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平和の町アムン①

 アムンの町は、高い石の壁に囲まれている。

 均等に形を整えた石を、高く積み上げているのだ。


 登ろうと思って登れないような高さではないのだが、それをやっている内に壁の上で見張りをしている人間が、不法侵入者を発見して何らかの対処をするだろう。


 壁のてっぺんから僅かに下に、小窓が開いている。つまりあの内側に、人が通れるスペースがあるという事で、見張りの人間はあの子窓から顔を出して弓矢や鉄砲で侵入者を脅す事が可能だ。


 そこまで辿り着いて、遠距離武器から逃げようとすれば塀から飛び降りるくらいしかないが、落下して巧く受け身を取れなければ、最悪、死んでしまうだろう。


 壁の根元は地面を掘り返して広い溝を作っており、渡された橋以外からは町に入れないようになっている。橋の向こうに、一〇人未満の人が身を寄せ合えばどうにか並んで通れるように壁がくり抜かれており、内側に向かって扉が開いていた。


「ただいまー、シェイさん、モーバさん!」

「お帰り、イリスちゃん!」


 橋の手前には二人の男が、簡単な造りの椅子に座って向かい合っていた。イリスと同じ貫頭衣を身に着けているが、彼らはカルナと同じように下半身にズボンを穿いており、傍らには木を削って作った棍棒が置かれていた。


 口髭を蓄えているのがシェイで、若いのがモーバだ。


「ん、イリス、その男は誰だ?」


 モーバが、カルナを見て言った。


「森から来たのか? 怪しい奴だな……」

「やめてよモーバさん、この人、悪い人じゃないよ!」


 カルナを睨むようにするモーバの前に、イリスが立ちはだかった。

 モーバはシェイの方に眼を向ける。


「イリスちゃんが言うんだ、きっとそうなんだろう」

「えへっ、ありがとう、シェイさん」

「しかしあんたも変わってるな。あの森は盆地一帯に広がっていて、かなり遠回りになるが、迂回すれば、東の門まで、平らな道を通る事が出来たのに」


 シェイは東の方角を指差した。


 石塀は円形になっているようで、そのカーブの向こうには確かに、アムンの町と同じ高さの地面が確認される。シェイの言うように、森を通らない場合は時間が掛かるものの、一般には魔族の潜む魔界や魔境と称される森を通るよりも、安全な道程であった。


「タパスですよ」


 カルナは言った。


「色々と、やってみたい事があったんです」

「ふぅん……」


 シェイは、カルナの言葉には興味がないらしかった。


 アムンは旅団の要衝となっており、町には異国の人々が出入りする事が頻繁だ。だから、町を訪れる人間の風体や発言が少し変わっていても、気にしないというスタンスであるらしい。


「何にしても、客人は歓迎するよ。アムンへようこそ!」


 シェイはそう言って、カルナを招き入れた。


「ありがとう御座います」


 カルナが胸の前で両手を合わせて、軽く頭を下げる。


「私が町を案内して上げる! ……そーだ、シェイさん、モーバさん、門番の仕事、ちゃんとやってなくちゃ駄目よ! 門番の仕事は、悪い人が町に入るのを防ぐ事なんだから。そこに立っているのは、飽くまでも町を守る為の手段なんだからね!」


 イリスはカルナの後に付いてゆきながら、門番の二人に言った。シェイとモーバは顔を見合わせて笑い合って、


「イリスちゃん、急にどうしたんだい?」

「分かったような事言ってら! 言われなくても、真面目にやってまーすよ!」


 と、声を掛けた。


「平和な町なんだな……」


 カルナが、門の内側に向かって手を振る二人を肩越しに振り返り、言った。

 イリスは、


「ええ、そうね……」


 と、薄い笑みを浮かべて言うのであった。

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