石ばしる垂水の上の早蕨の萌え出づる春になりにけるかも【日本】
いしばしる たるみのうえの さわらびの もえいづるはるに なりにけるかも
志貴皇子の和歌の中でも、一番有名な和歌です。
「おお、わざわざ届けてくれてありがとう。県犬養の皆様にもよろしくお伝えくだされ。」
邸の奥に通された下道真備は、邸の主である志貴皇子の前に通された。キノコの入った包みを渡すと、嬉しそうに微笑んで広げ、真備をその場に座らせた。
「そなたの名前は聞いておる。進士試に甲第で合格したとは実にめでたい。遣唐留学生に内定した話も聞いているよ。」
「志貴皇子様のような方に言っていただけるなど、身に余る光栄です。」
真備は申し訳なさと喜びの入り混じった顔でそう言って、もう一度頭を下げた。
県犬養石次が志貴皇子に献上する約束をしていた薬用のキノコを、石次の家に学生として居候している真備が届けることになった。とはいえ、一介の地方出身の学生である下道真備が、皇族の重鎮であり当代一の和歌の名手とも名高い志貴皇子に会うことはそう滅多にない。
志貴皇子の邸は、思ったよりも草花が少ないのが印象的だった。この部屋まで案内してくれた使用人が言うには、長年暮らした飛鳥の邸にはもっとたくさんの草花が咲き乱れる庭があったらしい。志貴皇子は政治には興味を持たず、庭の草花を手入れするのが好きだったそうだ。
真備はその話を聞きながら、天智帝の血を引く志貴皇子の存在そのものが、天武帝と持統女帝の血を引く帝たちの脅威であったことに思いをはせていた。自らの命を守るために、志貴皇子は政治にも名誉にも関心のないふりをしなくてはいけなかったのだ。
6年前に飛鳥から奈良に遷都した時、志貴皇子をはじめ多く人々が生まれ故郷を捨てて朝廷に付き従った。おそらく、遣唐留学生に内定したばかり阿倍仲麻呂たちもそうであっただろう。
家人の話によれば、志貴皇子は飛鳥の邸を別邸として最低限の管理は続けているらしい。しかし飛鳥には滅多に足を運ばないのだという。
真備は家人の話を聞いて、心の奥底でため息をついた。「飛鳥の時代の生き証人である皇族の重鎮が、たびたび旧都飛鳥を訪れる」ということは、時に政治的な意味合いをはらむ。天武帝と持統女帝の血と方針を受け継ぐ平城京を否定することになりかねないからだ。一度でも「あの志貴皇子が飛鳥で仲間を集め、謀反を起こそうとしている」という噂が流れてしまえば、志貴皇子の命はこの世から消されるだろう。
そういった事情があるため、志貴皇子は新しい平城京の邸の庭の手入れには、あまり積極的ではないらしい。家人はそれを寂しそうに客人に語ったものだった。
「父上!」
突然、廊下の方から子供の騒ぐ声がしたかと思うと、可愛らしい足音と共に幼い男の子が部屋に飛び込んできた。
「父上、聞いてください!」
「白壁王!お客様がいるのよ!」
白壁王と呼ばれた幼子は、姉の声に立ち止まり、部屋の中に座る2人の大人を見上げた。見慣れた老齢の父の隣に青年がいるのを見て、心底驚いたような表情を浮かべて固まってる。
「申し訳ありません、父上!」
姉らしい少女が飛び込んできて、慌てて頭を下げた。おそらく志貴皇子が晩年にもうけた子供たちなのだろうと真備も察したが、それにしては妙に服装が質素だ。都の片隅に暮らす下級官人の家の娘やそれなりに羽振りの良い市場の娘と区別がつかないだろう。
「まあまあ、難波女王よ、落ち着きたまえ。こちらは下道真備と言って、今度、唐国へ勉強しに海を渡る優秀な学生だ。ご挨拶しなさい。」
「難波と申します。弟がごめんなさい。」
難波女王はそう言って勢いよく礼をして見せた。
「あっ、いえ。」
