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炎の記憶②

「いけませんよ、ディアナさん」


 カルナが、ディアナの両手を掴んで、彼女の身体を弱く押した。

 跨られている事は変わらないが、そのまま唇を合わせようとすれば、不格好な形になる。


「どうして?」

「どうしてって……今言ったように、俺は……」

「私の身体が汚れているから?」


 ディアナはカルナの手を払って彼の上から退くと、床に戻り、止められる前に素早く上衣を取り払った。


 女性としては良く発達した筋骨、修行の最中に生じた無数の傷、それでいて年齢相応に育った乳房。

 左側の鎖骨と乳房の間に、焼き印がある。

 何処かで誰かの所有物となった事があるのだと、それを見せるだけで誰の眼にも明らかであった。


「私が、何処の誰とも知らない奴の傍にいたから? 汚れた女は相手出来ないの?」

「そんな事は言っていません。生きてゆく事は穢れてゆく事です、誰だって何処かが穢れている。同じ人間として、貴女を汚いと思う権利は俺にはありませんし、そうも思いません」

「なら、どうして? 男なら、女が欲しいものでしょう? 女もそう、貴方のような強い男が欲しい……」


 腰巻きまで取り払って、ディアナがカルナに迫った。

 ディアナはカルナの肩をベッドに押し付けてしまう。


 カルナの力であれば、彼女を跳ね除ける事は難しくないのだが、彼女を拒む明確な理由を話せないままに突き飛ばす事を、カルナは躊躇った。


 すると、小屋の戸が外から激しく叩かれた。

 カルナは漸くディアナを跳ね除ける決断をして、衣を纏うと戸を小さく開けた。


「か、カルナさん! 奴らが、あの盗賊共が!」

「え!?」


 涙ながらに訴える女の言葉に驚いて、カルナが外に出てみると、町の人たちが家々から飛び出し、何処かへ向かおうとしているようだった。


 又、捕らえたドンシーラ一味を拘留していた南の方角が、夕方のように赤く染め上げられている。

 並んだ石造りの建物が炎に包まれていたのだ。

 火災――と言うよりは、誰かしらが火を放ったように見えた。


「避難して下さい。火を放たれた時を考えて、経路を確保していた筈……」

「そ、それが、それが出来ないんです! あの盗賊共が脱走して火を放ったんですけど、どうしてか、私たちが逃げる方向が分かっているみたいで……」

「何だと!?」

「逆に袋小路に追い詰められて、焼き殺された人もいます!」

「――」


 カルナは唖然とした。


 ドンシーラたちが町に侵入した場合の経路以前から、火災時の避難経路については彼らも計画していた筈だ。それらが組み合わされば混乱するにしても、その経路と合わせて考え、ルート作りをしたと思っていた。


 そのどちらも通じず、むざむざ突破されてしまったというのか!?


「と、兎に角、壁伝いに北側へ向かって下さい。ジャスクさんと合流すれば、少しの間は持ちます」


 カルナはそのように言って女性を走らせた。


 ――伝令役は何を!?


 カルナは壁を見上げた。

 壁の上で見張りをやる迎撃隊の注意は、内側よりも外側に向いているのは仕方がない事だ。だが、町の中で騒ぎが起これば、それに気付かない訳がない。逸早く町の異変に気付いた見張りは、カルナとは別の小屋で控えている伝令役にこれを伝え、カルナの小屋にやって来させる事になっていた。


 だが、その伝令役であったシェイの遺体が、小屋の陰に倒れていた。咽喉を一太刀で切り裂かれている。


 カルナは火の方向に飛び出そうとして、それに気付いた。そして気付いた瞬間、物陰から飛び出して来た男の襲撃を受けた。


「さっきは良くもやってくれたな!」


 そう言って剣を振り上げる野盗。

 カルナは咄嗟に、手加減なしの拳をその胴体に打ち込んだ。

 男は腹の中のものを地面に吹き出して、痙攣しながら倒れた。


「何が起こったの!?」


 服を着直したディアナが、外へやって来る。

 カルナに問いはしたものの、南から上がった火の手を見て、状況を察したらしい。


「中央広場だ」

「え……」

「奴らが脱走したらしい。狙われるのは中央広場だ」


 中央広場には彼らの戦車があり、又、町の井戸がある。アシを確保するのと、火消しの水を使わせない事を両立するつもりなのだと、予想した。


「ディアナさんは町の人たちを避難させてくれ。情報を共有した通路は使わないように、どうしてかは分からないが、あいつらにばれているらしい」

「カルナくんは!?」

「もう一度、あいつらを捕らえる」


 カルナは脱兎の如く駆け出して行った。

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