33 悩み事
あるには、あるのだけれどもアンに言っても大丈夫なのだろうか。
「えっとね、メイリリー嬢がたまによく分からないつぶやきをしていること……とか?」
「へぇ、なにそれ面白そう」
アンが大きな目を更に見開く。視線が完全にアンの考えていることを物語っていた。つまり。
もったいぶってないで全部吐け。
と。
さっきまでは痴話喧嘩の延長。なんか少し面白そうだから首を突っ込んでみようかという雰囲気だったのに一瞬で様変わりしていた。
「どんな独り言なの? 場合によっては皇妃様に報告しなきゃいけないのよ。何せ、王国の王太子を誑かした女狐の独り言だからね」
ゾッとするような見蕩れるような、そんな表情でアンはロザリーに告げた。ロザリーは起き上がり、周りを見渡す。
先程までの弱気なロザリーはどこへいったのか、凛とした空気が漂う。結局持ってロザリーもアンと同じ側の人間なのだ。
周りの人が少なくなり、ロザリーの声がアン以外に聴こえないタイミングを狙う。
盗み聞きをしてくる人間への対策だった。
「そうね『なんであのエルフリーナが聖女とか聖人みたいな扱いをされているのよ』とか」
「へぇ」
アンの表情が強ばる。アンもロザリーと同様にエルフリーナを慕っているのだ。いくら又聞きとはいえエルフリーナを貶す言葉は許せない。
アンと同様に、ロザリーもエルフリーナを酷い言葉で罵ろうと、汚そうとするメイリリーは許せなかった。けれど、彼女は王太子の付き添いという身分を得て帝国にいるため見て見ぬふりをするしかないのだ。
「他には?」
アンが、ロザリーの方へと身を乗り出して聴く。
「たまに何を言っているのか分からないことが多いからなんとも言えないけれど聞き取れたのは『なんでロザリンデが普通にいるのよ』かなぁ」
「ロザリーが働いてるのが気に食わないのかしら?」
アンが首を傾げた。ロザリーも口元に手を当ててうーと唸る。ロザリーがいるとメイリリーになにか不利益があるのだろうか?
「分からない。というか心当たりが無さすぎるのよね」
アンも、ロザリーも首を傾げてうなるしかない。ノアとロザリーが仲が良いから。そんな仮説が一瞬頭を過ぎったけれどメイリリーにノアとロザリーが話しているのを目撃された記憶は少なくともロザリーには無いから違うだろう。
むしろ、ロザリーがどちらかと言えばメイリリーとノアの仲が良すぎて胸に謎のモヤが溜まっているのだ。これはやきもちなんかでは無いとロザリーは内心思い、思考を散らすために首を振った。
「どしたの?」
アンがロザリーの様子に気づいて話しかけてくる。
「なんでもない、思考がこんがらがっちゃって」
「あー、そうだよね。私も訳わかんないし、皇妃様に報告するのもどうしたらいいものか悩むもの」
二人でうんうん悩んでいると昼食の時間の終わりを告げる鐘が鳴った。
「お昼の時間もうおしまいだわ」
アンが急いで食器を片付け始める。
「私も、行かなきゃ」
ロザリーもバタバタと準備を始めた。やりたくないとはいえ、これも命令された任務だ遂行せねばなるまいと小さくため息をついた。
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