真備もあわてて丁寧な礼を返した。目の前の少女は、あの天智帝の孫にあたるのだ。
「難波女王、父はこのお方と少し話がある。白壁王と庭でお花を見ておいで。」
「はい、わかりました。」
難波女王はそう言ってまたぺこりとお辞儀をすると、ぼんやりと真備を見上げている弟の手を引っ張って部屋を飛び出していった。
「姉上、どちらにいくの?」
「父上が、お庭でお花を見て待っていなさいとおっしゃっていたの。」
「僕は虫がいい。」
子どもたちの声が遠くなるのを聞きながら、志貴皇子は少し笑った。
「彼らの母は宮中には立ち入ることのできない身分で、あの子たちにも苦労をかけている。普段は母の家で暮らしているから、滅多に会えなくてな。」
「はぁ、そうなんですね。」
真備は、何と答えたら良いか分からず、ぼんやりとした返事を返した。
「……老人の戯言だ。笑ってくれ。」
志貴皇子は自嘲気味に笑った。
「もうだいぶ歳をとって、後は死ぬ準備をするだけのはずだった。」
志貴皇子の脳裏に、飛鳥の山を散歩している時に偶然ひとりの女性と出会ってしまった、あの春の日が浮かんだ。
紀橡姫は下級官人の下っ端にようやく名を連ねた者の娘で、朝廷で仕事に励む父に土産を持って、親戚や女友達と飛鳥を訪れ、春の山を散策していたところだった。一方、志貴皇子は荒れ狂う政争から逃れようと春の飛鳥の山々を歩いていた。
美しい春の日だった。岩間を流れる小川の水はどこまでも透き通っていて、水底に温かい光をちらつかせていた。水は刺すように冷たく、岩間から一粒ずつ落ちてゆく雫はそのまま凍り付きそうだ。陽だまりに温められた空気とまだ冷たい風が混ざり、日陰には氷の小さな塊が溶け切らずにまだ残っていた。
その飛鳥の山で冷たさの残る土からゆっくりと頭をもたげる早蕨が、志貴皇子の瞳に刻み付けられていた。
山で出会った娘は非常に賢い女性で、春の山の自然を眺めながら和歌について話しているだけで、年甲斐もなく心が躍った。その後、和歌と手紙を交換する仲になった。橡姫は、和歌を一緒に詠んで教えてくれる”先生”がほしかったらしい。2人の距離が縮まるのに、それほど時間はかからなかった。
志貴皇子は、脳裏に浮かんだ春の日の風景をそっと心にしまい、もうすぐ大海原を超えて唐へ渡る目の前の青年に向き合った。
「真備殿。もう1つだけ、老人の戯言を聞いてほしい。」
「はい。」
真備には頷くことしかできない。
「唐から帰国したあかつきには、君はこの日本の政治の中枢に立つことになるだろう。君にはそれだけの才能と、それから覚悟がある。」
「そんな、私は一介の遣唐留学生にすぎません。」
「……県犬養石次殿からの贈り物をきちんと届けてくださった。」
そう言って、志貴皇子は優し気な、それなのにまるでせめて立てるかのような黒い瞳で、下道真備の顔をじっと見つめた。
「そなたは賢い。この日本に生まれてくれたことを、心の底から喜んでいる。それは本当だ。」
「……ありがとうございます。」
進士である真備ですら、何も答えることができなかった。ようやく形式的な感謝の言葉を絞り出す。
「だから真備殿、君に託しておこう。天武帝と持統帝の血を、草壁皇子の血を、どうか守り抜いてほしい。」
真備は、驚いて志貴皇子の顔をあんぐりと見つめ返した。
「……しかし、お言葉ですが、志貴皇子様は天智帝の血を引くお方です。そのために、いろいろと辛いこともおありだったはず。」
「……確かに、そうであった。」
絞り出すように尋ねた真備の問いに、志貴皇子は少し遠くの方を眺めるような瞳で答えた。
「しかし、もう家族が殺し合うあの辛い時代を、そなたたち若い者に味わってほしくないのだ。」
