私の腕の中で愛しき人は優しく微笑む
「大丈夫…私は貴方を愛しているわ」
それが最後に聞いた貴方の言葉だった
いつからだろう
人と違うようになってしまったのは
いつからだろう
人に触れることが
愛されることがなくなったのは
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この国では15歳になると教会で女神からギフトが貰える
多くの子供はその日を楽しみにしている
自分もその子供の一人だった
幼馴染のアンナとリアムと共に
揺れる馬車の中に乗っていた
教会につくと もう洗礼を受けたのか
欲しいギフトを手にして喜ぶ者
欲しいギフトを得ることが
出来ずに悲しむ者で溢れていた
そんな中 視線は僕達に集まっていた
「おい グレイ みんな見てんぞ やっぱし 伯爵の息子は期待されるよなぁ」
隣にいる リアムは軽い調子で にやにやとこちらを見る
「まぁ仕方ないだろう それも貴族となるものの義務だ
でも多分 視線は僕だけに集まってるんじゃないと思うぞ?」
商会の息子 王宮薬剤師の娘 伯爵家の跡取り が
集まってればそりゃ視線も集まるもので
「わ、私は人を助けるようなギフトが欲しいのですが
グレイ君は何か欲しいギフトはないんですか?」
「そうだな 僕は伯爵家として人を守るためのギフトが欲しいな
僕は人を守れる立派な騎士になりたいから」
「流石 グレイくんでs」
「俺は なんでもいいかなぁ
だからって外れが欲しいって訳じゃないけどさ
家が商会だからって商人のスキルが欲しいとは思わないよ
商会は兄ちゃんが継ぐし ちっちゃいころから
大人のばかしあい見て 俺もなりたいってなるわけないじゃん笑」
「…別にリアムには聞いてないです」
「あん?」
「なんですか?(*^^*)」
(本当にリアムとアンナは仲がいいよなぁ)
「あっ グレイ君 人が減ってきましたよ?私達も行きましょう」
「そうだね 行こうか」
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「じゃあ 俺から行かせて貰おうかな」
リアムは一歩前に出て膝を着き女神像に祈った
するとあたりは白い光に覆われた
牧師は分厚い本のページをめくった
「ほぉ リアムくんのギフトは【話術者】ですか
この国を豊かにしてくれることを楽しみにしています
貴方に女神の御加護があらんことを」
リアムは暫く棒立ちになったままだったが
ハッとした表情をした後 いつもの調子で軽口を叩いた
「話術者かぁ まぁ 口のよく回る俺にはぴったしだよなぁ」
「はいはい そうですね じゃあ次は私の番ですねっ」
「口煩い女っ」
アンナが女神像に祈った
するとあたりは緑色の光に覆われた
「アンナさんは【知識を蓄えし者】ですか
アンナさんにピッタリのギフトですね貴方にも女神の御加護があらんことを」
「このギフトなら沢山の人の役に立ちそうですね
最後はグレイくんですよ 欲しいギフトが貰えるといいですね」
アンナはそう微笑んだ
グレイが女神像に祈った瞬間
あたりは赤い光に包まれた
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次の瞬間 グレイは真っ白な世界にいた
あたりには何も無く 一人の女性が立っている
何故か 女性はこちらを寂しそうな
何か懐かしいものを見るような目でこちらを見ている
「貴方は誰なんですか?ここは何処なんですか?」
「…グレイ 貴方には辛い運命を歩かせてしまう それを詫びさせてください」
「なんのことですか?」
「貴方に御加護があらんことを」
するとグレイは赤い光に包まれた
誰も居なくなった
真っ白な世界で女神はぽつりとこぼした
「例え 貴方が誰にも愛されることがない
最後だとしても 私は…貴方を愛しています」
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グレイが目を開けると周りは教会に戻っていた
(あれ?何か忘れているような…)
すると牧師は驚いたように分厚い本をめくった
「赤っ!?ちょっと待ってください【焔の鎧】!?
