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27 全然違うじゃない


「そうなの、知らなかった……」


「知らなかったでは済まされませんよ」


「やっちゃった」と小さな声でメイリリーはいう。侍女の方も、一度ならば大丈夫でしょうなどと的外れなことを言っていた。

 

 大丈夫かそうでないかという問題ではないと思うが。これから皇女とのお茶会だというのに先が思いやられるようであった。これが、王国の男爵家令嬢だというのだから。


 まして、王太子殿下のお心を射止めたとなるとあの国はどうなっているのかと小一時間問い詰めたくなる。と、同時に遠い目をした。


「えっと、ロザリンデさん。ごめんなさい」


上目遣いで、メイリリーは言う。


「いえ、気にしておりませんので。謝られるほどのことでは」


「でも、」


「メイリリー様着きました。また、お時間のある時に致しましょう」


 メイリリーの世話係をしているらしい侍女の一人が告げる。後で、と言われてしまえば彼女も引き下がらざる負えないらしい。


 庭に続く扉が開けられる。キィ、と小さな音を立てて開いた先には沢山の花が咲いた庭園が広がっていた。


 ロザリーも久しぶりに来たため、その美しさに惚ける。帝国の庭にはあらゆる花が咲き誇っていた。


 赤いバラはもちろんとして、白や黄色と様々な色が存在した。バラだけでは無い。エンジェルトランペットと呼ばれる花も咲いていた。

 まるで真っ白なラッパのような花は見るものを驚かせる。ロザリーも、この花を見た時には少し驚いたものだ。


 「わぁ、すごい」


  キラキラと目を輝かせながら、メイリリーは導かれるまま道を進む。ここまで喜ばれるとロザリーも誇らしい。バラの生垣で作られた道。そして、アーチをくぐると白く塗られた木材で作られた東屋が見えてきた。


 見慣れた姿。ゴールドの髪をゆったりとハーフアップにして完璧な姿勢で座って待つ彼女。


 花に囲まれているからだろうか。その姿は花に愛された女神の様であった。


「エルフリーナ殿下。メイリリー男爵令嬢がいらっしゃいました」


 エルフリーナに着く侍女の一人が声をかける。ロザリーたちの方へと振り向くとニコリと笑った。


「ようこそいらっしゃいました。わたくしはホーエンツ帝国が第三皇女エルフリーナと申します」


 椅子から立ち上がり、見本のようなカーテシーをした。

 

「あ」


 メイリリーが固まる。


「メイリリー様。ご挨拶を」


 呆けたメイリリーに、小さく助言をした。


「わたしは、オルメタ王国の、メイリリー・テニエスと言います」


「メイリリー様、というのですね。これからよろしくお願いしますわ」


 人好きのする笑みを浮かべてエルフリーナが言う。


「ささ、椅子にお座りになって」


 着席を求められるものの、「え、違う」「なんで。こんなこと有り得るわけない」と、小さな声で言っていた。

 近くにいたロザリーには何も分からない。けれど、独り言が多い子なのだと思うだけだった。


「メイリリーさん?もしかして体調が優れていらっしゃらないのかしら」


「い、いえ元気です」


 メイリリーを見て心配そうに言うエルフリーナに慌てて返事をした。そして、勧められるがままに椅子に座る。

 焦るメイリリーを尻目に、エルフリーナは何処か嬉しそうであった。


「今日の紅茶はとても美味しいのを用意したからゆっくりしていって」


「ありがとう、ございます」


 カタコトになりそうになりながらメイリリーは言う。先程までとは全く様子が違う。そして、前評判とは異なる印象だった。


「あ、あの」


「何かしら?」


 メイリリーの問いかけにエルフリーナは首を傾げる。


「皇女殿下は、ヴィルヘルム殿下と婚約なさっているのですよね?」


「ええ、もちろん。でも、少し前に婚約破棄をしてくれって彼から手紙が来たのよ」


「そ、それには誤解がありまして」


「そうなの?」


  ダラダラと、冷や汗を流しそうな表情でメイリリーは言う。彼女の言う誤解とはどんなものなのだろうか。是非とも教えて貰いたい。ロザリーは心の中思う。


「王太子殿下は、エルフリーナ殿下ではなく、エルフリーナ様の妹様と、婚約していると思っていらしているようでして」


「どういうことかしら?」


 不思議そうに、エルフリーナは言う。ロザリーも不思議だ。何度か手紙のやり取りをしていたためそれはありえないと知っている。

 


「その、わたしも、こちらに来てから初めて知ったのです。エルフリーナ様と婚約しているという事を」


「どうしてかしら?」


「わたしの元に何度か手紙が来ていたりしていたのですが。実は、第四皇女殿下の名前たったのです」


「妹が?」


  真っ青になりながらも絞り出すような声でメイリリーは言葉を続けた。


「は、はい。ですから、とても驚いていて」


  何が言いたいのか全く分からなかった。ロザリーが思うに、ヴィルヘルム殿下に近づいてアピールしていたら第四皇女殿下から手紙が来た。

 そこから嫌がらせが始まり、王太子殿下と恋に落ちた。だから、自分は悪くない。と言ったところであろうか。


 これがエルフリーナの前で無ければ多分首を切り落としていた。そんな確信があった。第四皇女殿下がそういった手紙を仮に送っていたとしても言い訳にはならない。


「えーと、つまり?」


「わたしは、王太子殿下と婚約したいとは思っていませんのでどうか、お許しを」


 どうしてこうなった。本来ならば軽く会話を交わすくらいだったはずなのに。何故か令嬢が謝り始め、エルフリーナはどう扱えばいいのか焦っていた。

 ロザリーも分からない。


 そんなこんなしているうちに紅茶や、軽食、菓子が運ばれてきた。

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