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炎の記憶③~少年~

 脱走した囚人たちは四人一組のグループに分かれて、それぞれ行動を開始した。


 四つの内の二つのグループは、大浴場に向かった。ここで火種を手に入れて、自分たちが捕らえられていたエリアに火を放った。


 三つ目のグループは、栄えていた頃は武器や防具の修理を担当していた工房へ向かった。ここに、奪い取られた魔装が保管されているからだ。これに加えて予備の剣や槍、棒、弓などを手に入れた。


 そして四番目のグループは、更に二組に分かれて、火災から逃げ出そうとする者たちを追い詰めた。町に作られた迷路を逆に利用したり、簡単な衝立を使っているだけの場所を変えてしまったりして、当初予定していたような袋小路に逆に追い込まれた人々を襲撃した。


 南側のブロックを担当していたのは、ファイヴァルだった。幾ら体格が良くても、戦った事はないファイヴァルを、脱走した囚人たちは簡単に御してしまう。避難指示を下す彼女を失くした人々は混乱して逃げ出すのだが、逃げた先には炎や、別の囚人が待っていた。


 盗賊たちは町の方々に広がって、まるで自分たちの庭のように駆け回って合流と離脱を繰り返し、気が付けばそれぞれが武装して、逃げ惑う人々を惨殺していた。


 そんな中で、初めに有志として手を挙げた者たち――ファイヴァルを含む六人は、炎から人々を守る事は勿論、盗賊らからも安全に逃がす事を考えており、それが仇となってしまった。


 サルバーと、負傷したビルマンに代わって避難役を買って出たモーバは、殺されてしまった。

 パーカロールと、シグサルァは、捕らえられた。


 そしてワライダも亦、西のブロックで人々を逃がそうとしていた所である。

 ワライダは近隣の住民たちを逃がす為に、最後まで逃げる事が出来なかった。


 火宅から逃げ遅れた子供を連れ出し、家の外で待っていた母親に渡すと一緒に門まで走ろうとするのだが、背中から急に斬り付けられた。


 刀を持った盗賊が、後ろに立っていた。

 盗賊は子連れの女を見て舌なめずりをした。


 ワライダは、貫頭衣ごと背中を斜めに切り付けられ、血をどくどくと流している。

 それでも立ち上がって、母親と子供に赤く染まった背中を見せて、盗賊の前に立ちはだかった。


 炎で照らされて尚、少年の顔は真っ蒼に変わっている。それでも、自分の役割を全うしようとした。


 盗賊は彼の弱々しい抵抗に、酷薄な笑みを浮かべて刀を振り上げた。


 ワライダが死を覚悟した時、その頭上を飛び越えて盗賊に蹴りを放つ者があった。

 カルナは盗賊の顔に足刀を入れて打ち倒すと、安心した様子で倒れ込んだワライダの身体を支えた。


「か、カルナ……さん」


 ワライダは今にも消えそうな声で言った。


「ま、守った……お、俺、おれ、守ったよ……」


 そう言うと、ワライダはカルナに身体を預けた。

 ワライダの背中を抱き締めるカルナの腕が、じっとりと血を吸い始めている。その血液と共に、体温が流れ出してゆくようであった。


「ワライダ……」


 カルナは却って重くなった少年の身体を背負うと、中央広場に向かって走った。


 健脚を駆使し、間もなく広場にやって来たカルナは、火の手が町全体に上がっている事と、自分が倒した一人以外の盗賊たちが集結している事に気付いた。


 そして広場で、ジャスクとタルセーム、バンナゥ、そしてディアナが、盗賊たちと剣を交えている。


 カルナはワライダを地面に寝かせると、その戦いに飛び込んで行った。

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