六 田舎娘のティーラ
彼に『俺のシャツで悪いけど……』と、大きなシャツを渡された。その後、キッチンに居るからと場所を教えて料理の続きに戻って行った。
一人になった部屋でベッドから出て、彼から渡されたシャツを着た。
「うわぁっ、大きい」
そのシャツからハーブのいい香りがした。この香りは昨夜、彼からもしていた。それを思い出すだけで頬に熱が篭る。だってリオン君とはまだ手を繋ぐか、軽めのキスしかしたことがなかった。
ライオンさんの様な大人の男性に抱きしめられて、眠ったのは初めての経験。彼の温かさに優しさを思い出して、さらに照れた。
「グゥ…」
静かな部屋にお腹の音が響いた……このお腹の音まて、もしかしてライオンさんに聞こえた? そんなことを考えて恥ずかしくなったけど。彼に言われた通り、部屋を出て左に進むとキッチンを見つけた。
そのキッチンの中からは楽しげな彼の鼻歌が聞こえる。彼は私がキッチンに来たことが分かったのか、料理の載ったお皿を持ちこちらに振り向いた。
「ちょうど、いい時に来たね。さあ、食べよう」
目を細めて、優しく彼に微笑まれて鼓動がドキンと鳴った。木造とタイルのモダンなキッチンの中には、食事用の大きなテーブルが置かれて、そのテーブルの上には焼き立てのパンと、目玉焼きにベーコン、サラダ、スープが並んでいた。
豪華な朝食だわ。
「どうしたの? さあ、座って」
「は、はい」
彼は身につけていたエプロンを取り、彼用の大きな椅子に座る、それをみて私も反対側に座った。
「何も無いけど、遠慮せずに食べて」
「いただきます」
「召し上がれ、いただきます」
前のパンを取りかじる……んんっ、パンがちょうど良く焼けていて、贅沢にバターがたっぷり塗ってあった。ベーコンもカリカリで美味しい、スープは卵とほうれん草で優しい味付け。
お腹が空いていたから無我夢中で口に運んだ。
その様子を見つめてから彼も朝食を食べはじめる。だんだんとお腹が膨れて余裕がでてきて気付く……
誰かとテーブルを挟んで食事をするのって久しぶりだと。
一人になってから、ずーっと憧れていたんだ。
ふと、目の前に居るライオンさんの姿がリオン君と被り、硬く目を瞑った……その直後にカタッとフォークを置く音がして目を開けた。前に座る彼の琥珀色の瞳が私の変化に気付き、何か言いたげにしばらく見つめだけど、彼は何も言わずに食事を再開した。
本当は"どうしたの?"と聞きたかったかもしれないけど、彼に聞かれても私は何も言えない。
だから……
「美味しい」
口いっぱいに料理を頬張り笑った。
その様子に少し驚き、目を見開いたけど。ライオンさんも『口元にソースついてるよ』と、目を細めてくれた。その後は彼との会話が弾んで楽しい朝食になった。
朝食が終わり、彼がいれてくれた紅茶を受け取りお礼を言うと、元の椅子に座り。
「少し君のことを聞くね、俺は獣人族のレオ。君の名前は?」
と尋ねてきた。
私は椅子から立ち上がり、シャツを掴みながら、ぎこちなく頭を下げた。
「レ、レオ様。私はティーラと言います……ただの田舎娘です」
「い、田舎娘?……ティーラさん、そんなにかしこまらなくていい。俺は貴族でもなんでもないから、様も頭も下げなくていいよ」
え、レオ様は貴族じゃないの……私が田舎者の娘と答えたのが面白かったらしくて、彼は声を上げないよう口元を押さえて笑っていた。
徐々に湧き上がる恥ずかしさ。
「笑わないでください。……田舎娘は本当のことだもの」
「ご、ごめん、君が余りにも可愛いことを言うから……可愛くって、笑って悪かった」
「私が、……可愛い?」
キッチンにはレオに"可愛い"と言われて真っ赤になった私と、謝るレオがいた。