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魔性の騎士様をイチオシしていたら、不遇生活が終わりました  作者: りすこ


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11/19

11 イチオシは優勝したけれど

 ルキーノ様が優勝した。

 もうそれだけで感動して拍手喝采だったが、衣装のコンテストがまだあった。

 五十名の衣装を審査員が見て、騎士の順位とは関係なくデザイン性を見るものだ。

 一位から三位までは報奨金とメダルがでる。

 来賓として招かれた、王太子殿下と彼の妻の王太子妃殿下から直々にメダルの授与があった。


 審査が終わり、コンテストの発表会場に来た私はガクガク震えていた。

 ルキーノ様が眉をさげて、声をかけてくれる。


「ライラさん、……大丈夫ですか?」

「……緊張して、吐きそうです……」

「えっ」

「……大会に出場したことなんか、ないですし……」


 自分なりに精一杯、頑張って衣装を作った。胸を張れる。

 でも、評価されるというのはまた違うだろう。

 好きで作ったものが、他人の目からどう見られるのか。

 今まで気にならなかったことが、急に気になってしまった。

 人の視線が心にチクチク刺さり、逃げだしたいくらい怖い。


 震えていると、ルキーノ様は手をつないでくれた。

 びくっと震えて、見上げると、優しい笑顔がある。


「ライラさんは充分、頑張っていました。きっと、認められます」


 泣きそうな気持ちで、皮手袋を握り返す。

 こくんと頷いて、発表を聞いていた。


 第三位から発表され、次は二位。

 なんと、バルダッサーレ様だった。


「おめでとうございます!」

「うむ。一位には手が届かなかったか」

「充分、すごいです!」


 手が痛くなるほど、拍手をする。バルダッサーレ様は照れくさそうに咳払いをした。

 バルダッサーレ様は壇上にのぼると、王太子妃殿下からメダルを授与されていた。

 その姿をうっとりと見つめる。

 正直いうと、かなり羨ましい。私もあの場所へ立ってみたい。


「次は、一位です!」


 司会が声を張り上げ、ドキドキしてきた。

 自分からぎゅっとルキーノ様の手を握ってしまう。

 握り返された手を感じながら、私は必死に念じる。


 無理だと思っても、期待はさせて!

 職人として認められたいっ

 お願いだから、夢が叶って!


「一位は、ランゴバルドの――」


 職人の名前を発表をされた。

 どっと歓声が沸き起こる。

 一位はスタイリッシュな騎士服を作った職人だった。

 職人の周りに人が集まり、拍手が巻き起こった。

 人々の笑顔を見て、愕然とした。


 ……ああ、やっぱり。……ダメだった……


 悔しい。未熟な自分が悔しい。

 ルキーノ様は優勝したのに。


 私は、それに見合うものを作れなかった。


 じわっと目頭が熱くなる。泣くのはみっともないぞ。

 こら! オワッタとか思うんじゃないっ! 私!


「ライラさん……残念でしたね」


 ルキーノ様が口惜しそうに言ってくれる。

 その言葉を聞いたら、余計に悔しくなってしまい、私は返事ができなかった。


「なお今回は、王太子妃殿下より特別賞の発表があります」


 司会の声に、顔をあげる。

 腰まである長い黒髪の王太子妃殿下が口を開く。


「各地の特色がでた素晴らしい衣装ばかりでした。王国の伝統を守るみなさまに敬意をはらって、また伝統が末永く続くことを願って、若い職人の中から特別賞を選びました」


 王太子妃殿下がこちらを向く。女神みたいに微笑まれた。


「特別賞は、アルノの職人、ライラ」


 職人と呼ばれたことに、頭の中が真っ白になった。


「すげーじゃねえか、ライラ!」

「……よくやった」

「ライラさんっ おめでとうございます!」

「やったぜええええっ!」


 団長さん、バルダッサーレ様、ルキーノ様に言れたけど、あまりの衝撃に反応ができない。


「ライラさん、呼ばれていますよ」

「えっ……」


 ルキーノ様が手を離し、私の肩をそっと押す。

 ふらりと足を動かし、壇上を昇った。

 一段あがっただけなのに、見える景色が違った。

 王太子妃殿下が声をかけてくれる。


「あなたの作品には輝くものがあったわ。これからのあなたに期待してこれを」


 そう言って、王太子妃殿下は紋章入りのハンカチを私の手首に巻いた。

 上質な布の感触がした。

 刺繍された王家の紋章を見て、これが夢じゃないんだと実感する。


「あなたのその手で、人の心を動かすものを作り上げなさい」


 微笑みを見て、胸がいっぱいになった。

 私の作ったものが、誰かの心に届いたんだ。

 私の好きなものが伝わったんだ!

