35 馬車の中
「それでね、その時ヴィル様がわたしに髪飾りを送ってくださったの」
「まぁ、それはメイリリー様は愛されておりますね!」
「でしょう!」
馬車に揺られながら目の前で繰り広げられる女子トークをゲンナリした顔でロザリーは見守る。一応、ヴィルヘルム王太子殿下はエルフリーナ殿下と婚約関係にあるはずなのだけれど。と言いたいのをぐっと堪えた。ロザリーは出来る子なのであるから。
あぁ、エルフリーナ様の隣で護衛をしたい。エルフリーナ様のご尊顔を、彼女の言葉を一言一句聞き逃さないようにしていたい。
なんというか、エルフリーナとメイリリーのあり方が真逆過ぎるためロザリーは現実逃避をしているのだった。
「ロザリー様はどう思います?」
急に、ロザリーにメイリリーが話を飛ばしてきた。なんとか直前の会話を思い出す。横にいる侍女もロザリーをキラキラとした瞳で見ていた。
この人たちはどんな意見を求めているのか、それだけで察することが出来た。
「私はただの護衛ですのでコメントは控えさせていただきます。無用な事を申してはメイリリー様のお心を乱してしまいかねませんので」
別に興味無い、という言葉を何度もヴェールに包む。流石に、エルフリーナ殿下がいながら別の女にかまけているところは腹が立つ。というセリフは飲み込んだ。
「ロザリー様は真面目でいらっしゃるのね!」
馬車の中で無かったら抱きつかれていたであろう勢いでメイリリーは手を叩いて喜ぶ。なんだか脳と行動が直結していそうな少女だとロザリーは改めて思ってしまった。
「王太子殿下から夜会の服もメイリリー様はいただけるなんて……。愛されていないと有り得ませんよ」
「ヴィル様はわたしに優しいのよ」
照れたようにメイリリーが侍女の言葉に反応した。なんとも言えないむかつきがロザリーを支配しそうになる。
どうしようもないため、ため息をつきそうになるのを堪えて馬車の外を眺める。
ロザリーは普段馬に乗っているため馬車は久しぶりだった。エルフリーナの護衛をしている時も、ロザリーは基本的に馬に乗って護衛をする事が多い。
故にごとごと馬車に揺られているのも懐かしかった。日差しが暖かい。
今日のような日こそは馬に乗って外にいたら気持ちいいだろうに、外の流れる景色を見つつロザリーは考える。
ロザリーも一緒に乗って欲しいとメイリリーが言わなければロザリーは今頃愛馬に乗って外にいることが出来ただろうに。なんとも、ロザリーにとってメイリリーは制御の効かない存在。まるで天気のようなものであった。
「最近の流行りは、どんなものなのかしら」
「うーん、確か首元まで隠すデザインが廃れて方を広く見せるデザインが流行っているのだとか」
「ええっ本当なの!?そんな大胆なデザインが……」
ロザリーが混ざらなくともメイリリーと侍女の会話は進んでいく。釈然としない気持ちをロザリーは抱えたまま馬車は目的の場所まで進んで行くのであった。
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