多体一
三時間たった。既に辺りは闇が支配し、人が踏み入れては行けない領域ということを主張してくる。
それでも、俺らは進む。
あの四つ眼の狼との戦闘の後、三つ眼、五つ眼の狼と出会った。
三つ眼の狼は多くの狼を引き連れて、集団戦で、
五つ眼の狼は魔力を使った魔法で仕掛けてきた。
「これ、何か関係があるんじゃないか?」
ランドに訊ねてみる。
「アデルもそう思うか?」
洗脳、集団戦、魔法。今まで出会った狼は全て何かに特化していた。
「そして、もう一個疑問なんだが。」
「三つ眼の狼以外、仲間を連れていないんだ。」
「確かに...。妙だな。嫌な予感がするぜ。」
夜の冷たい空気が、そっと俺らの体をなでる。
「アオオオオオン!」
「「!!」」
遠吠え。しかもかなりデカい。
「ランド!」
「まずいかも知れない。」
直後、周りの草むらが一斉に揺れ、碧色の瞳が無数に浮かび上がった。
全て、三つ眼が従えていた狼の目の色と同じ。
あいつらの眼の数を等級とすると、こいつらはただの弱個体。
つまり、雑魚だ。
「ランド!複数の眼をもった奴はいない!怖いのは数だけだ!」
素早くランドとの情報共有をする。
「わかった!じゃあお前もな戦えるな!俺の後ろを頼む!」
既にランドは臨戦態勢で、俺に後ろを頼むやいなや闇に浮かぶ碧眼の中に剣と自分の体を差し込んだ。
俺は、久しぶりに、爺さんの技を使おうかな。
爺さんが教えてくれた動きは力押しの動きだけじゃない。
しっかりと、相手の方が力があることを前提とした動きもある。
俺は、いつでもどの方向に動ける姿勢をとり、積極的に攻めるランドとは真逆の、迎撃主体の動きをとった。
「うおおおお!」
後ろから聞こえるランドの叫びと剣が風を斬る音、狼達の声、全てをシャットダウンし、集中する。
本来、多対一の戦闘の場合、一は攻める必要がある。
何故か。
すぐ後ろの草むらが揺れる音がする。
囲まれ、逃げ道を塞がれるというのが一つ。
全方位からの攻撃を防ぐことができないというのが一つ。
そして、
作戦の幅が広がらないというのが、一つ。
「「「「ガァウ!」」」」
一斉に狼達が飛びかかってくる。
それを無視して、目に、集中する。
あの視界が赤くなるやつ、あれをだせれば勝てる。
あれは世界そのものの動きが遅くなる。それを使えば──
目に集中する。集中する。集中す、る。
ザザザザザシュッ
いくつもの線が、体に走り、傷口から血が迸る。
これだけでも、十分な深手だ。しかし今、俺の体は衰弱しきっている。
衰弱しきった体に、この傷は...。
自分の体を支えきれず、膝をつく。
ダウンした敵を攻撃しない奴がいるだろうか?いや、いないだろう。
再度、俺の体を爪が襲う。
「ぐぅぅぅ!」
耐えきる。でも、意識が途切れそうだ。ここで、切れたら、どうなるんだ...?死ぬ...な。いくらランドでも、この数を一人で相手して無事じゃいられないだろう。
死ぬのは、嫌だ。
そんな時、狼の、目が見えた。敵を見るような目じゃない。
獲物を、餌を、とるような、作業をするような目。
興味のない目。
イラッときた。
お前らにとっては、俺は、敵ですらないと。
ただの玩具だと、そう言いたいのか。
怒りという名の火山が噴火した。
直後、視界に赤が混ざる。世界の動きが、緩慢になる。
ボロボロの体を、怒りを燃料に動かす。
狼たちは俺から少し距離をとっていたが、俺が立ち終えたと同時に、上下から同時に襲いかかってきた。
が、それも、緩慢に見える今の俺からすれば、余裕で対処できる技なのだが。
どんなに同時に見えても、個体が違う限り、必ずタイミングにはコンマ数秒の誤差が生じる。その誤差は、普通に見るだけではわからない。が、緩慢になった視界では、大きな差となって発生する。
俺は一匹一匹の側頭部に爺さんの技の一つ、
浸勁を叩き込み、脳を破壊する。
「はぁはぁはぁ。」
出血量はそこまで多くない。けど、元の体調が体調だ。
全て倒した時、俺は激しく疲労していた。
「アデル、飲んどけ。」
ランドが、回復薬を渡してくる。
「ありがとう。全員倒したよな?」
受け取って飲み干す。まずいが、これは仕方ない。
良薬口に苦しだ。
「ああ、倒してるはずだ。」
「よかった。ごめん、少し、寝させてくれ。」
「ああ、いいぞ。見張りは任せとけ。」
ドンとランドが胸を叩く。
それを見届けて、俺の意識は眠りに誘われた。
評価をつけてくださると今後の執筆のモチベがあがるので、もし続きが気になる、面白い等思われましたら評価をつけてくださるとありがたいです。




