した。

 パウロたちは、涙を流して喜んでくれた。


「お嬢! さすがですわあ! わしらのことは気にせず、学んできてください!」

「……ありがとう、みんな。帰ってきたら、もっといいものを作れるようになるわ」


 詰所を出る時、団長さんにもご挨拶をした。

 団長さんは半裸に戻っていた。


「お世話になりました」

「おう、元気でな。王都でルキーノと会うんだろ?」

「はい。ルキーノ様が王都と案内してくれるんです」

「そうか。ルキーノと幸せにな」

「え?」


 ありえないことを言われ、目を点にする。

 団長さんも目を点にする。


「……おまえら、付き合ってんだろ?」

「なっ……! 何を言ってるんですか! 半裸で!」

「はあああ? 付き合ってねえのかよっ?!」

「そんな罪深いことできるわけないじゃないですか!」

「なんでだよ! もう付き合っちゃえよ!」

「相手は極上のイケメンなんですよっ!」

「イケメンだって、男は男だろ?」


 団長さんは嘆息して、腕を組んだ。


「よくわらんが、ルキーノはライラのことを心配してたぞ。まあ、あいつはあいつで色々とあるから、よく話すことだな」


 そういって、団長さんは優しい笑顔になった。


「ひょろっとしていたのが、マシになったな。王都でも、ちゃんと食えよー」

「ちゃんと食べてますっ」


 照れくさくなって、ふくれっ面になる。

 それでも団長さんは朗らかに笑っていた。

 アルノに戻ってきたら、仕返しに団長さんが似合う服を作ってやる。

 なめらかな革の上着を着せて、健康優良児から、色男に変えるんだ!

 そんなこと思いながら、私は乗り合い馬車で王都に向かった。

 待ち合わせの時計塔に行くと、ルキーノ様が待っていてくれた。


「ライラさん」


 ルキーノ様は前身頃の幅が広く重なり、ボタンが二列ある黒いコートを着ていた。乗馬服のようなハイエストのズボンに私が作った編み上げブーツを履いている。手にはステッキとシルクハットがあった。


 まるで貴族様だなと思っていたら、ルキーノ様は本物の貴族だった。


「……え? ルキーノ様って貴族様なのですか……?」

「そうですね。一応、伯爵位は持っています」

「伯爵様っ?!」

「……父が早逝したので」

「……そうだったんですね」

「両親はいなくなりました。母の顔は知らないんです」

「え? そうなんですか……私と一緒ですね」


 そういうと、ルキーノ様は意外そうな顔をした。


「私は父の顔を知りません」

「そう……ですか」

「でも、亡くなった母は父を悪く言いませんでした。だから、悪い人じゃないかなって思うんです」


 イメージだけど。照れくさくて頬をかくと、ルキーノ様は微笑する。

 悲しそうな笑顔だった。


「……俺も父から母の悪口を聞いていません……」

「じゃあ、良い人かもしれませんね」


 明るく言ってみると、ルキーノ様は目を伏せた。


「そうだといいです。それで提案なのですが、王都にいる間は、俺の屋敷に滞在してください」

「えっ……そこまでお世話になるわけには……」

「また、ライラさんと一緒にご飯が食べたいです。……いけませんか?」


 寂しそうに言われてしまい、断れなかった。

 私だって、ルキーノ様と一緒にご飯を食べたい。

 一人で食べるのは味気ないから。


「……ごはん……わたしもたべたいです」


 小さな声で言うと、ルキーノ様は幸せそうに微笑んだ。


 ルキーノ様のおうちは、とんでもく豪華な邸宅だった。

 叔父の家と違って、手入れが行き届いたレッドカーペット。古き良き邸宅の趣がある。

 目を惹いたのは、庭に池があるところ。

 ここだけ空気が澄んでいる。すてきなおうちに私は舞い上がった。


 王都で有名な工房に弟子入りして、いちからデザインを学ぶ日々が始まった。

 そんな中、ルキーノ様とおでかけもした。

 ……でぇーと、できたのです。

 その日は、伯爵家の使用人が腕によりをかけて着替えさせてもらい、私はまったくの別人になっていた。

 袖口にフリルがついたワンピース。スカートはふわっと軽やかなものだ。

 くせの強い茶色い髪は編み上げてくれて、お嬢様みたいだ。


「ライラさん、きれいです」


 フロックコートを着たルキーノ様に手を取られ、エスコートされる。

 まるで自分は彼の特別みたいだ。

 とくんと高鳴る鼓動のままに、尋ねてみてもいいだろうか。


 あなたは私の特別。あなたの特別は私ですか? って。


 まだ勇気が持てなくて、聞けたのはデートが終わる頃。

 町がひっそりと夜の帳に包まれ、オレンジ色のランプの光りが灯る。

 空は妖精が飛んでいるみたいに瞬いていて、うっとりとしてしまう。

 静かな広場でルキーノ様と並んでベンチに座った私は、なけなしの勇気を振り絞った。


「あの……ルキーノ様っ」

「はい。どうしましたか?」

「ええっと、そのですね……」


 私はぎゅっと手を握りしめ、一度、深呼吸した。

 そして、しっかりとルキーノ様の顔を見つめる。


「ルキーノ様は、私にとって特別なんです」

「え……」

「私のイチオシなんです!!」


 緊張しすぎて、発狂しながらいう。


「ルキーノ様に出会ってから、私の人生はバラ色だったんです!! 見ているだけで尊くて! 元気になれて! ……それなのに叔父からも助けてもらって、今だって……」


 いつのまにか瞳からは、ぼたぼたと涙が流れていた。

 感極まってしまい、感情はぐちゃぐちゃだ。

 でも、これだけはしっかりと言っておこう。

 ほら、笑って言うのよ。


「あなたに出会えて、私は幸せです! ルキーノ様は……妖精さんみたいです」


 いつも私を守ってくれる。見えない妖精さん。

 ルキーノ様のオパール色の瞳を見つめながら、にっと笑う。


「これからも私のイチオシはルキーノ様です! また、衣装を作らせてください。二年間、しっかり勉強して、今度こそルキーノ様にふさわしいものを作ります!」


 次の約束をするだけで充分だ。

 伯爵様と小娘じゃ、身分が違うもの。

 お抱えの職人になれれば、いいじゃない。

 そうよ。それ以上の未来を望んではいけない。

 叶わなかったとき、苦しくなるだけだ。


 切ない気持ちを心の中に押し込んで笑ったら、ルキーノ様は苦しそうな顔になった。

 ふわりと、異国の香りが近くなる。


 気がつくと、彼の腕の中にいた。


「……ライラさん。聞いてほしいことがあります」


 後頭部に手を回され、ぎゅっと隙間なく抱き寄せられる。

 ルキーノ様の手は少しだけ、震えていた。


「……あなたが妖精を好きというたび、俺は苦しかったんです……」

「え……」

「でも、救われてもいたんです。……俺は、妖精から力をもらった『愛し子』なんですよ」

「ようせいさんから?」


 ルキーノ様が私から離れる。


「俺はとても弱い、魔法使いなんです……」


 そういったルキーノ様は今にも泣きだしそうだった。




次話からルキーノ視点になります。

時間が巻き戻って、ライラと出会う前から始まります。

不定期の更新にお付き合ってくださって、ありがとうございます><

もう少し、お付き合いくださると嬉しいです。

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