 嬉しい、嬉しいっ……!

 あがいて、もがいて、よかった!


「はい! 頑張ります!」


 大きな声で返事をすると、どっと歓声が沸き起こった。



 後日、王太子妃殿下に呼び出された私は、さらに衝撃なことを言われた。


「わたくしね。スコッパーなの」

「すこっぱー……ですか……?」

「ふふっ。宝石になる原石を見つけて、あの手この手でイチオシするのを生きがいにしているの」


 にっこりと笑った王太子妃殿下に、目をぱちくりとさせる。


「わたくし、生まれる前の記憶が鮮明でね。その時、わたくしはとある小説投稿サイトで貪るようにアマチュア作家の小説を読んでいたの」

「は、はぁ……」

「そのサイトではね。スコッパーと呼ばれる先駆者がいて、小説の広報をしていたのよ」


 よく分からないが頷いておこう。


「わたくしもドキドキしながら広報しようと思っていたの。でも、レビューを投稿する前に病死したのよ」

「お亡くなりに?!」

「……無念だったわ……」

「大変でしたね……」

「ふふっ。だからね。生まれ変わって権力を持ったら、スコッパーになろうと思ったの」

「……そうだったんですね」

「それでね。わたくしはあなたをイチオシすることに決めたわ。将来、わたくしのための革製品を作ってもらいたいわ」

「えっっ……私がですか?!」

「あら、謙遜してどうするの? これはチャンスと見てほしいのよ」


 王太子妃殿下は、黒い目を細くした。


「あなたは一流の職人になれるはずだわ。そのためにも、王都で学ばない?」

「え……」

「王都では一流の職人が集まっているわ。彼らの技術を学ぶのよ。最低でも二年」

「二年……」

「その頃には、あなたは成人しているわね。一流の職人として工房を運営できるのではないかしら?」


 魅惑的な提案をされても、すぐに首を縦にふれなかった。


「あ、あの……工房は……叔父が工房を経営していたのですが……その……逮捕されてしまって……」


 犯罪者の身内を持つ私が、いいのだろうか。


「……光栄な話ですが、工房がなくなるのは……その、嫌で……」

「それなら、安心して。アルノにあるあなたの工房は、そのままでいいのよ」

「え……」


 実はバルダッサーレ様が王太子殿下に嘆願をしたらしい。

 未成年だが、見込みのある職人がいる。必ずお眼鏡にかなうものを作るようになる。

 経営者がいなくなって、工房を無くすのは実に惜しい。

 まずは職人を見てもらいたい。

 そう熱心にいってくれて、私は衣装づくりに抜擢されたのだ。


「バルダッサーレ卿の力だから、とは思わないでね。わたくしと王太子殿下で話し合った結果よ」


 私が学んでいる間は、工房はそのまま。経営はバルダッサーレ様が見てくれるという話だった。


「どう? 王都で学ぶ?」


 再度、問いかけられ、腹の中が熱くなった。


「やりたいです」


 思いを言葉に込める。


「特別賞は頂きましたが、私はまだまだだと痛感したんです。私は、もっと腕を磨きたいです」


 そしていつか。

 優勝したルキーノ様に相応しい衣装を作るのだ!

 それが、私の次の夢。

 頬を真っ赤にして言い切ると、王太子妃殿下は輝くような笑顔になった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] うっうっうっ…… ライラ…… (´;ω;`) 今までの頑張りが報われて、よかった……
[一言] まさかの転生者が 有望な若者が良い環境で研鑽を積むのは素敵ですね
[一言] 王太子妃殿下がまさかの……! スコッパー! 彼女の信念がカッコいいですね! 惚れた!
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