志貴皇子は、あの壬申の乱を生き抜いた人だ。彼が見た地獄を、ありがたいことに真備はまだ知らない。
「兄弟たちも従兄弟たちも、私を置いて黄泉の世界に渡ってしまった。川島も、草壁も、大津も、高市も、忍壁も、みんな……。」
廊下の向こうから、子どもたちが笑う声が聞こえてきた。難波女王と白壁王だろう。真備は子どもたちの屈託のない笑い声をぼんやりと聞いていた。
下道真備はまだ知らなかったが、この7歳の白壁王が、後に奈良の政争劇を生き抜いて光仁帝として即位し、天智帝の血脈を現代に伝えることになる。また、その子は、奈良を捨て平安京に遷都し、新たな時代を作り出した桓武帝である。
「皇位をめぐる殺し合いを防ぐためには、皇位継承を安定させるしかない。だから我々は、草壁皇子の血を引く直系男子が皇位を繋いでいくことに力を注いだ。」
「しかし、それでは志貴皇子の血を引くお子様たちが……。」
「家族が殺し合うより、ずっといい。」
志貴皇子は低い声でつぶやいた。
「だから、頼む。どうか草壁の血を。天武帝の血を守ってくれ。」
呆然とした顔で通りを歩いている下道真備を、待ち構えていた阿倍仲麻呂と白猪真成が引っ張って、人通りの多い道に必ず刺さっている木簡の陰に引きずり込んだのは、日が傾き始めたころだった。空が少し赤く染まり、人々が足早に行きかう。衛士たちが早くも松明の準備を始めていた。
「痛てえな……。仲麻呂、真成、どういうことだ?」
真備は、仲麻呂と真成があれからずっと後をつけていたことを知らない。心底訳が分からないという顔で2人を見上げた。
「真備、あの包みはどうした?」
仲麻呂が、通り沿いの土塀に押し付けた真備に低い声で迫った。木簡の向こう側で、集団になった僧侶たちが足早に歩いていく足音と経文の声が響いた。
「……志貴皇子様にお渡しした。」
「お前っ……!」
仲麻呂の黒い瞳に怒りの色が刺したかと思うと、仲麻呂がいきなり拳を振り上げた。
「おいっ、仲麻呂!」
真成が咄嗟に仲麻呂に飛び掛かり、拳を押さえつけた。真成が歯を食いしばったまま、絞り出すように仲麻呂に話しかけた。
「仲麻呂、こいつはただの運び屋だ。事情くらい先に説明してやれ。」
「……すまん、真備。」
「なんだよ、仲麻呂。」
「お前の運んだキノコは、長寿の薬なんかじゃない。毒だ。」
真備の黒い瞳にほとばしる鮮血のような光が走ったような気がして、真成は息をのんで2人の友人を見つめた。
「よく似ているから、うちでも家人が間違えて手に入れてきてしまったことがある。」
「……だからなんだ?」
「おい、真備。あれは毒なんだぞ。すぐに志貴皇子様にお伝えしなければ。」
仲麻呂は必死の形相だ。一方、真備は心底面倒くさそうな表情で仲麻呂の顔を見上げる。
「贈り物はもう渡してしまった。」
「だから、すぐに……。」
「お前らには関係ないだろ?」
そう低い声で言って、真備は立ち上がろうとした。それを仲麻呂が蹴飛ばすように邪魔する。
「お前がそんな奴だとは思っていなかったよ!人の命がかかってるんだぞ!」
仲麻呂が叫んで拳を振り上げる。真成が止める間もなく、拳は真備の頬を直撃した。
「おい、仲麻呂。真備も。」
「……だから何じゃ、クソガキ。」
「真備?」
真成が少しおびえたような表情を浮かべた。少し乱れた髪に赤くなった頬の真備が、今にも仲麻呂に殴りかからんとする表情で仲麻呂を睨んでいる。
「ああっ? 何がクソガキや。」
「仲麻呂、真備、落ち着け。」
「いい加減に大人になれって言ってるんだよ、仲麻呂。贈り物の意味くらい察せ。」
「……まさか真備、毒だと分かって届けたの?」
