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24歯車は回り始める


 来る日、王太子一行が到着した。


 城の門を通ろうとする護衛やお付きの人々の数も多かった。これだけの人数を連れてくるのはやはり王太子故だろうか。


 謁見の間にて皇女の斜め後ろに立ちつつロザリーは考える。


 何も起きなければいい、と。


 ガチャ


 扉が開く音が、響く。オルメタの外交官とよく似た少年と、可愛らしいという言葉がとても似合う少女が開け放たれた扉から現れる。後ろには従者と護衛の騎士がついていた。


 あれが、噂の。


 王太子にエスコートされ、現れた少女は何処か現実離れしているようだった。

 妖精、なんて言う言葉がロザリーの頭の中を巡る。皇女の様子を伺うと強張ったような表情をしている。ロザリーたちは彼らからそれなりに離れた位置にいる。遠目から見ていると言った表現が合う距離だろう。

 その位置からでも仲睦まじい二人の様子が見える。一部の人々は絵画から抜け出したような光景に呆けていた。しかし、それ以外は苦虫を噛み潰したような顔で彼らを眺める。


 ――王太子が腑抜けになったというのは本当だったのかと。


 エルフリーナとロザリーは、皇帝のおわす席のそばにいる。そのため王太子たちがこちらに近づいている様子がはっきりと見えた。椅子に座るエルフリーナを見る。ロザリーからは表情を伺うことができない。

 彼らの歩みが止まる。じっと、金髪の少女を見ると、王太子でも無く皇帝でもない場所を見つめ、とろりとした表情になった。訝しげな目でロザリーは見る。彼女の視線の先に何があるのだろうかと。

 しかし、皇帝が口を開いたことで皇帝の方へ少女の視線が流れる。


「ようこそおいでなさった。オルメタの王太子殿下」


 皇帝が厳かに告げる。

 

「此度は急な訪問にもかかわらず、出迎えまでしていただき感謝いたします」


 王太子が皇帝の前に跪き答える。


「感謝されるほどのことではない。長旅で疲れているであろう。城で休んでからまた時間をとろうぞ。そこの侍従頭に客室まで案内させる。お付きの者たちも城の者に案内させるゆえゆっくり休むと良い」


「お気遣いありがとうございます」


 やりとりが終わる。皇帝が城へもどると王太子と少女を侍従頭が案内していた。


 あの少女の扱いは侍女やお付きなのだろうか。言い入れぬ疑問がロザリーの頭を過ぎる。


「ロザリー、そろそろ」


「はい、殿下」


 エルフリーナからの言葉で思考が現実にもどった。声色はどこか硬い。静かに城の中に戻る。


 いつも通っているはずの道がなぜか長く思えた。柔らかな皇女の雰囲気は普段に比べてずっと硬かった。


 カツカツと、歩みを進める音だけがただ響く。

 

「殿下、私たちはここで一度下がります。ご夕飯の際にまた参ります」


「ええ、ありがとう。ロザリーは話したいことがあるから少し残ってくれるかしら」


「かしこまりました」


 ロザリーは皇女と共に部屋に入る。


「わかってはいたのに、目の当たりにするともっと辛いのね」


「殿下……」


「そんなに思い詰めた顔をしないで、わたくしは大丈夫」


 扉の前に立つロザリーの頬に皇女は触れる。彼女の方がもっと辛い感情を隠しているのに。ロザリーぎゅうと剣を握りしめた。


「貴女がわたくしを思ってくれているというだけで救われるの」


 儚く彼女は微笑む。今にもここから。この世界から消えてしまいそうな笑みだった。


「そういえば、今日、王太子殿下が連れていた少女が謁見の際に王太子殿下でもなく皇帝殿下でも無いところを呆けたように見つめているのが気になりまして」


「どこを見ていたかはわかる?」


 ロザリーは必死に記憶をたぐり寄せる。皇女と、ロザリーがいる反対側。のような気がした。皇帝と皇后を中心として男子、女子が分かれていた。つまりは皇太子がいる方向。だったような。


「多分、皇太子殿下の方かと思われます」


「お兄様の方?」


「確証は無いですが」


 驚いた顔をする皇女に対してロザリーは答える。皇女は、頭を抱える。


「エルフリーナ様?」


「頭が痛いわ……。お兄様には最愛の婚約者がいるのに」


 図らずも、皇女とロザリーが考えていることは同じだった。


 メイリリーという少女は帝国の皇后の座を狙っていると。


「お義姉様にもお伝えした方がいいのかしら?」


「時期尚早かと。まだ近衛騎士団団長に見惚れていた可能性もありますし」


「そうよね」


 近衛騎士団団長。職務的には帝国全ての騎士の長と呼べる彼。ヘルムート。


 端的にいうとモテるのだ。あらゆる年齢、性別を問わず。一度、ロザリーは団長が団員から告白されている場面を見たことがある。帝国騎士団は女性騎士も少なからず在籍している。

 ゆえに、女性団員からかと思ったのだが、実際は違った。遠目で見ただけのためはっきりとはわからないが男性団員だった。筋骨隆々とした。


 思い出すだけで少しげんなりとする。偏見があるわけではないが上司がそういう目で少なくとも見られているという事実に。


「団長のことは一度置いておきまして用件はなんでしょうか?」


 流石に、あの少女のことを聞くためだけに呼び出されることはないはずだ、とロザリーは考える。


「少し横道にそれていたわね」


 くるりとロザリーに背を向けて皇女は机へと向かった。

 

 

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