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6 愛する白薔薇へ


ノアが持ち場に戻ると窓の外では侍女数名と談笑する皇女の姿があった。


 もちろんその隣には、愛しい人の姿が見える。


 今でも鮮明に思い出せるのは、初めてあった日の記憶だ。


『は、はじめまして。わたし、ロザリー。ロザリー・メイザーというの。よろしくね』


 怖々とした様子でノアに挨拶するロザリー。


『僕は、ノア・ベルガー。よろしく』


『ノア、ノアくんって言うのね!よろしく!』


 同年代の、友人が出来たことが相当嬉しかったのか彼女は幼いノアの手をブンブンと振った。

 白髪、蒼眼という冷たそうな見た目にそぐわない性格にノアは驚く。

 そして、にっこり笑う愛らしい少女にノア少年の初恋は奪われてしまった。


 それから十数年、こじらせに拗らせた恋心は実らない。否、ロザリーの父親が過保護で中々婚約にたどり着けないのだ。

 

 流石は侯爵家。跡継ぎ、家の繋がり全てが揃っているが故に娘には自由に生きさせている。

 

 そして、ノアがほとんど握りつぶしているはずなのに何故かロザリーの元に来る縁談も現メイザー家当主に断られているらしい。


 なんでも、ロザリーの耳にすら届かせない徹底ぶりだという。


 ノアが婚約の打診をしても、


 『お前のような若造に愛娘は渡せん』


 と言われる始末だ。

 いや、正確には父が打診したところやんわりと断られたので無礼を承知でノアが直接頼み込んだのだが。


 そんな、ノアの内心を知ってか知らずか、仲間たちがひそひそと話し始めた。


『真顔なのが微妙に怖いんだが』


『しっ、聴こえるぞ』


 聞こえている。そう言いたくなるが、それよりも割り振られた仕事をしなければ、とノアは思う。


 やる気のない緩慢な動きで準備をしだした。


 無限に見ていられる絵画のような光景から離れ、むさ苦しい男どもの方を向くとどうしても気分が沈む。


 今日は確か剣術の訓練指導だったはずだとノアは思い出す。


「始めるぞ。そこのお前」


 ノアは真顔だなんだと言っていた騎士を指名する。


「お、おれですか?」


「お前だな。これから見本を見せるからその相手になってくれ」


 にっこり、後ろに魔王が見えそうな笑みでノアは言った。ひぃ、という声は恐れによるものなのかそれとも。


「……ベルガーさんめっちゃ機嫌悪いな」


 ぽつり、騎士が一人こぼす。周りにいた男たちも心の中で頷く。

 あぁ、今日団長に呼び出されてまた無茶ぶりされたんだろうな。と。

 

 幸いな事に、一人の騎士が洩らしたつぶやきは訓練所へ向かうノアの耳には届いていなかった。


 聞こえていたら、きっとこの騎士も良い練習台になっただろうが。

 

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