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地獄の高原①

 後ろ手に縛られたイリス、ファイヴァル、パーカロール、シグサルァの三人は、戦車から引き摺り下ろされると、乱暴に地面に投げ捨てられた。


 太陽が中天に達している。アムンから三台の戦車を使って離脱した六人の盗賊と、明け方の戦いで撤退したドンシーラを含む八人が、真昼のマクール高原で合流した事になる。途中で傷の手当てをしていた事と、怪我に響くのを考えてゆっくりと走っていた事で、こんな時間になってしまった。


「随分と遅かったじゃねぇか。他の奴らはどうした?」


 ドンシーラが、たった三台しか戦車が帰って来ないのを見て訝った。


「そ、それが……」


 戦車を操縦していた男が、訳を説明する。

 意外な抵抗に遭った事が、双剣使いの両腕が使えなくなっている事と、ハンマー使いの男の右手が裂けているのを見て、分かる。


「あんな腰抜けの町に、何を手古摺っていやがるんだ」


 ドンシーラは呆れたように言うと、双剣使いの男の両腕を肩から、ハルバードの斧で斬り落としてしまった。

 悲鳴を上げる間さえ与えられず、双剣使いの男は咽喉に穂先を突き立てられて、絶命した。


「酷い……」


 パーカロールが呟いた。

 それを聞き付けたドンシーラは髭の奥の唇を、にッと吊り上げて、囚われの四人に歩み寄った。


「温室暮らしのお嬢さんには、ちょっと刺激が強かったかな。まぁ、生きるの死ぬのの世界はこういうものさ」

「ドン、その女、やっちまって良いんですか!?」

「前に仕入れた女たちは、もう駄目になっちまったからよー、溜まってんだぜ、こっちは」

「幾ら俺らだって、死体とやる趣味はねーんだぜ!」


 他の野盗たちが、眼をぎらぎらとさせて、縛られたイリスたちの事を眺めている。

 見れば、彼らの戦車の周りには、裸体の女の骸が乱暴に散らばらせている。戦車の前面に磔にされていた女たちの内、鹵獲する事で救助出来た以外の者たちだ。

 救出したと言っても、何れも酷く消耗しており、生きる気力を回復するまでにどれだけの時間が掛かるか分からない。


「ふん、堪え性のねぇ奴らだ。良いだろう、やっちまえ。……ただし、その一番小さい餓鬼には手を出すな」


 一番小さい、と言うのはイリスの事であるらしい。


「何だよ、ドンは子供が好きなんだっけー?」

「だから最近はご無沙汰だったんですねぇ」


 男たちは下卑た笑みを顔に張り付けて、女たちに近付いた。

 腕を縛られており、立ち上がる事の出来ないまま、尻で地面を後退るパーカロールとシグサルァ。しかしファイヴァルは膝立ちになると、男たちを睨み付けた。


「この子たちに、手は出させない……」


 そう言おうとしたファイヴァルの顔に、容赦なく男のパンチが浴びせられた。

 次いでお腹に蹴りをねじ込まれて、ファイヴァルの身体ががっくりと崩れ落ちる。


 餓えた野盗共は、蝉の死骸にたかる蟻のようにファイヴァルの身体に折り重なると、好き勝手に彼女を弄んだ。


「俺はこういう、反抗的な女をが好きなんだ!」

「力じゃ勝てねぇくせに強がりやがって」

「ババアの割にはなかなかどうして、悪くねぇぜ!」


 複数人がかりで、拘束された上に暴行を受けるファイヴァル。気の強い彼女らしからぬ高い悲鳴を上げるも、野盗たちは躊躇ったり、良心の呵責に悩まされたりする事はないようであった。


 あぶれた男たちは、残るパーカロールとシグサルァにも迫ってゆこうとする。


 イリスに手を出すなと言ったドンシーラを揶揄したものの、彼女らも年齢で言えばそう変わるものではない。身動きの取れない少女に襲い掛かるさまは、イリスの眼に、彼らを人間ではない何か別種の存在のように思わせた。


 イリスはドンシーラを睨み付ける気持ちさえ失って、虚ろな眼で眺めた。


「貴方たちは、本当に人間なの……? そうだとしたら、どうしてこんな酷い事をするの!?」


 ドンシーラはイリスの前にやって来ると、彼女の髪を掴んで、笑った。


「さぁ、どうだろうな」


 と、開いた口から、二つに割れた舌先を覗かせる。瞳孔をきゅっと収縮させて、金色に輝かせているのを見ると、ドンシーラが人間ではない何かである事は確実であるようであった。


 そのドンシーラは、異形に変じた眼と舌で、イリスから何かを感じ取っている。


「お前はどうなんだ?」

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