疑惑①
生き延びた人たちは中央広場に集まっていた。
その間、カルナは動ける人間たちを指揮して、消火作業を行なった。
幸い、アムン内の建物は多くが石やレンガで造られており、炎上した建物を崩す事で火の手が広がる事を食い止められるようになっている。その為のハンマーなども準備されていた。
それが追い付かない場所には、ドンシーラ一味が残した戦車を使って水を運搬し、消火してゆく。
夜明け前の、一番暗い時間に、漸くそれらの作業が終了した。
消火作業に当たっていたのは、カルナ、ディアナ、ジャスク、ガバーレ、ライヤ、エイヴァン、そして他に生き残った人たちである。
フィーアとレブーキス、ワライダは命こそ助かったが、重傷だ。
戦士として立候補した、サルバー、タルセーム、バンナゥは命を落とし、ファイヴァル、シグサルァ、パーカロールたちは連れ去られてしまった。
負傷したビルマンの代わりに避難誘導を買って出たモーバも、有事の際にはカルナへの伝令を任されていたシェイも、死んだ。
長老的立場でもあったダイパンも、無残に殺された。
カルナに町を守って欲しいと頼んだイリスも、連れてゆかれた。
他にも、多くの人たちが命を奪われた。
カルナがやって来た時から、半分近くの数の人たちが、犠牲になっている。
消火を終えたカルナたちが中央広場に戻って来て、井戸から水を飲んだ。
「どうするよ、センセ……」
「――」
「幸い、アシはある。連中を追い駆けて、ぶちのめし、連れてゆかれた女たちを助ける……」
「俺はそのつもりだ……」
カルナが言う。
「私もそのつもり」
と、ディアナが前に出た。
三人に続く者はなかった。
ガバーレでさえ、無言を貫いている。
「――何でこんな事になるんだ……!」
誰かが言った。
「俺たちは平和に暮らしていたかっただけなのに、どうしてこうなるんだ!」
その言葉を呼び水として、町の人たちが次々に声を上げた。
「だから戦いなんてやめて置けって言ったんだ」
「変に刺激するから、こうなってしまったんじゃないの?」
「終わりだ、終わり、この町はもう終わりだよ!」
「よさないか!」
ジャスクが声を上げた。
「子供たちは兎も角、あんたたち大人は、全員、ダイパンの言った事を聞いていた筈だぞ。反対意見があったなら、その時に言えば良かったじゃないか!」
実際、反対する者は少なくなかった。しかし最後には彼らは黙ってしまい、ダイパンの決定に従うという事になった。
「こんな事になるなんて聞いてない!」
「安全だって言ったじゃないか」
「カルナさんが避難経路を決めて置くように言ったじゃない、それで平気だって」
「やめろ、みんな! 先生に全ての責任があるとでも言うのか?」
ガバーレが漸く、重い口を開いた。
「発案は先生だったかもしれないが、みなで協力して、経路を決めただろう。それに、奴らはどうしてかその経路を知っているようだった……今、先生に責任を負わせてどうなる?」
「じゃあ、どうしてあいつらは俺たちが逃げる経路を知っていたんだ?」
「そうだ、奴らは避難経路に先回りしていた……」
「それに、何で脱走なんてする事が出来たのかしら」
「しっかりと見張っていなかったんじゃないのか!」
有志たちが人々を抑えようとするのだが、彼らは口々に不満を並べ立てた。そうしている内に彼らはヒートアップして、カルナを注視して、大声でがなり立てていた。
「そもそも、その男が怪しいんじゃないのか!?」
誰かが、そんな事を言い始めた。