28 お茶会にて
「ささ、お食べになって」
エルフリーナが声をかける。その声を聞いて、メイリリーが、目の前に置かれた茶菓子に手を伸ばした。置かれた焼き菓子には可愛らしい装飾が施されていた。
そうっと口に運ぶと子気味良いサクッと言う音がした。
「おいしい」
「でしょう?すごく美味しくていつも食べすぎてしまうのよ」
ニコニコと、嬉しそうにエルフリーナが言う。そして、紅茶を一口口に運ぶ。
「それで、わたくしの妹が手紙を送っていた件なのだけれど。なにか証拠があったりはするのかしら?」
「は、はい。こちらの国に来る時にわたしの身になにかあった時には証拠を残せるように一部は置いてきてしまいましたが何通かは持ってきました」
メイリリーが少し屈んだかと思うと、足元から手紙を取りだした。手紙は少しくしゃりとしているが読めないほどではない。メイリリーがそっとその手紙をエルフリーナに渡す。
渡された手紙をエルフリーナが開けて読み始めた。エルフリーナがそれを読み始めると段々と眉間にシワが寄っていく。
「差出人は書いていないけれど、貴女が勘違いしてしまうのも無理ないわね。うちの妹がごめんなさい。他国の人にまで迷惑をかけるなんて、おとう、皇帝陛下に伝えておくわ」
「ありがとうございます」
皇女からの言葉にぱぁっと笑顔になる。許されたと思ったのだろうか。いくら、こちらの皇女が迷惑をかけたとはいえ、発端となったのはメイリリーが王太子と過剰に距離が近くなった事だと言うのは忘れてはいけない。
「話が少し変わるのだけれど、どうやってヴィルヘルム王太子殿下と親しくなったの?」
「入学した時に、道に迷って困っていた所を助けて頂いたんです。その時に『何時でも頼っていい』と言われて、そこから何度か勉強を教えていただいたりしていたんです」
気恥しそうにメイリリーは言う。その間、辛そうな、それでいて酷く羨ましそうな顔をエルフリーナがしていたことにロザリーだけが気づいていた。ロザリーも、辛さをこらえるためにメイリリーの話から思考を逸らす。
ロザリーは、騎士学校に通っていた。しかし、エルフリーナは学校と呼ばれる類の施設には通っていない。
帝国が誇る教師陣に一対一で教育を受けていたからだ。それでも、ただ帝国の皇女というだけならばきっと学校にも通えたかもしれない。
が、彼女は王国の王妃にならなければいけないことを幼い頃。つまりは婚約が決まった時から定められていた。ゆえに、王妃となるための教育も受けなければいけず、学校に通う事などは出来なかった。否、許されていなかった。
間違いを起こさせる訳にはいかないという皇帝陛下の考えによって。
「わたし、王太子様に婚約者がいらっしゃる事を知らなくて」
「そう」
「王太子様の話を聞いてから、わたしどうしようって思って」
わぁ、っとメイリリーは泣き出す。庇護欲をそそられてしまう。ロザリーも、守ってあげたいと思わず考えてしまった。
「だから、わたし、王太子様に、婚約を破棄しないようにお願いしたいんです。わたしなんかただの男爵令嬢」
「そうなの、だから帝国に来ることになったのね」
「えぇ、そうなんです。王太子殿下の仲のいい方々に説得して貰うよりも帝国の方々に説得して欲しいと思って」
王国からの使者が来ることになった。本来ならば、こちらから王国に行く予定だったのだとふと、ロザリーは思い出した。
メイリリーの言い訳が終わると、その後は表面上は和気あいあいとした会話で二人のお茶会が終わる。
その客間に帰るまでの道、偶然ノアが歩いているのを見かけた。
ロザリーが、ノアだ。と認識するのと同時くらいにメイリリーがノアの方へと飛び出して行った。
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