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10 ティータイムにて


「ロザリー、貴女ノアと喧嘩したの?」


 エルフリーナの斜め後ろで控えていたロザリーはぎくりとする。


「喧嘩など、しておりません。ただ、少し言い合いになっただけで……」


 しどろもどろになりそうになりながらもエルフリーナの質問に答える。

 エルフリーナの視界に入らないため、表情までは見えていないはず、とロザリーは思う。


 かちゃり、と静かな空間に僅かな音が響く。


「ついさっき、わたし付きの侍女が『ロザリー様とノア様が口喧嘩をしていまして、何か皇女殿下は知っていますか?』と聞いてきたのよ。何かあったの?」


「……実は、ノアに皇女殿下とオルメタの会談への参加を止めて欲しいと言われまして」


「あら、どうして?」


「ヤツは、ノアは理由を一切言ってはくれず、ただ『行くな』とだけで」


 表情こそ見えないが、エルフリーナは考え込むように手を口元に持っていった。


 すう、とエルフリーナの纏う空間が冷たくなる。

 

「そう、理由は言わなかったのね」


 声色からは何も読み取れない。ただ、感情の篭っていない冷たい言葉だった。

 普段のエルフリーナの雰囲気からは考えられない声色だった。


 明るく、優しい。まるで春の陽だまりの中にいるようなロザリーの愛する皇女殿下。


 怖い


 ロザリーは、冷や汗が一筋背中を伝っていくのを感じた。


 ふっ、と空気が弛緩する。


「なら、理由だけでも聞いて来てはくれないかしら?」


 エルフリーナが上半身をロザリーの方へ向ける。

 先程までの様子とは一変して、明るい表情、声でロザリーにエルフリーナは問うた。


「勤務外であまり会いませんから少し難しいかと」


 少し考えてから、ロザリーは答える。同じ近衛騎士とはいえ役割が違いすぎて会うことは少ない。

 今日のような日の方が圧倒的に少ないのだ。

 そして、わざわざノアを休日に呼び出すのもはばかられた。


「そうよねぇ」


 うーん、とエルフリーナは考え出す。

 ロザリーからしてみてもあれほどまで必死になる理由を聞いてみたくはある。

 

 手紙でも送れば良いのだろうがきっと彼のことだ、絶対にはぐらかしてくるだろう。


 ――なら、直接聞くしかない。


 ロザリーはそう考えた。休日とまではいかないが、昼時の休憩の時にでも聞いてみよう。


 その旨をエルフリーナにロザリーが伝えようとした時だった。


「そういえば王都近郊の森に熊らしきものが出たらしくて誰かに見廻りをお願いしたい。って、兄様が仰ってたのよ。ちょうど騎士団の方もごたついているらしくて」


 ロザリーはみなまで言わなくてもわかった。

 つまり行ってきて欲しいということだろう。


「ロザリー、もしノアの予定が合えば1週間後辺りにお願いしてもいいかしら?」


「ですが、そういったことは近衛ではなく本来騎士団の役目でして。それに、護衛である私が皇女殿下のそばを離れる訳には」


 「新しい女性騎士が近衛騎士団に入って来たらしくて、ロザリーに何か会った時の為に一人でわたしの護衛をさせたいと言われていたの。だから、ね、お願い」


「そこまでせずとも、明日の昼休憩の時間に聞いて参りますので」


「お昼だけじゃ短いでしょ?」


「確かに少し短いかもしれませんが、何日かに分ければあるいは」


 ロザリーはエルフリーナを説得しようとする。


「それに、わたしは二人に仲直りして欲しいのよ」


 不安げにエルフリーナは言った。


「喧嘩はしておりませんし、そこまで私たちは親密でもありませんから仲直りの必要は」


 ない、と言いかけて止める。ロザリーにはエルフリーナが落ち込みかけているように見えたから。


 エルフリーナは、ロザリーのことを大切にしてくれている。それに加えて、ノアとロザリーに夫婦になって欲しいと思っているのだ。


 本人が前に言っていたから確実にそうだ。


「分かりました。謹んでお受けします」


「本当!ありがとうロザリー!」


 先程までの様子とは一変して嬉しそうにエルフリーナは笑う。


 ノアと親密になって欲しいと思われるのは少し嫌だが、彼女が喜んでくれるならいいか、とロザリーは内心思った。


「では、私の方から団長殿にはお伝えしておきます」


「ありがとうロザリー」


 ニコニコとエルフリーナは笑う。

 とんだことになったものだ。ロザリーは中を仰ぎそうになるのをぐっと抑えた。


 

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