平和の町アムン②
「おかえり、イリスちゃん!」
「いつもご苦労さま!」
「後でうちに寄りなよー、ご飯、食べさせてあげる!」
「イリスお姉ちゃん、一緒に遊ぼー!」
「お祖父ちゃんの調子はどう?」
「何かあったら、すぐに言うんだよ」
カルナを案内しながら、イリスは町の色々な人たちに声を掛けられていた。
笑顔で愛想良く返事をして、年長者には礼儀正しく、子供たちには同じ目線に立っている姿を見れば、彼女がそうやって人気になるのも頷けた。
「カルナさん、少し付き合ってくれる? これを届けなくちゃいけないの」
イリスは、カルナが運んでくれていた籠を背負って、町のあちこちへ移動した。
食堂や浴場、工房など、火を使う必要のある場所に、枝を届けるのが彼女の仕事であるらしい。
それに付き合っている内に、カルナはアムンの町の道などを、おおよそ把握出来るようになっていた。
石塀でぐるりを囲まれた町である。
住民は、三〇〇〇人くらいだろうか。
カルナが入って来た北の門の他に、東と南の入り口があり、井戸のある中央広場まで一直線に幅の広い道が伸びている。
道は石畳で舗装され、建物も頑丈なレンガ造りである。
殊更に高い建物はなく、二階建て、三階建てのものが最大であった。
面積で言えば、町に三ヶ所……北の大通りの右手の宿屋の並びの奥、南東のブロックの中頃、そして南の通りの左手、宿屋の間にそれぞれある大浴場が、一番広い。
宿から幾らか離れた場所に、食堂があった。
住宅が密集していない西側に、工房がぽつぽつと並んでいる。
中央広場では、子供たちがはしゃいでいる。
「お待たせ!」
最後に立ち寄った東の大浴場で、枝を配り終えたイリスが、外で待っていたカルナの所へ戻って来た。
「宿に案内するわ! それとも、ご飯食べる?」
「そうだな……腹が減った、何かを食べたい気分だ」
「では、こちらへどうぞ!」
と、イリスが食堂に向かって歩いてゆく。
その後を付いてゆくカルナ。
「そう言えば――ここは、貿易の要衝になっているんだよな」
「ええ、そうよ」
「にしては幾らか、活気がないように思えるが」
「――」
イリスが足を止めた。
カルナの言うように、町には人がいるものの、旅の要衝という風景ではない。
多くの人たちが似たような服を着て、大人しく暮らしており、様々な国の人間や旅団がひっきりなしに訪れる人種の坩堝というイメージとは程遠かった。
道端では海外の宝石や装身具、食器、食べ物などを売っている人間も幾らか見られたが、客足はまばらであった。しかも露天商を訪ねても、ものを買うではなく、困ったような顔で二言三言話して、元来た道を引き返してゆくだけだ。
カルナのような異国の人間は少なかった。いたとしても、カルナのような一人の旅人で、旅団や兵団の類ではないとすぐに分かる。
「じ、実は……」
イリスが振り向いた。今にも泣き出しそうな顔をして、カルナの事を見上げている。
そうしていると不意に、
「てめぇ、何のつもりだ!」
そういう口汚い罵声が、二人の耳に届いた。