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炎の記憶⑤~相乗り・追跡~

 明け方の戦いの続きだと言わんばかりに、鎖付き鉄球を持つ男が、ディアナの前で得物を振り回す。


 ディアナは朝とは違って、剣を持っているだけだ。

 地の魔装で身体を強化する事も、風の魔装で鉄球の動きを読む事も出来ない。


 鉄球使いの男は、ディアナに向かって鉄球を放り投げた。


 避けて躱すと、地面に鉄球がめり込んで、石畳を砕き散らす。

 これを引き戻すと、ディアナの脇に向かって鉄球が飛んで来る。


 ディアナはステップで鉄球を避けるが、鉄球使いはその動きを呼んでいたように鎖を振るった。

 思わず剣で鉄球を受けるディアナ。刀身に亀裂が走るが、折れるまではしなかった。

 だが、その剣に鎖を絡み付かせると、鉄球使いはぐぃと手前に引き寄せた。

 ディアナの身体が浮かび上がり、相手の男に引き寄せられる。


 ――それなら!


 引き寄せられる勢いを利用して、腰から下げた鞘で殴り掛かろうとするディアナ。


 鉄球の男はにやりと笑うと、鉄球の反対側に余った鎖を、この鞘に巻き付けてしまう。そうして自分は、鉄球と反対側の真ん中辺りを握って、ディアナの身体を強く引っ張った。


 バランスを崩してたたらを踏むディアナのボディに、鉄球使いが爪先をねじ込んだ。


「げぶぅっ」


 剥き出しの腹に靴の先を入れられて、ディアナが片膝を突く。

 続けて顔を蹴り付けると、倒れ込んだディアナの右手を踏み締めて、剣を手放させてしまった。


「お前……っ」


 口の端から血を流しながら睨み付けるディアナを、サディスティックな笑みで見下ろすと、鉄球使いの男は彼女の頸を掴んで立たせ、頬を鋭く引っぱたいた。


 そしてふらふらの背中に、鉄球を放り投げてゆく。

 拳大の鉄球が、魔装で精神のリミッターを外した男の力で、思い切り腰に打ち付けられれば、腰椎が砕けて二度と立ち上がれなくなる。


 すると、その投げ付けられた鉄球を、間に入ったカルナが掌で受け止めた。

 そして、その動きを予想される前に、カルナは鉄球使いの顔面に拳を炸裂させていた。


 鼻骨を折られ、顔の真ん中から血を噴きながら倒れる鉄球使い。


「ディアナさん、大丈夫か!?」


 その場に片膝を突いて息を荒げるディアナに、カルナが駆け寄った。


「情けないな、全く……」


 ディアナが口元の血を拭い、眉を寄せた。

 カルナは、先程の事が脳裏をよぎり、彼女の顔から目を逸らしてしまう。


 それが幸いしてか、迫る危機に逸早く気付く事が出来た。カルナがディアナの身体を抱えて横に転がると、それまで二人がいた空間を数本の矢が貫いていた。


 アムンの中で戦える者たちの足止めに出向いた男たち以外の三人は、先に鹵獲されていた戦車に乗り込んでおり、この内の二台から、カルナとディアナを狙って矢が放たれた。


 この二台に、タルセームを斃した槍使いと、ジャスクから逃げ延びた双剣使いがそれぞれ同乗した。


 そしてバンナゥの命を奪うきっかけとなったもう一台に、ハンマー使いも飛び乗り、発進させる。


 戦車には、捕らえられたファイヴァル、パーカロール、シグサルァが乗せられていた。時間がなかったから操縦士と射手と一緒に盾の内側にいるが、このまま逃がしては襲撃時の女たちのように、磔にされてしまうだろう。


 ドワーフ製の戦車の馬力はなかなかのものである。直進されて追突されたら、屈強な戦士とても危ういかもしれない。


 カルナもジャスクも、これを避ける他なかった。

 三台の戦車は、タルセームとバンナゥの遺体ばかりか、それまで仲間であったものが倒れているものさえ引き潰して、東の門へ向かって走行していた。


「追うぞ、センセ!」

「ああ!」


 カルナとジャスクが残された戦車に飛び乗った。ジャスクがペダルを踏み込んで、戦車を走らせる。カルナは前面の盾の上から顔を出し、後方へ矢を射掛ける敵戦車を追わせた。


 敵の戦車隊は広場から門へ直進する通路を、三方向に別れた。一つはそのまま門へ、もう二台は左右の小道に展開する。


「右の先は道が入り組んでいるが広い、左は狭いが途中の角から大通りに戻る事が出来る……どうするセンセ!?」


 ジャスクが訊いた。

 カルナは前面の盾に刺さった、全部で六本の矢を引き抜くと、


「正面だ。奴らが逃げようとする前に仕留める」

「了解! 所でこれ、もう少し速く進まないのかね」


 ジャスクはそんな風にぼやいた。

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