太陽の子③
カルナが、王族の血を引いた人物である事と、そうでありながらも奴隷に育てられた男であるという話は、王城に留まらず都や近隣の村まであっと言う間に広がった。
この話を知った人々は、カルナに対して様々な見解を述べた。
カルナを奴隷としてしか見ていなかった他の商家の人々は掌を返し、彼が王族として手に入れるであろう地位におもねろうとする者もあった。
同じ奴隷の環境にありながら国王に兵士として認められた彼を誇りに思っていた者たちは、カルナの身体に王家の血が流れている事を知ると、血統以上の尊きものがない現実を改めて知り、自分たちの境遇とカルナの存在に失望した。
王族の出であっても追放される事があり、奴隷に育てられても能力によっては兵士として抜擢される事もあるのだと知った一部の奴隷や不可触民たちは、厳格な身分制度の廃止を王都に対して要求した。
王宮内でも、カルナの処遇については貴族たちが会議を繰り返していた。
果たして彼を王族として認めるかどうか、という内容だ。
血統を主張する者があれば、能力だけを評価する者、育てられた階級を侮蔑する者もある。中には、彼を自分の娘の婿として迎え、正式に王族と名乗る事が出来るようにしようという話も持ち上がった。
王国に伝わる秘宝――七つの魔装を継承する儀式の日が近付いているのだ。この儀式は事実上の戴冠式の意味も含まれており、この時に選出されるメンバーにカルナを加えるかどうかが議題となった。
“正義の子”ら五王子は、貴族や村の人々の事は気にするなと言うのだが、当事者であるカルナにはそうもいかなかった。
他の商家や奴隷たちからそう言われても気にならないが、自分が仕えていた商家や自分を育ててくれた人たちから、下手に出られたり、嫌味を言われたりする事が、堪らなく嫌であった。
加えて、王族を極端に嫌うパラシュラーマにまで、拒絶された。
“お前も、穢れた王家の血を引いていたとは思わなんだ。この俺を騙していたのだな”
パラシュラーマはそのように言って、カルナを破門した。
自身の処遇を巡って会議が繰り返されている日々の中で、カルナに二人の人物がそれぞれ接触を図った。カルナに真実を告げた母である王妃と、五王子の従兄弟に当たる“闘いの子”だった。
“闘いの子”は、王が決してカルナを認めないであろう事を滔々と語り、国の勝利の要となるであろう五王子、特に“雷神の子”への敵意を煽ろうとした。“闘いの子”は敵国と結んでクーデターを目論んでおり、カルナを自軍に引き入れようとしたのだ。
一方、王妃は、自分が王を説得し、必ずカルナに王族としての地位を与えると語った。六人の兄弟が力を合わせて、敵との戦争に勝利し、国を平定する事こそが彼の幸せであると説いたのだ。
カルナには、どのようにすれば良いのか分からなかった。分からないまま、儀式の日がやって来た。
カルナは自ら儀式に参加する事を辞退し、五王子に全ての権利を譲った。
王妃の説得によって、どうにか、司祭と王族しか参加出来ない儀式の場に立ち会う事だけは許されたが、物陰からひっそりと見守るだけだ。
カルナから王妃を通じて、従兄弟“闘いの子”を要する一派が謀反を企んでいるという事は国王に伝えられており、いざという時は王や王子たちを守るべく、警戒を強める意味もあったのだろう。
魔装継承の儀は、五王子たちの実力を王に示す事で行なわれる。即ち闘技場にて、王の前で戦ってみせ、勝利を手にした者が、王家に伝わる七つの魔装を手にする事となる。
その内容は、格闘術、弓術、そして戦車術で決められる。
抜きん出たのは、三男“雷神の子”であった。兄に勝る剛腕は、彼にしか引けない強弓を容易く扱わせた。戦車戦に於いても圧倒的な強さを見せ付け、彼が次の王となる事が確約された。
戦いに勝利した“雷神の子”の前に、七つの魔装が引き出された。
遥か遠い昔、この地を訪れた旅の勇者が、魔族に脅かされる土地の者たちの力とすべく、彼らに残した武器の事である。
“羨望の斧鑓”を始めとした、七つの武器が、“雷神の子”に譲渡される――
その時であった。
儀式の場を掻き乱すようにして、一人の男が現れたのである。
彼は稲妻の速度で、カルナを含めた警備の兵士たちを蹴散らして、七つの魔装に手を伸ばした。
そして、殺戮の嵐を、王都に吹き荒らしたのであった。