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37 やり取り


採寸が終わると次はデザインの話し合いだった。


「青色がいいかなぁと思っていて」


 メイリリーが店主に要望を出すと、店主はデザイン案を幾つか見せてくれた。流行りの形のドレスのラフ画がロザリーたちの座るテーブルにいくつか広げられる。


「最近は、こういったものが主流……流行っております。こちらは、少し前のデザインにはなりますが根強い人気がありますね」


 店員が説明を続ける。メイリリーは目をキラキラと輝かせながら見つめていた。



「このデザインがとても可愛くて私は好きです!」


「お目が高いですね。こちらは、帝国の皇女さまが着てから流行り始めたのですよ」


 店主が満面の笑みを浮かべた。ロザリーもそういえばこちらの店主を見かけたことがあったかもしれないとふと思い出す。

 皇女の良さを全面に引き出したそのドレスは首元をしっかりおおっているけれど胸元は強調するように少し隙間ができているものであった。

 ふんわりとしたリボンで首元をまとめたそれはホルターネックというらしい。上には白色のボレロを羽織りプリンセスラインのそれはとても皇女に似合っていた。

 ロザリーの思考が完全に移行する。メイリリーにロザリーが飛んだ意識を戻す。


 皇女、という言葉を聞いた途端にメイリリーの口元がひくついた。


「そ、そうなのね」


 落ち着かない様子で彼女はソワソワとしだした。店主はその様子に気づかない。ロザリーも、メイリリーが皇女を悪く言っているのを知らなければ気づかないであろう変化であった。


 けれど、メイリリーは先程までとは異なり、乗り気で無いような様子で店主の話を聞いていた。


「皇女さまに御依頼をいただいて以降、うちの売上が急上昇しまして。それに、殿下からお褒めの言葉までいただけたのですよ」


「え、えぇ。こちらはどうなのかしら」


 メイリリーは店主の気をそらそうと別のデザイン案を指し示した。シンプルなデザインのドレスでメイリリーが好むデザインでは無さそうなものであった。


「こちらは、シンプルで根強い人気のあるものですね。ですが、メイリリーさまのご希望するデザインとは少し違うかもしれません」


「そうなの」


 しょんぼりとした様子でメイリリーは言う。スカートの裾が広がったデザインのドレス。


「メイリリーさまどうなさいますか?」


「どうしましょう」


 一番最初に示したドレスが彼女の好みだったのだろうがエルフリーナという言葉を聞いてしり込みしているらしい。


 ほんの少し同じ時間をロザリーはメイリリーと過ごしただけであったがメイリリーらしいと思ってしまった。


「一番最初のデザインがメイリリーさまに似合うのでは無いですか?」


「そうですよね、その案を元にして作るのはどうでしょうか?」


「そ、そうよね」


 メイリリーの机の上に上がった手が真っ白になるほどに握られていた。落ち着かない様子ではあった。ロザリーはメイリリーの斜め後ろに立っているため表情はうかがえない。


「このデザインが一番いいかしら?」


「そうですよ!メイリリーさまなら王太子殿下のお隣にたっても見劣りしないほど素敵に着こなせると私は思います!」


「あ、ありがとう」


 侍女がメイリリーにまくし立てる。メイリリーは圧倒されたような様子であった。店主はやり取りをする二人の様子を微笑ましいものを見る表情で見ていた。


「他のデザインは無いのかしら?」


 少し考えた後、メイリリーが店主に尋ねた。店主は口元に手を当てて考え込む。


「有る、にはあるのですが。古いものですので舞踏会や夜会に着ていくには向いていないかと」


「一応見せて貰うことはできるかしら」


「あまりおすすめはしませんが」


 店主が席を立って店の裏側に行く。メイリリーは少しほっとしたような様子だった。


「メイリリーさま、古いものでなくてもこれでいいのでは無いでしょうか?」


「うーん、なんか私これじゃないなぁって思って」


「そうなんですね」


 二人が話す間に店主がいくつかの案が書かれているであろう紙を持って出てきた。


「こちらになります」


 椅子に腰掛け、テーブルに三つほど紙を広げた。店主の出したデザインは確かに少し古いものであった。五年、六年ほど前のものだった気がする。


 気がするというのは、ロザリーは基本ドレスを作ったり着たりしないからなんとなくそんな感じがしたといったところだった。


 皇女さまならいつ流行っていたかすぐに当てるのだろうな。


 と、またロザリーは思案にふける。


「やっぱり、一番最初の案にしてもいいかしら?」


「えぇ!分かりました。デザインが完成しましたらご連絡をしたいのですが」


  メイリリーはしょげた表情で一番最初の案を店主に差し出した。店主は嬉しそうに笑う。


「城の方に、私ロザリー・メイザー宛に連絡をいただけますか?」


「分かりました、でしたらここにサインを」


 メイリリーと侍女が帰る準備をする間に色々と進めていく。


「あんなに可憐な方ですと私も腕が鳴りますね」


「それは良かった」


 店主にサインを渡すとロザリーは店を出る。そして、馭者を呼びに走った。

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