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短編

僕にとっての

作者: ZEKE-A-TCC

 誰にでもいつも決まってすることってあるよね。散歩だったり映画を見たり、ゲームをする人はきっと多いんじゃないかな。そういういつも通りの日常。もちろん僕にもあるよ。休日に、決まって行く店があるんだ。行きつけっていう表現が分かりやすいのかな。お気に入りの、何度も通ってるような店。雑貨屋だったり本屋だったり、ゲーセンでもいいね。僕の場合は飲食店なんだけどさ。




 「いらっしゃい」

 あからさまに古い喫茶店であることを主張するような佇まいの店からそんな声が聞こえてくる。その声は聞き馴染んでいるし、その声色も常連に対する少し砕けたようなそれだ。僕は何も言わずに軽く手だけで挨拶する。そしていつものあの席へ座る。残念ながら、あるいはありがたいことに、この店が繁盛しているのは見たことが無く、いつでも好きなように席が選べる。もっと客が増えて欲しいとも思うけど、増えすぎると少し入りづらくなってしまう。まぁ、この店はきっといつまでも変わらないんだろうという謎の確信があるんだけど。


 目を閉じて、店内に流れる穏やかな音楽に耳を傾けていると、コトッと小さな音がする。目を開けばサンドイッチと、何とも形容しがたい飲み物が居座っていた。店主をにらみつければ意地の悪い笑顔がそこにある。確かに僕は何も注文していない。黙っていれば店主のおまかせでサンドイッチと飲み物が出てくるのだが、最近変なものが出てくることが多い気がする。常連として、店主にとってあまり気遣わなくていい存在になったと考えれば嬉しいことだが、今日のこれは少しやりすぎじゃないだろうか。とても飲む気にはならないぞ、これ。


 とりあえずサンドイッチに手を付ける。野菜のシャキシャキとした歯ごたえを感じながら、卵のまろやかな旨味とチーズのちょっとした塩味が押し寄せる。そしてそれを包み込むようなパンの甘さ。非常にシンプルながらこの店でしか味わえない絶妙なバランスである。次に手が伸びるのはもちろん飲み物だが、名前も知らないこの奇妙なドリンクは、やはり飲むには躊躇する。チラッと店主を見やれば素知らぬ顔で新聞を読んでいる。飲み終わったら文句でも言ってやろうと思いながら、覚悟を決めてまずは一口。その瞬間に口いっぱいに広がる爽やかな香り。あっさりとした甘さに少しだけ顔を覗かせる酸味はいくらでも飲めそうなほどである。ちょっとだけ悔しく思いながら、きれいに完食してしまった。




 「美味かっただろ」

 お金を置いて立ち去ろうとすれば、ニヤリと笑いながら店主が言う。少し肩をすくめながら僕はこう返す。



 「また来るよ」



 サンドイッチの専門店なんて他には知らない。少なくともこのあたりじゃここだけだ。店主に任せるとたまに変なものが出てくるが、最近はそれも楽しみの一つになっている。

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