こんなギフト聞いたことがありませんっ…王都に一度連絡を取ってみます
ですが期待していいと思いますよ
昔から赤い光に包まれし者は様々な形で歴史に名を残すと言われています
グレイ君…貴方はきっと沢山の人を救うことになるでしょう
貴方に女神の御加護があらんことを」
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「で なんでこんなことになってんだ?」
「仕方ないでしょ王都からの依頼なんだから」
グレイは2人のやりとりに苦笑を浮かべながら
申し訳なさそうな牧師の姿を思い出していた
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「すみません 君には最近裏山で
目撃されるゴブリンの討伐をしてもらいます
ギフトに目覚めたばかりなのに大変申し訳ないのですが
何分 いまだかつてこの国で誕生したことがないギフトなので
能力を調べなければいけないのです
もちろん 君だけで行かせる気はありません
腕利きの護衛をつけます
危険だと思ったらすぐさま逃げてくれて構いません
どうぞご協力をお願いします」
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「まぁグレイのギフトも気になるし
腕利きの護衛さんもいるから安心だけどさ…」
「おい 出たぞ ゴブリンだっ」
「グレイの坊ちゃん出番だぜ」
「…分かりました」
「グレイ君頑張って!」
「うん!」
(とは言ってた見たものの どんなギフトか
まだ僕も把握できてないんだよね… こうかなっ!!)
「焼き払え ファイアー」
…しかし何も起こらなかった デスヨネ!!
「ぷぷっ」
「こ、こらっリアム笑わないの!!
仕方ないじゃない まだどんなギフトかわかってないんだもの」
「まぁそうだけど…焼き払え ファイアー(笑)」
「し、しょうがないだろっ!わかんないんだから!!」
「坊ちゃん達 お喋りはいいですけど気をつけてください!
ゴブリンは確かに下級魔物ですが 舐めてると痛い目見やすぜ」
「そ、そうですね ごめんなさい あっ!!グレイ君後ろ!!」
後ろを見ると
一際でかいゴブリンが立っていた
「シネッ」
ゴブリンは大きい棍棒をふりかざそうとしました
思わずグレイは手を振りかざすとゴブリンは一瞬で灰になりました
「何っ!?」
「あんなにでかいゴブリンが…」
「流石グレイくんです」
「凄いギフトとは聞いてやしたがここまで強力なギフトだったとは…
取り敢えず あまり長居はしない方が良さそうだな…
グレイの坊ちゃん ギフトの確認もできたことですし街に帰りましょうや」
「はいそうですね」
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ゴブリン討伐を終え 街に戻った時だった
「おいっ 盗賊が逃げたっ 誰か止めてくれっ!!」
盗賊はこちらに向かって走ってくる
「どけっ小僧 死にてえのか」
「グレイ危ない気をつけろっ!!」
その時 僕の手は勝手に動いていた
「ぐえっ」
僕の手が盗賊に当たった瞬間
盗賊は灰となって散った
「え?」
「グ、グレイ?」
グレイに声は届かなかった
今の状況を把握するのに精一杯だった
少し落ち着いて周りを見渡した時
人々の自分を見る目が変わっていることに気がついた
先程までは尊敬 羨望に溢れていた目が
恐怖 不安を映していることが分かった
彼らが恐れているものが盗賊ではなく
自分であることを把握することに時間はかからなかった
「り、リアム お、俺…」
グレイは手を伸ばそうとした しかし届くことは無かった
「ひ、ひい…あっ」
リアムは後ろに下がり尻もちを着いた
彼は平然を装おうしたが 彼の目にも恐怖が映っているのが分かった
誰も居なくなった街の中でリアムは小さく呟いた
「くそっそういうことかよ」
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それでも彼は人を守るために戦った
しかしそれでも人々の恐怖は増すばかりだった
15歳の少年にその現実は受け入れることはできなかった
彼は部屋から出なくなった 誰かに触れて欲しかった
誰かにもう一度 愛して欲しかった
コンコン
「グレイ そろそろ出てきなさい」
「無理だよ 母様」
「大丈夫 私達は誰も貴方を恐れたりしないわ」
「…嘘だッ!!忘れたくても忘れられない
みんなが恐れているのは僕だっ こんな僕にもう誰も触れてくれない
愛してくれる訳が無い 母様だってそうなんでしょ!?」
「…そんなわけないでしょうがッ」ボソッ
コツコツと部屋から離れていく音がする
…やっぱりそうなんだ
もう僕のことなんか誰も愛してくれるわけな…
ドカドカと何かが向かってくる音がすると
扉は破られていた
扉だったものの上には母様がいた
「馬鹿ねえ そんな簡単に私が貴方を嫌いになるわけないでしょ?
