五 ティーラと貴族様?
「ん、……」
カーテンの隙間から入る朝日と、頬に感じた朝の冷たい空気で目が覚めた。見慣れない天井と肌触りの良いベッド……見知らぬ部屋。
そうだルース村を出て、見知らぬ土地に来たんだ。
ティーラを助けてくれたライオンの彼は? と、ベッドから起き上がり部屋を見渡した。
な、なに、この広い部屋……は。
ティーラが寝ているベッドは触り心地が良く、大人二人が余裕に寝れる。本棚には難しそうな本がぎっしり詰まり、書斎の机には積まれた書類、クローゼットに皮張りのソファー……あれはシャンデリア? どの家具を見ても高級。
もしかして彼は貴族様で、ここは貴族の屋敷。
彼は貴族? 平民な私がここにいてはダメだわ。
入り口を見ると部屋の扉が少し開いていた。彼が「話があるから出ておいで」と、言っている。これから自分がどうなるのかティーラにはわからない。だけど、その開いた扉からは香ばしくベーコンが焼けた匂いがして、お腹がグーッと鳴った。
いい匂い……お腹すいた、昨日からご飯を食べてなかった。でも、貴族の家からは出ていかないと……その前に助けてもらったお礼は言わないと。
ベッドを抜けてで彼を探そうとした、ティーラの目に飛び込んだのは下着姿の自分……え、うそ、私。
「……いやっ」
どけた布団を頭から被った。
嘘よ、嘘……誰か嘘だよ言って。でも、ちゃんと清潔だから……旅先でも毎日石鹸で洗ったから、別に見られても平気よ。だけど、履き慣れて穴の開いた箇所に布を当てて縫った、使用感ありのヨレヨレ下着を、見ず知らずの貴族様に見せたなんて。
いい歳なのに恥ずかしいわ。
ティーラが部屋の中で悶えていると"コンコン、コンコン"と部屋の扉が鳴り「何かあった?」と、彼がエプロンを付けた姿で現れた。
嘘、いまの声が聞こえたの?
そんなに大きな声を出したわけじゃないのに?
「どうした、何があった?」
「いいえ……何もありません」
「……そう?」
しばらく続く沈黙が続き……彼は布団を掴み、縮こまるティーラを見て、ふうっ……と息をついた。
「昨日は気が動転していて気が付かなかったのか……ごめん、この俺の姿が怖かったんだな」
彼の沈んだ声が聞こえた。
この姿が怖い?
ティーラには彼が何を言ったのか、一瞬わからなかった……
怖いって彼が言ったライオンのこと?
「すぐに君の帰りの手配と、着替えを用意する」
ベッドの隙間から見えた、彼の耳と尻尾が下がっていた、まさか私のこの行動が彼を傷付けた。
「待って、違うの」
扉を閉めて行こうとした彼に向かって叫んだ、恥ずかしい、頬と耳が熱いけど……私を助けてくれ、涙した彼を傷付けたくなかった。
「いいや、無理しなくていい。こういうのに俺は慣れているから…」
慣れているなんて、嘘だ……そんな風には見えない。
「そうだな、俺ではダメか……人を呼んでくるから、しばらくそこにいて」
行かないでと、ティーラは思いっきり布団から顔を出して叫んだ。
「ライオン様、話を聞いて違うんです。私はあなたが怖いんじゃなくて……あなたに見られた…………このヨレヨレの下着が恥ずかしかっただけなの」
言い切った後にボフッと布団に顔を隠した。
ヨレヨレの下着とか言っちゃった……恥ずかしい。
あれ、シーンと部屋が静まったけど。
ティーラが下着だなんて変なこと言ったから困らせた。布団から顔を出して彼を見たけど、彼は扉を持ったまま、目を大きくして驚いた表情をしていた。その口元はわなわなと緩み出して、目が無くなるほど笑った。
「……ははっ、あの可愛いクマさんのアップリケが付いた、下着のことか…」
クマ?
「違う、あれは……ネコ、です」
「え、あれはネコさんだったのか……って、ごめん、しっかり見ちゃってたな」
頭をポリポリかき、照れて笑う彼の笑顔に、ティーラは釘付けになった。