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カルナ、その力②

 あっと言う間の事であった。


 滝壺に落下した筈のカルナは、遠く離れた泉より生還し、これに驚くドンシーラ一味をまたたく間に蹴散らした。


 その突きも、蹴りも、今までとは比べ物にならない速度と威力を誇っており、頭部や鳩尾、脇腹などの急所に炸裂したり、ツボを精妙な打撃で突いたりする訳ではなく、純粋なパワーによるダメージが野盗たちを次々にノックアウトしていった。


 残ったのは、ドンシーラとディアナ、そして槍使いの一人だけであった。


 この槍使いと、カルナが対峙している。

 カルナに対し、一敗地にまみれている。その雪辱を晴らす時だ。


 とは言え、泉の底から跳び上がる、海のギャングの如き跳躍力を発揮したカルナに対し、その手が震えるのも仕方がない事である。


 この怯えを振り切り、カルナに向けて突きを放つ野盗。


 しかしカルナは突きを横に躱すと、薙ぎ払いが発動するよりもずっと速い速度で地面を滑り、後ろ回し蹴りを相手の脇腹に叩き付けた。


 それまでのカルナであれば、足刀か踵によってダメージを与える事はあっても、それはツボを押す為の痛みであった。しかし今回は違う。回転をたっぷりと加えたカルナの踵は、槍使いの脇腹を粉砕し、相手の口から灰色の液体をこぼさせながら転倒せしめた。


 八人が、八人とも、辛うじて息をしているだけの状態に陥っていた。


 ドンシーラとディアナは、部下たちがカルナの前に打たれ、蹴られ、倒れてゆくのを、遠巻きに眺めていた。そしてカルナの身体に傷が一つもない事を確認して、現状を呑み込めないでいる。


「な、何であんた、生きていやがるんだ……!?」


 ディアナが訊いた。


 野盗の吹き出した血を顔や胸に浴び、拳の先を赤く染めたカルナは、イリスが咳き込みながらどうにか蘇生して、傍に座り込んでいる泉を指差した。


「あの滝壺は、この泉に繋がっていた。俺はその水路を使って、ここまでやって来た……」

「地下の……伏流水か」


 ディアナは、アムンで使用している井戸水が、豊富な地下水を利用しているものだという事を思い出した。


 だが、その説明で納得出来るものではない。仮に滝から落ちる際、崖にぶつかって拘束していた縄が切れ、落下の衝撃を少しでも和らげて死を回避したとしても、カルナは全身をなます切りにされ、手足には杭を打たれたのだ。


 その傷痕がないのは、おかしい。


「俺からも訊きたい事がある。君は何者だ? ディアナさん……イリスちゃんの姉ではないんだろう?」

「――ああ、そうさ、あたいはディアナじゃない」


 ディアナと同じ顔をした女は、左の上腕に装備した銀の腕輪を手で撫でた。すると腕輪は、彼女が以前見せた、四大元素の魔力が中和された紫の光を放ち始めた。


「デルタグランドとムーンアクア、ジュエルフレイムの魔装を重ね掛けして、顔の形を変えたのさ。精神を自分で操作して暗示を掛け、細胞の水分を操作して配列を変え、身体強化の応用でね」

「偽物にしては、巧い事ディアナさんに成り済ましていたようじゃないか。思い出まで……」

「何処かの偉い学者が言っていたよ、記憶ってのは、感覚器官が捉えたものを脳に送るのと同じ……電気信号? とやらの集まりに過ぎない。ヘキサウィンドの魔装で眼や耳が良くなるのと同じような原理で、他人の記憶を再現する事も出来るのさ。そしてその状態を維持するのが、この腕輪の役目」

「凄いな……それだけ君が、魔装を使いこなしていたという事か」


 カルナは心の底から、感心しているようだった。その様子に偽のディアナはかちんと来たようで、ぞろりとひび割れた剣を引き抜くと、切っ先をカルナに突き付けた。


「今度こそ、とどめを刺してやる!」


 剣に、赤と蒼と緑と黄の光が集まり始める。魔力が中和され、紫の輝きが刀身を包み込んだ。


 当たり前のようにやっているが、四大元素の魔力を中和する事は高等技術だ。魔装を複数持つ者はいても、その力を混ぜ合わせてより強大な威力を発揮させる事は難しい。地水火風は同列で、それらを中和した虚空、或いは光の魔装は上位の力と説明していたが、これを疑似的にでも再現し、自在に操れる者は、魔装使いの中でもごく僅かだ。


「その才能を、どうしてもっと良い事に……人の為に使えないんだ、君は」

「――黙れッ!」


 偽のディアナは光の剣を構え、カルナに斬り掛かった。


 強烈な稲妻のような一閃を、カルナは躱した。槍使いの一突きや、何ならば走行中の戦車から放たれる矢よりも早く、鋭く、遠く、強い一撃である。


 生半なカウンターを取ろうとすれば、却って身を滅ぼす事になるだろう。


「死ね! 死ね! 死ねぇッ!」


 ディアナの剣は光の尾を引き、カルナを追い詰めた。その斬撃が掠めた箇所は、じゅっと音を立てて細胞が焼き切れるようでもあった。


 カルナは泉のほとりから後退し、遂に一本の太い樹の幹に背中をぶつけてしまう。

 偽のディアナは血走った眼を見開き、カルナの動きを封じた刹那を光の刺突によって貫こうとした。


「貰ったァッ」


 がきん! と、凄い音がした。

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