私を誰だと思ってるの? 私は貴方の母親よ?」
そういうと微笑み僕の頬に手を伸ばした
ジュっと肌が焼ける音がした
それでも母様は微笑みながら
優しく僕を抱きしめて言った
「大丈夫…私は貴方を愛しているわ」
そう言うと母様は、灰になった
先程 優しく微笑んでいたのが嘘のように
静寂に包まれた部屋の中で僕は泣いた
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母様の葬式が終わったあと
僕は父様の執務室に呼び出された
父様は静かに告げた
「グレイ お前には騎士団に入ってもらいたい」
僕はその瞬間に理解した
父様は母様のことを愛していた
きっと父様はそんな母様を僕のことを
見たくないのだろう
それでも手をあげないのは…
父様の優しさなのだろう
「はい 喜んでその話を受けさせてもらいますその配慮感謝致します」
そういうと父様はなんとも言えない顔で頷いた
僕は一礼をして部屋から出た
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久しぶりに机越しで見た息子は
すっかり雰囲気が変わっていた
私はこの顔を知っている
絶望を知った顔だ
それはそうだろう
最も愛していた母親をわざとではないといえ
その手で殺めてしまった
グレイは小さい頃からとても優しい子だ
きっと私が思うより辛い思いをしているのだろう
私はこの子に幸せになって欲しい
しかし彼はこの街では幸せにはなれないだろう
何かを見る度に母親のことを思い出し 傷ついてしまうだろう
父親らしいことは今まですることができなかった
今 彼に触れられないことが本当に苦しい
しかし次 私が触れてしまえば
彼はもう生きる希望をなくしてしまうだろう
騎士団に入れば 忙しい任務により
少しは私たちのことを忘れられるだろう
私はそう考えていた。
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期待通り 騎士団に入った彼は
功績を次々と立ててゆき 20歳という若さで
騎士団長の座まで上り詰めた
それでも彼の周りに誰かが近寄ることはなかった
寧ろ 功績を残してゆくにつれ
その能力を恐れ みな離れていった
もはや 彼は誰かに触れられること 愛されることを諦めていた
王宮でアンナとリアムらしき人物を見つけたが
彼女は悲しそうにこちらを見つめてどこかへ消えていった
リアムとは騎士団に入ってからは連絡をとっていない
しかし風の噂では 彼が商会を継ぎ その手腕を活かし
いまや国で一番大きい商会として名を馳せている
アンナは母親に頼み込み 王宮学者となり 研究室にこもりきり
何かについて研究をしているらしい
しかしもう今となっては関係の無いことだ
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「騎士団長グレン
貴様を前騎士団長殺害容疑で身分剥奪及び投獄とする
そして次の騎士団長は現騎士副団長ジキルを騎士団長とする」
国王の言葉に耳を疑った
騎士副団長のジキルを見るとニヤニヤと笑ってる
その瞬間 グレイは悟った 嵌められたのだと
勿論グレイは前騎士団長を殺害などしていない
寧ろ 彼は自分を気遣い 認めてくれ 騎士団長に推薦してくれたくらいだ
感謝こそすれど恨みなどするはずがない
そう思いながらも周りに味方がいないことはわかっていた
グレイは逃げ出そうと走り出した
勿論逃そうとはせず兵士が弓を撃つのだが
グレイは手をかざし矢は灰とかした
しかしグレイを庇う人間などは居らず
行く宛てもなく 必死に逃げた
城の門は既に閉ざされており 逃げ出す場所はない
そこら中で私を探す声がする
見つかるのもきっと時間の問題だろう
ここで捕まってしまうのだろうか
そんな時だった 懐かしい声が聞こえた
「よお 騎士団長さん 久しぶりだな あの時ぶりか?
… あの時は悪かったな 言い訳はしねえ
だからこそ 俺は行動で示してやる」
「こらっリアム そんな言い方しないのっ!
…グレイ君久しぶりだね
私ももう貴方に会える資格は無いと思ってたの
貴方が苦しんでた時に私達は何もしてあげれなかったから…
でも今度こそ貴方を助けます
その為に私達は5年間頑張ってきた
見て?これを これはね ギフトを和らげる魔法の書
私のギフトとリアムのギフトで頑張って見つけたんだ」
「結構頑張ったんだぜ?
アンナのギフトは沢山知識を蓄えないと
上手く使いこなせれないからな
世界中からギフトを弱める術を片っ端から探したんだ」
「…どうして そこまでして?」
「「ふははっ」」「そんなの決まってるよ」
「こうやってさ 次は離さないように」
そういうとリアムとはアンナは僕を抱きしめた
久しぶりのぬくもりだった
「どーよ 久しぶりのぬくもりは
…お前はもうひとりじゃないんだぜ?」
「そうよ 私達がついてる」
「「私(俺)達は貴方を愛してる」」
そう言って彼女達は優しく微笑むのだ
ーENDー
初めて小説を投稿します 読んでくれてどうもありがとうございました(´˘`*)