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七 地図とルース村

「ティーラさん、君の両親は心配していない?」

「えっと、両親は五年前に……」


 の続きの言葉を遮り、レオはテーブルにぶつかる勢いで頭を下げた。


「悪い! ……これ以上は言わなくていい、俺は変なことを聞いた」


 私は首を振り『平気です』とレオに笑った。

 寂しいくないとは言い切れないけど、歳を重ねるうちに、お父さんとお母さんは私を見守っていると思えるようになっていた。


「レオさん、気にしないでください」


「ごめん、ティーラさん……本当にすまない。……っ……お、お茶が冷めてしまったな。貰い物だけどクッキーは食べるか?」


「はい、いただきます」

 

 レオは棚からクッキーを出して、お湯を沸かしにキッチンに立った。



 ♢



 新しいお茶が入り、レオさんは話を再開させた。


「ところでティーラさんはどこからこの国に来たの?」 

「どこから、この国に来たのかですか」


 私はその返答に困った。


 どこから来たとか……どこを通って、この国に来たと聞かれても、ティーラは"北の方から来ました"としか言えなかった。


 私が生まれたルース村の近くには学校が無く、習い事をするにしてもお金がかかる。両親がおらず学校に通っていなかった私は難しい文字は読めないし、文字も名前ぐらいしか書けなかった。


どう答えたらいいのかわからず、前のレオを見た。彼の琥珀色の瞳が優しく細められて、私が話すまで待ってくれているみたい。


 よし、ここは落ち着いて、ゆっくり話そう。


「レオさん……私は北部のマント領のルース村という村から……行き先もわからない相乗り馬車に乗りました。わ、私は字を読んだり書いたりが余り得意ではなくて……どの国を通り、この国に来たのか……わからないです…………ごめんなさい」


「あ、謝らなくていいよ。ティーラさんが今言った、マント領のルース村は聞いたことがないな。この辺りの村ではなさそうだね。ちょっと待ってて地図を持ってくる」


 そう言ってレオはキッチンから出て行った、そして数分後、丸められた地図を片手に戻ってくると、テーブルに地図を広げた。


 彼は指をさして私に教えてくれる。


「ティーラさん、ここが今いるエルデ国で、北部のマント領は……うーん、国の周りは詳しく描いてあるけど、この地図には乗っていないね」


 レオと一緒に地図を覗き、見覚えのある字を見つけた。


「レオさんこの字は覚えてる、この国は通りました、後ここも通りました」


 文字は読めなくても文字の形で覚えていた。多分、ルース村の場所はこの辺りで……こうして地図を見ると。私は長い時間をかけて……大きな街と国境、いろんな国をたくさん通過してきたんだ。


 そして西の端にあるエルデ国まで来た……この国は地図を見る限りこの国は大きそうだから、探せば田舎者の私にも働く場所はみつかりそう。


 レオは私の話を聞き、少し考えて頷いた。


「ティーラさんがいろんな国を通って、ここまで来たことは分かった。ごめんね……俺は仕事上、ティーラさんのことを上に報告しなくてはならない。エルデ国が保有する森に入ってしまったからね」


 もしかして私は捕まるの? そうね、国保有の森に入ってしまったし……強制的に元の場所に帰されても文句は言えない。


「わかりました、罰は受けます」


「あ、いや。ティーラさん……上に伝えると言っても。俺が雇ったメイドが間違って、森に入ってしまったと伝えようと思ってる」


「メイドが、ですか?」


「そう、ちょうど一人雇おうと思っていたんだ、俺の家でメイドとして働く気はない? ティーラさんは俺の姿を見ても驚かなかったから……どうかな?」


 働く所を探そうと思っていた私に、レオの申しではありがたい。

 

「レオさん、私をメイドとして雇って欲しいです」

「わかった。話は決まりだね」


「ありがとうございます。コレからよろしくお願いします、レオさん」




 ♢




 レオはティーラの話を聞きながら考えていた。

 

 彼女は両親はいないと答えて、北部のルース村から一人で、西の国エルデまで来たと言った。ティーラに何があったかのかは知らない。……あの日にティーラは俺の腕の中で"リオン君"と、涙と一緒に呟いた男の名前。


 ティーラが生まれ育った村から出てきてしまうほど、君とソイツの間で何かあったのだろう。だってティーラはあの森で、寒空の下、一人で静かに眠ろうとしていた。


(俺がティーラを少しでも見つけるのが遅れたら……どうなっていたかわからない)


 俺は決めた、ソイツがティーラを迎えに来ても渡さないし、君を泣かせたりなんかしない。だから俺を怖がらないで……できれば君をもう一度、抱きしめて眠りたい。


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