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19 嵐の前の静寂

まだノア視点です!


 その夜から幾日か経った。


 処理に来たヘルムートと共に遺体を片付けロザリーを自分の乗ってきた馬に乗せて帰った。


 何人かいたものの、誰もロザリーについて触れることは無かった。


「で、だ。お前が気絶させた奴はなんにも知らなかったらしい」


 執務机に座るヘルムートは言う。ノアは現在、ヘルムートの執務室に呼び出されていた。


「そうですか」


 腹を殴った方の男はそのまま気絶していたらしく、手足を縛られ牢屋に入れられた。


 もう一人は、既に事切れていたらしい。どうするんだよこれ、とヘルムートは頭を抱えた。


「お前が殺したヤツが知っていたか、否かについてだが、多分知らなかっただろうな」


 なにせあそこに銀髪の騎士服を着た女をさらって置け。って依頼だったらしい。


「ったくよぉ、なんだって姫様じゃなくてロザリーが狙われるんだよ」


「俺に聞かれたって分かりませんよ」


 ノアはつぶやく。


「後だな、使われた馬車は盗品だった。何日か前に盗まれて探していた」


「犯人は元々からあの馬車を使うつもりだったって事ですか」


「あぁ、下手したら城の人間かもしれねぇ。なにせバレずに馬車を城に入れてたからな。盗まれた奴らかと思ったが、男爵で当城する予定もなく、盗まれたのも城下街でだから自作自演の可能性も低い。用事や仕事がなきゃわざわざ城には来ないだろうし、来たら記録にも残される」


 だから、馬車を盗まれた男爵が線は低いという事だろう。あまりの話の長さにノアは少しげんなりとした。


 この後は重要な予定があるのだ。長引かせる訳にはいかない。


「団長」


「なんだ?」


「出ていっても?」


「あぁ、用事は済んだ」


 短くやり取りをして、ノアは部屋から出る。元気の無い、生気がほとんど無い表情から一転。見る人が見れば分かる位に機嫌が良くなった。


 なにせ、これから愛しい人のところに行くのだから。


 ノアは、すぐさまロザリーの家。つまり、メイザー侯爵家へと向かう。


 自ら馬に乗って行く方が早いのは知っていたが、流石に対面が悪い、と家の馬車を借りた。


 整備してある道でゴトゴト揺られながらノアはぼんやりと考える。


  ロザリーが狙われた理由と、部外者であり城に入れないはずの誘拐犯の男ふたりがロザリーを攫う事が出来た理由について。


 きっと、内部から彼らを招いた者がいたのだろう。それが誰かは分からない。


 ロザリー個人に恨みを持つものなのか、それとも依頼で高額な金に目が眩んだ誰かなのか。


「ノア様、着きました」


「ん、ありがとう」


 御者がノアに声をかける。馬車から降り、門番に要件を告げるとすんなりと通された。


 さて、これからが戦いだ。


 とノアは気を引き締めた。



「やぁ、ノアくん久しぶりだね」


 応接間に通されて、ソファの対面に座った初老の男性がノアに言う。


 彼が、メイザー侯爵であり、ロザリーの父親である。


「改めて、ロザリンデの危機を救ってくれたことに礼を言う。ありがとう」


 深く、深く、侯爵が頭を下げる。

 

「礼を言われる程の事ではありません。ただ、偶然が重なったまでですよ」

 

「本当に、ロザリンデが生きていてよかった」


 ノアも同じ気持ちだ。彼女がもしもいなくなっていたら、きっと死んでいたかもしれない。


「ふはっ、相変わらずノアくんはロザリンデを想ってくれいているんだね」


「俺は、一目惚れだった。と何度も申しているはずです」


「婚約、については少し待ってくれないか?」


 なにせ、と彼が言葉を続ける前に大きな音を立てて応接間の扉が開く。


「ロザリーは嫁にやらんぞ!!まして、ノア・ベルガー貴様みたいな男になぞ」


「……こんにちは、ドミニク様」


 侯爵が、大きなため息をつく。侯爵が「こんのバカ息子が」と悪態を着いたのはきっと気のせいだろう。気のせいだと思いたい。


「まぁ、僕のかわいいかわいいロザリーを助けてくれたことには礼を言うよ」


「は、ぁ」


 ノアの口から返事とも取れない言葉がこぼれる。ロザリーに「兄様の前で余計なことを言わないで。ただでさえ貴方は」と、言われていたのをノアは思い出した。


「そうだ、ノアくんは今日ロザリンデに会いに来てくれたんだったね」


 にこやかに、少し汗を流しながら侯爵はノアに告げた。このまま放っておくとろくなことにならないことを彼は感知したからだ。


 ドミニクはノアを毛嫌いしている。いわゆるシスコンである彼にとっては、ロザリーの幼なじみで何度か婚約者候補に名前が上がっているノアが憎いらしい。


 優秀な人物ではあるのだ。だが、ロザリーが関わった時彼は妹バカと化す。


 ノア以外のロザリーに求婚や婚約を打診してくる人物が少ないのはドミニクがいるからだな、とノアは思う。

 ノアは自分が牽制をしているのを棚にあげる。


「は?ここにいるヤツがですか?父上僕は認めませんよ」


「ええぃ、ドミニクうるさいっ。お前は関係無いから黙っていなさい。全くロザリンデが絡むと」


「あんなに愛らしい妹がいたら虫の一匹や二匹心配になるでしょう!」


 二人が言い争いを始めた辺りでそばに控えていた侍従が扉を静かに開けてノアに目配せをする。


 侯爵もノアをチラリと見るとひらりと手を振った。


 ノアはそれの意味することを理解し、そっと部屋から退出した。


 ノアが出るとゆっくりと扉が閉められた。


「大丈夫なのでしょうか?」


「大丈夫でございます。熱くなっているのは坊っちゃまだけですから」


 老いた侍従は笑う。多分、ロザリンデが関わるとこれが日常なのだろう。


「ロザリンデお嬢様のお部屋に案内いたします」


「あぁ、頼む」


 短く言葉を交わし、彼らはロザリンデの元に向かった。

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