太陽の子①
パラシュラーマの許で修行を積んだカルナは、より強く、逞しくなった。
パラシュラーマはカルナの才能を愛し、自分に持てる全ての技術を授けた。
あらゆる武器や乗り物を駆使する術は勿論、身体操作と気力の融合によって通常以上の威力を発揮する打撃法、人体に存在する無数の経穴などの弱点、この経穴によって人を死に至らしめも逆に元気にしたりも出来る活殺自在の技。
それだけの事が出来れば、どのような戦場であっても武功を立てて生還する事が出来るだろう。
パラシュラーマは王侯貴族を兎に角嫌っていて、カルナが王国の兵士として働く事に渋ってみせたのだが、彼の純朴な瞳で見つめられると制止する事も叶わなかった。
或る時、パラシュラーマはカルナに語った。自分が、王族を嫌いになった事件についてである。
パラシュラーマは司祭の一族に生まれ、他の多くの者たちがそうであるように、司祭に相応しい実力を身に着けるべく修行に励んでいた。だが近くの国同士の戦争が勃発し、パラシュラーマが家を留守にしている間、これに敗れて落ち延びた兵士により父を殺害されてしまう。
パラシュラーマはこの一件により、父を殺した人物が落人となった要因たる、王族同士の戦争を酷く憎んだ。これにより、政のあれこれで対立する王族を滅ぼしたいと思うくらいに嫌うようになったのだという。
“奴らは王と名乗っているが、本当の王ではない。我ら儀式祭式を司る力の一族こそが王だ”
そのような事を、カルナは聞かされた。
“奴らは所詮、争いによって富を築く事しか考えておらん。だから、それ以外の生命を何とも思わないのだ。我ら司祭の一族は神々との交信によって人々を正しい場所に導く事が使命なのだ。その我々こそが、かの覚醒者のように王と呼ばれるべきなのだ”
覚醒者の事は知っていた。現状の身分制度の枠に収まらない、新しい思想を持つ神の事だ。彼は不思議な力を発揮して、悩める人々に救いの手を差し伸べたらしい。
カルナはパラシュラーマからそんな話を何度も聞かされたが、その事も、覚醒者の思想も、深く理解しようとはしなかった。一族に、主に、軍師に長年に渡って擦り込まれていた、奴隷は飽くまでも奴隷にしかなれないという思想が、彼の心を捕らえていたのだ。
隣国との戦いが近いのを、王都内でも、付近の農村でも誰もが感じ取り始めていた頃、カルナはパラシュラーマの許を離れて王城へ登った。そこで、奴隷の出身ながらも傭兵部隊の長となる試験と、これに合格した後に王から任命を受ける儀式に参加する為だ。
現国王は彼の出生を、軍師が予想した通り快くは思わなかった。だが、彼がパラシュラーマに師事した事は王の耳にも入っており、次期国王候補である息子たちと競わせても遜色ないばかりか勝ってさえいる光景を見せ付けられては、認可せざるを得ない。
王には五人の息子がおり、彼らも亦、王族の習いとして戦術を学んでいた。特に、長兄“正義の子”は実直で、三男“雷神の子”は随一の戦力を持ちながら繊細さを併せ持ち、彼らと共に育った“風神の子”と“双神兄弟”も兄や弟と同じで、その立場や実力に驕る事がなく、勇気と繊細さと素直さを持ち合わせた高青年ばかりであった。
“正義の子”はカルナの実力を理解して、相手が奴隷であるにも拘らず五体投地をして敬意を表した。
カルナは奴隷の身分でありながら、王族である“正義の子”たちと共に戦闘訓練を続ける日々を送った。
そして或る時、任命式の際には立ち会わなかった一人の女性との出会いが、カルナに一つの真実を突き付ける事となる。それこそが、悲劇の始まりであったのかもしれない。
その女性は、王妃――つまり“正義の子”たちの母親であった。彼女は、息子たちが尊敬の念を表する奴隷出身の勇者を一目見ようと城から降りて、息子らにカルナを案内させた。
そこで、彼が身に着けていたイヤリング、そして腕に巻き付けていた金の刺繍が施された布を見て、はっと息を呑んだ。
“その耳飾りは?”
“その布は?”
そのように問われると、カルナは、
“生まれた時から身に着けていたものです”
と、答えた。
正確には、自分は赤ん坊の頃に河に流され、そこを今の母親に拾われて育てられたのだが、その時に身体をくるんでいたのがその布で、耳飾りは初めから着けていたものである。
王妃は息子たちをその場で解散させると、カルナの顔に手をあてがって言った。
“貴方は私の息子よ。貴方の本当の名前は、太陽の子――”