真実の愛に目覚めた?それって下半身で芽生えた寝室の愛では?
「すまない、エルザ。私は真実の愛を知った。婚約を解消してくれないか?」
「婚約を解消することに何も不満はありませんが……おことばですが貴方のそれは寝室の愛だと思うのです」
婚約者に唐突に呼び出されて何かと思って行ってみれば、女を侍らせてそんなことを宣う元婚約者(笑)。
「?だから真実の愛に目覚めたと言っただろう。私はエミリーの柔らかな優しさに包まれてこれが真実の愛なのだと知ったのだ」
「おそらくなのですが、その柔らかさは貴方の思う愛の柔らかさではないかと……いえたしかに私にはその柔らかさはありませんが」
エミリーと呼ばれた女性を見る。そして自分を見る。
圧倒的な差がそこにはあった。
あれならばフニとかそう言うレベルではなくフニフワトロだろう。
「ふふ、君も少なからず自覚があったと言うことだね。それならば話は早いだろう。このまま結婚しては互いの不幸になる」
「ええ、それはもう同意しかなくて、むしろ既に現在進行形で不幸になってはいるんですがそれは置いておいて。寝室の愛を貴方が見つけたと言われても世間的にはそれを浮気と言います。解消しても構いませんがその場合はそちらの不貞に対して不問にする示談金は頂きますし、断られて破棄をするにしても其方からの申し出ではなくこちらからの通告になると思います」
寝室の愛に目覚めたと宣う人の頭は下半身なのだろうか?
下半身が二つついてるならば上半身はどこに置いてきたのだろう。寝室で芽生えた愛なのだから寝室か。
下半身が思考するとこうなるのだから上半身もしっかりと己の立場を守ってほしい。
なんなら下半身が上半身になるような紳士になってほしい。
「私的にはあ、婚約者の心を繋ぎ止められなかった側にも問題があると思うんですけどお」
「はは、エミリーの言うことも最もだ。君に女性的な魅力が乏しいのも原因だからね」
「残念ながら、婚約者がいるのに近づく方も、婚約者がいるのに相手をするのも、世の中では問題なんですよね。まあ寝室の愛の前にはどんな論法も通じないでしょうが」
ハッハッハと笑う下半身男とウフフと笑う間女。
二人とも状況を把握できない二人だけの世界に生きている。
寝室の愛は言い得て妙だ。
夫婦の寝室は二人だけの世界。
まあ世界は寝室の外にも広がっているわけなのだが。
「では、後で使いを出しますので婚約についての話はまた後日に」
「ああ、よろしく頼むよ」
「いい返事を待ってますわあ」
その外の世界が自分たちにどのような牙を剥くかを下半身思考はきっと最後の時まで知らないのだろう。
「だって、その時の快楽で判断するような人ですものね」
寝室だけで留めてとけばよかったものを。
寝室の情事を外でペラペラと話すなんて。
寝室の愛のなんて軽い愛なのだろう。