真成が囁くように尋ねた。真備は頷きはしなかったが、首を横にも振らなかった。
「まさか、そんな……。」
呆然と立ち尽くす真成を振り払って、仲麻呂は真備の黄色い縫腋袍の胸倉を掴んだ。
「自分が何をしたのか、わかってるのか? 人殺しと同罪だぞ?」
「黙って聞いてりゃ、ガキみたいなこと言いやがって。おどりゃあぶちくらわすぞ!」
真備が低い声でそう唸ると、仲麻呂を突き飛ばし、足を思いっきり蹴り上げた。地面に突き刺さったままの古い木簡がばらばらと音を立てて崩れた。そばを通りかかった女が、抱えた籠をぎゅっと握りしめて足早に去っていく。
「仲麻呂、真備、いい加減にしろ!」
真成も低い声で唸ると、仲麻呂の腕をつかみ、真備を押しのけ、荒い息をしている2人を引きはがした。
「真備、お前はもう帰れ。また明日、大学でな。」
「……わかったよ。」
真備は真成に向かってそうつぶやくと、血走ったような眼で仲麻呂を睨みつけた。仲麻呂も似たような眼で睨み返す。刹那の間、2人はじっと睨みあっていた。やがて下道真備は、後ろを振り返って足早に雑踏の中に消えていった。
「仲麻呂、少しは落ち着いたか。」
ばらばらになった木簡の欠片を蹴飛ばしながら、真成が仲麻呂に話しかけた時、だいぶ日が傾き、遠くの方の空はもう夜の色をしていた。松明を持っていない仲麻呂と真成は急ぎ足で家路を急いでいたが、正直なところ、2人とも家に帰る気がしなくて足が重い。
「……暴れてすまなかった。」
「明日、真備にも謝れよ。」
「でも、真備がやったことは……!」
「お前だって察しているだろ? 中納言の甥っ子さん?」
真成が声を潜めて仲麻呂に詰め寄った。仲麻呂は何も言わなかった。まるで口に出したらその言葉が現実になってしまうことを恐れる子供のようだ。
「贈り物の送り主は県犬養。つまり送り主は、橘でもあり、藤原でもあり、東宮様でもあるってことだ。あの長屋王だってそっち側だ。真備が一人で抗える相手じゃない。」
「でも、できることはあったはずだ。」
「仲麻呂、世の中は綺麗なだけじゃない。お前だってわかるだろ?」
「俺は、わかりたくない。お前にも、真備にもわかってほしくなかった。だから……。」
沈みゆく夕日に照らされる仲麻呂の顔は、悔しげに歪んでいた。真成はそんな仲麻呂の顔をわざと見ないように歩いた。
この不器用な幼馴染は、清廉潔白な青年だ。自分の意志で悪さをしでかしたことは一度もない。他人を傷つけることも決してなかった。だがこの青年はどこかか弱いところもあった。自分の意志を貫けず、周囲に流されてしまうことも少なくはない。そのたびに自分を責めていることも、真成はよく知っていた。
「もう忘れよう、仲麻呂。俺たちは、俺たちの未来だけを今は考えよう。」
あたりはすっかり見慣れた街並みだ。2人はしばらく黙って歩き続けた。真成は仲麻呂の沈んだ背中が阿部船守の邸の門に消えていくまで見送ると、兄の家に向かって駆け出した。空にはもう、星が瞬き始めていた。
「父上、県犬養からの長寿の薬など、信じてはいけません。きっと毒でしょう。」
志貴皇子の邸では、春日王が志貴皇子に詰め寄っていた。親子の目の前の机には、黒い模様のある白いキノコの包みが広げられている。窓の外には、ぞっとするほど美しい星空が広がっていて、2人を照らしていた。
「ああ、そのキノコは毒だよ。飛鳥の山でも見たことがある。」
「父上、すぐに刑部省に届け出ましょう。」
春日王はそう言いながらキノコをつまみ上げた。
春日王は、志貴皇子と託基皇女の間に生まれた皇子で、ちょうど20代の半ばを過ぎたころである。父からは天武帝の、母からは天智帝の血を引く皇孫である。最近では、ぜひ任官させてほしいとあちこちにあいさつに回っているらしい。
