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1 白銀と黒鉄


真っ青な空を貫くように天高くそびえ立つ白亜の城。ここは、大陸にあるホーエンツ帝国。そばに建つ小さな騎士の詰所一室で若い男女が争っていた。


「なんで、あなたはいつもそうなのよ!」

「そう、とは」

「デリカシーが無いってこと!」


白銀の髪を高い位置で結った女騎士ロザリンデが目の前の男を真っ青な瞳で睨めつけ吼えるように言う。


「俺は君が持っている荷物が重そうだから変わりに持とうとしただけだ」


ロザリンデが持つものと同じ箱を黒髪の金瞳の騎士、ノアがひとつ持っていた。確かに重そうに見えたかもしれないがそれは箱がロザリンデに比べて大きいからそう見えるだけ、と彼女は心の中で言い訳する。


この男の前でいえばきっと「君は小さくて可愛い」などと嬉しく無いことを言われるに決まっているからだ。


 女性としては確かに言われると嬉しい言葉ではある。

しかし、騎士として生きるロザリンデにとって勤務中にかけられる同僚からの「可愛い」という言葉は騎士として認められていないようであまり好きではない。


まして、幼なじみでもあるノアに言われるのはより嫌だ。ロザリンデは心の中でつぶやく。


「・・・君は華奢だから大変だと思ったんだ」

「は?」


ロザリンデの頭にカッと血が上る。


「私をバカにしているの?」

「そんなつもりは」

「たしかに、アンタみたいに背も高くないし筋肉だってないわよ」

「ロザリー落ち着け」

「誰のせいでっ」


ロザリンデは一気に畳み掛ける。より大きくなった声に何人かがロザリンデたちのいる一室を覗きに来た。中の様子を確認するなり「またか」といった顔をして立ち去って行く。何せこれが日常茶飯事であるから。

 

そのうちノアと同じ部署に務める三人組が覗きにやって来た。


「ノア、またロザリンデを怒らせたのか」


ひとりが頭を押さえながら言う。


「みたいだねぇ」


もう一人がニコニコと笑っていう。心労をあらわにした一人目に比べてこちらは嬉しそうにしていた。

 

ノアは彼らに気付いたようで目配せをして助けを求めた。しかし彼らがそれに応じるつもりは欠けらも無い。犬も食わぬはなんとやら、というからだ。


「戻りましょう」


全く乗り気そうでは無い最後のひとりが言う。このままだと巻き込まれるのが目に見えているためである。「持ち場に行かなきゃな」と面白がっていた騎士がつぶやき三人はその場を後にした。


「なにが気に触ったんだ?」


ノアはロザリンデに告げる。これには心底呆れた。朴念仁なのか、それとも天然なのか。殴りかかりたい衝動に駆られる。いっその事1度殴って分からせた方が...。

ロザリンデは一時の衝動に任せてぐっと拳を握る。


「は?」


ノアの頭半個分ほど高い位置にある襟首をガッと掴んだ。振りかぶって、ノアの間抜けな顔を握りしめた拳で殴ろうとした時。


「まぁまぁ、ロザリー。落ち着いて」


ここでは決して聞こえてくるはずのない声がした。

 

ふわふわとした輝く金糸の髪。水晶よりも、透き通ったラピスラズリのような瞳を持ったロザリンデの主。ホーエンツ帝国第三皇女エルフリーナが言い争う二人を覗き込むように言った。


「ノアも、あまりうちのロザリンデをいじめないであげて」


「…いじめたつもりは無いのですが」


「まぁ、細かい事は置いておいてロザリーを借りていってもいいかしら?」


有無を言わせない笑みでエルフリーナは告げる。ロザリンデにはわかった。これ、少し怒ってらっしゃる、と。


「私が許可しなくとも、ロザリンデは殿下のものでございますのでなんとも」


「じゃあ、連れて行くわね。ロザリー、行きましょ」


くるり、振り返ったロザリーの主は花が咲くような笑みを浮かべていた。


「仰せのままに」


その場に跪いてロザリーはエルフリーナに言う。


「あまり堅苦しくしなくてもいいのに」


不満げにエルフリーナが言う。立ち上がり、ノアから荷物を奪いつつ「そうはいかないので」、とロザリーは苦笑いをする。


いくらここが騎士の詰所で、ノアとロザリーが言い争っているのを避けて人が避けているとはいえどこに人の目があるか分からないからだ。


ノアから木箱を奪い取り、扉の外に出る皇女の後に続いてロザリーも退出する。立ち去るロザリーの背中を、じっと見つめるノアに誰も気づかなかった。

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