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32ヤキモチを妬くなんて


そこにいるのはノアだろうか?


 朝、少し早めに来たロザリーは真っ黒な短髪を中庭で見つけた。朝に弱いノアがいるのは珍しい。朝は大抵不機嫌で、手が付けられないこともあるノアがなぜここにいるのか、という疑問がロザリーの頭に浮かんだ。


 話かけようと近づくと、どうやら他に人がいるらしい。ノアともう一人、女の子らしき話し声が聞こえた。珍しい事もあるものだと、思うと同時にモヤモヤとしたどす黒いものが胸の中を締めていく。


 ノアは、私と婚約しているはずなのに。


 そう、よく分からない考えが頭に浮かんだ。契約であり、ノアの贖罪からなる婚約でしかないのに。もしかしたら、私はノアの事が。


 ありえない、とロザリーは頭を振って思考を逃がす。ノアが立ち去る。ロザリーも慌てて、持ち場に向かった。


 このモヤついた考えがずっと続いていくともしらずに。




 あの日からしばらく立った日のこと。

 

「ロザリー、最近浮かない顔じゃん?大丈夫なの?」


 昼食をロザリーが一人でとっていると、皇妃付きの侍女を普段しているアンがやってきて言う。


「分かんない」


「ロザリー、不機嫌というか、調子が悪そうというか。うーん、最近皇付きの侍女達だけじゃなくて皇女付きの侍女達からもロザリーの気が立ってるって噂になってるのよね」


 行儀が悪い事だとは知りながらも、ロザリーは食べ終えた皿をトレーごと退かしてから机につっ伏した。頬が机に当たる。長い髪が顔にかかった。


「そうなんだ」


「特に、メイリリーだっけ?あの子が来てから特に酷いって。みんな言ってる。なんかあったの?」


「なんにも」


「嘘つけこの無口娘。わたしには話しなさいよ。こちとら何年あんたといると思ってるのさ?」


「分かんない」


 カトラリーを持っていない方の手で頬をむにむにつつかれた。ロザリーの表情筋は薄いし、脂肪も頬に付いていないため地味に痛い。視線をアンに移すと、彼女はこちらにじとっとした視線を向けていた。


「あのね、」


「話す気になったのね」


 アンが嬉しそうにロザリーに言った。そりゃここまで問い詰められては仕方がない。ロザリーは色々と言いたいことを呑み込んで言葉を続ける。


「私さ、メイリリー様のお付になったのよ」


「知ってる。というか、そこからでしょあからさまにあんたの機嫌が急降下していったのは」


 慰めてくれるのかと思いきや、ざくざくアンは言葉の槍で刺してくる。ここがアンのいい所であり、欠点なのだ。それもスープを音ひとつ立てず上品に飲みながら、だと言うのだからさすが皇妃付きの侍女だ。


「でね、私見ちゃったのよ」


「何をよ」


「その、えっと」


「もったいぶらずに言いなさいよ。お姉さんが聞いてあげるから」


アンが軽口を言う。こういうところがロザリーは好きだ。雰囲気を重くするのではなくて軽くしようとしてくれるところが。


「ノアとメイリリー様が、朝早く中庭で談笑しているところ」


「え?」


「それも仲良さげだったのよ」


「貴女、冗談もよしなさいよ。ノアってロザリーにゾッコンです。悪い虫は速攻で追っ払いますって顔して番犬してたあのノアが?」


「アンの言ってることはよく分からないけども、あの朝が弱いノアが楽しそうに中庭で朝早くからメイリリー様と話していたのを見たのよ」


「あ、ありえないでしょ見間違えじゃないの?」


 アンが動揺してカトラリーを落としそうになっていた。というか、食べかけのパンのカスがアンなら絶対にしないであろうに、ホロホロとテーブルクロスの上に落ちていた。


「見間違えなら、良かったんだけどね。それからも、なんやかんや理由を付けて二人が逢い引き?しているみたいだし」


 ロザリーが伏せたまま、視線だけだアンの表情を伺うと、驚愕で目が見開かれていた。ありえないことを聞いたと言わんばかりの表情だ。


 ロザリーだって信じたくない。いくらノアとは仮初の婚約者とは言っても一応婚約はしている訳だ、一欠片もノアからロザリーに恋心なんて無いはずなのに、ノアとメイリリーが一緒にいると私を選んだのにどうして?

 なんて気持ちが覆う。痛くて、苦しくて、重くて辛い。こんな思いをするのだったらノアとの婚約を断れば良かった。それどころか、報われないと知っている恋なんてなんでしてしまったんだろうか?


 ロザリーの(まなじり)からホロホロ、涙が溢れていく。目も、身体も全部溶けてしまったら楽だろうに。


「ちょっと、ロザリーあんた泣いてるの?」


 呆然としていたアンがロザリーの涙に気づく。すかさず立ち上がってロザリーの方へ来るとお着せのポケットに入れていたらしいハンカチを取り出して涙を拭ってくれた。


 ロザリーは自分が情けなくなってくる。普段ならばこんなこと有り得ないのに。


「泣きたくもなるわよね……。あんたの大好きな皇女殿下付きから外されて、王国のよく分からない女の護衛にされ、挙句好いた男と、その女の逢い引きを目撃するなんて。あたしならその場でノアの事張り倒してるわよ」


 アンに言われてやっと気づいた、これはきっと怒りなのだろうと。


「ありがとう、アン。大分落ち着いた」


「いいえー、で、ロザリーどうせまだ面白い情報握ってるんでしょ教えなさいよ」


 ロザリー耳元に小さな声でアンはヒソヒソと語りかけた。

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