太陽の子②
カルナの生まれた地域では、司祭の一族があらゆる事柄を取り仕切っていると言っても良い。
政治を始め、作物の栽培や家畜の飼育、他国との貿易、日常での所作、医療行為とみなされた祈祷、身分制度に基づく人々の居住区――当然、戸籍の管理などに関しても司祭一族が行なっており、婚姻や出産、葬儀の折には、階級制度の内にある人たちは事の仔細を報告しなければならない義務があった。
司祭の一族の一部は、血統による後継制度によって生まれた時から上位階級にある事に驕り、腐敗したが、大半は彼らが司祭たるべく身に着けねばならない文化や思想、技術を受け継いでいる。
カルナが仕える王は若かりし頃、この司祭の一族と誤解から揉め事を起こしており、その際に睾丸を摘出されるという重い罰を受けた。これによって一族の存亡が危ぶまれたのだが、王の第一夫人、つまり当代の王妃が司祭一族の男と交わり、子を成して、司祭一族と国王一族の結び付きをより強固なものとする事となった。
王妃は司祭一族から出た三人の男との間に、それぞれ一人ずつ男児を設けている。又、二人目の妻も二人の子供を別の男との間に成していた。これが、カルナが登城した際に出会った五人の王子である。
しかし王妃は、一人目の子供を産むより先に身籠っており、これを産んでいる。だが王との正式な婚約前の話であり、未婚の母となる事を厭った彼女は初めての子供の存在を抹消する事を決断した。
そしてあの暴風雨の夜、自らの一族出身の信頼出来る御者と共に、生まれたばかりの赤ん坊を、氾濫する大河に流す事となった。この時、お腹を痛めて産んだ子を捨てねばならない現実を嘆き、せめてもの愛情の印として、自らのネックレスの鎖を外して赤子の左右の耳に取り付け、嵐から身を守るよう太陽神の呪文と文様を刺繍した布で身体をくるみ、荒れ狂う河にそっと沈めた。
王妃は、カルナの耳飾りと布を見て、すぐにそれと分かった。そして衝動的に、カルナに真実を知らせたのだった。
カルナは困惑した。自分が、育ての母の本当の子供でない事は分かっていた。しかし、自分を産んだ本当の母親が王族であった事を、すぐに受け入れる事が出来なかったのである。
王族になれなかった赤子が、奴隷として育ち、兵士として王宮に舞い戻る――何と数奇な運命であろうか。
王妃は、死んだと思われていたゼロ番目の息子の帰還を悦び、カルナの戸惑いを知らないまま、王にその事を相談した。戦争を前に、王国に伝わる秘宝を受け継ぐ者を選出しなければならないのだが、元からその候補者である五王子の中に、カルナを加える事を提言したのだ。
この話は直ちに、“正義の子”を長兄とする五王子に伝わった。カルナは、自分の存在が王位継承の障害となる事で彼らに憎まれるかと思ったが、“正義の子”は驚く程の寛容さを持った人物で、カルナの存在を認め、自分たちの兄として迎え入れた。他の兄弟たちも思う所はあるのかもしれないが、何れも父親の異なる者同士、カルナの父が誰であるかは問わなかった。
だが、これに不服だったのが誰あろう国王だ。王は、王妃が自分との婚約の前に子供を成していた事に憤り、司祭一族との結び付きの為とは言え彼らと子を成した事が不満であったと明かした。更に、カルナの存在を許容するにしても、彼が奴隷に育てられた点を受け入れられず、後継者としては認めなかった。
この時、カルナの周囲の者たちの思惑が、激しく渦巻き始めていた。
国王。
五王子。
王妃。
パラシュラーマ。
ここに、五王子たちの従兄弟に当たる“闘いの子”が加わる事になる。
そして悲劇が、加速してゆく。
あの日へ――王都全てが、紅蓮の炎に包まれる滅びの日へと。