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英雄の死②

 ドンシーラは部下に命じて、カルナの身体を雁字搦めに縛り上げさせた。


 持ち上げさせた両腕を、頭の上で交差させ、うなじの辺りで掌を重ねさせる。肘にひねりを加えさせて前腕を矢で貫通して、この矢の両端に結び付けた縄で、上半身ごと腕を拘束する。


 右脚を頭の方まで引き上げると、太腿の上にやった縄を腰に回し、膝を外側に折り曲げさせて、脛と腿に縄を三巻き程して、足首に結び付ける。左脚は、右の尻たぶに腿の内側を触れさせるように身体の右側にやると、踵が腋の下を見上げる形の脛を、足首から左肩に伸ばし、背中を通した縄で縛り付けた。


 驚くべきは、体力を消耗して尚、そのような柔軟性を発揮するカルナの肉体である。並の人間ならば、気を失っていたとしても悲鳴を上げるくらい、関節をでたらめに絞り上げられているのだ。寧ろ、これが面白くて、野盗たちはカルナをここまで惨めな姿に変えてしまったのではないだろうか。


「ドン、こんなもんでどうですか」


 そう言って三人組を作った男たちが、人の背程の流木を運んで来た。あちこちに突き出した枝を切り落として、丸太状に形を整えると、この上にカルナを乗せて縄で括り付けた。

 そして両端を掘り返して、空洞になった部分に手頃な石を放り込み、最後に大きめの石で蓋をする。


 全身から流した血が、固まって黒ずんだものを纏わり付かせているカルナは、最早、流木表面の隆起や模様の一つにしか見えなくなっていた。


「さぁ坊ちゃん、死出の旅立ちだぜ。何か言う事はあるかい」


 ドンシーラは問うのだが、カルナは答えない。その一点だけ、ほんのりとつまらなさそうな顔をすると、ドンシーラは顎をしゃくって部下たちにカルナと流木を運ばせた。


「やめて……」


 イリスが弱々しく言った。


「もうやめて……お願いだから、もう、やめてよぉ……」


 その願いも虚しく河の流れに掻き消される。


 野盗たちはカルナを縛り付けた流木を担ぎ上げて、河の瀬まで移動させる。

 その流木を、ドンシーラが蹴り付けた。

 流木が一回転して、カルナの身体を地面とサンドし、次に引っ繰り返った時、河の中に落下した。


 幅の広い河だ。しかも流れが速い。カルナを括り付けた流木は、水に押し流されつつ、内側に入れられた石がごろごろと移動するので重心が変わり、前後や表裏が逆になって、拘束されたカルナを苛んだ。


 カルナ側が水に沈んでも、浮かび上がっても、野盗たちは歓声を上げたり口笛を吹いたりして、流木が崖のふちに近付いてゆくのを湛えていた。


 ドンシーラたちはカルナを追うように滝に近付いてゆく。イリスも、ディアナに引き連れられて同行した。


「落ちるぞーっ!」

「滝だぞ、滝!」

「死ね、小僧!」

「地獄行き決定ーッ! ぎゃははははーっ!」


 人を痛め付け、残酷な死を与え、それでも笑い続ける野盗たち。


「そら、最後のお別れをしな」


 ディアナは先んじて崖のぎりぎりまでやって来ると、イリスの顔を下まで突き出させた。

 滝壺が見えないくらいのオーバーハング。崖の下にも、彼方へと続く川があるのだが、その地面は遥か遠い。アムンの壁など、天然の崖と比べれば赤子と大人くらいの違いはある。


 壮大な光景だ。大量の水が、真昼の太陽を浴びて七色の橋を作り出している。


 カルナを乗せた流木が、カルナ側を上に向け、彼の頭を崖の先にやり、イリスたちの横にやって来た。

 その先端が崖から飛び出し、カルナの上半身が宙を舞う。


「カルナさーん‼」


 イリスは金切り声で叫んだ。


 一瞬、水面と空中に跨った流木は、次の瞬間には角度を傾けており、自重に逆らえずに崖に沿って落下した。大質量のものが、空気を叩き付ける音がして、カルナと流木はオーバーハングの向こう、虹の彼方に消えた。


 着水の音さえ聞こえない高さだ。


 普段は柔らかい水が、高所からものを落とした時、硬度を石畳に変える事くらい、イリスでも分かっていた。


 助からない。

 助かる訳がない。


 よしんば、着水の衝撃によって命を奪われなかったとしても、あれだけ痛め付けられ、大量の血を流し、拘束された身体で、川岸に上がれるとは思えなかった。


 死んだ――


 自分が、町を守って欲しいと願った、異国の英雄は、死んだのだ。

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