一方、春日王の弟である湯原王は一切官職に興味を持たず、日がな一日書物を読んだり、和歌を詠んだりしている。皇子や皇孫には田租などが支給されるため、贅沢さえしなければ官職につかなくても生きていくことはできるからだ。
「明日の朝、私が持って……。」
「その必要はない。毒に見えるが、私の知らない長寿の薬かもしれん。今日から毎晩、少しずつ煎じて飲むことにしよう。」
「父上? 何をおっしゃっているのですか?」
「いただいた長寿の薬だ。ありがたく飲むとしよう。」
志貴皇子はのんびりとした口調で答えた。まるで宴会で酒にでも酔ったかのようだ。
「父上、それは毒であると、さっきご自身でおっしゃったばかり……。」
「春日王よ、よく聞きなさい。」
春日王はあっと息をのんだ。父の声は低く真剣そのものの声であった。風流な文化人として名をはせている父がここまで鋭く重い声を出すのを、春日王は聞いたことがなかった。
「はい、父上……。」
「私は、生きているだけで東宮様をおびやかす朝敵なのだよ。」
「ですが、父上は……。」
「大津皇子のことはお前も知っているだろう。それに大友皇子のことも。」
「でも、父上が……。」
「春日王よ。我が親王家が生きのびるためには、天武帝の血を引く皇子が皇位を継ぐよう、皇位継承を安定させなくてはいけない。そうでなければ、再び皇族同士での殺し合いになり、国が乱れ、我が一族の命運も尽きるだろう。」
志貴皇子は、悲しげな顔で息子の肩を叩いた。
「決して目立ってはいけない。名誉よりも命を大切にしなさい。」
「父上……。」
春日王は肩を震わせた。涙の雫が一滴、春日王の頬をゆっくりと伝い、大きな粒となって落ちようとしていた。
「それに、私はもう十分長く生きた。病も広がってきていて、体も言うことを聞かなかくなっていた。正直もう長くはない。」
志貴皇子はそう言いながら窓の外を見つめた。姉の元明女帝が造り上げた平城京は素晴らしい都であったが、飛鳥の古い邸の、皆で手入れした庭の草花が恋しかった。この新しい都にはついぞ馴染めそうにない。
「息子よ、そろそろ兄弟姉妹や従兄弟たちのところに行かせてくれないか。」
こらえきれなくなって泣き崩れた春日王の肩を、志貴皇子は優しくなでた。零れ落ちる息子の透き通った涙を見て、思わず春の山の早蕨の清流を思い出し、静かにうなずく。
何かを成し遂げたわけではなかったが、美しい人生であった。志貴皇子にとって、それが一番の誉れであった。
窓の外をじっと見つめていた志貴皇子は、零れ落ちそうな涙をこらえようと夜空を見上げた。もの悲しくて美しい月が、静かに親子を照らしていた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
雪解けの頃の山の空気を思い出させてくれるので、私はこの和歌が好きです。
志貴皇子が、県犬養ー橘三千代・橘諸兄ー藤原不比等ー聖武天皇の勢力に暗殺されたという筋書きは史実ではありません。史実の志貴皇子の死因に関する詳細な記録はなく、彼自身の立ち振る舞いや年齢を考えると、わざわざ暗殺する必要もないでしょう。
ですが、志貴皇子に、この物語の吉備真備に影響を与えてほしかったので、志貴皇子の死の原因に関わってもらうことにしました。
志貴皇子の和歌は、自然や人間をよく観察し、自分の中で何度も推敲して言葉を磨き上げたのだと1300年後にまで伝わってくるような和歌が多いです。万葉集は大らかでのびのびとした和歌が多いので、その中でも透き通った氷のようにきらめいています。ぜひ皆さんも味わってください。




