勝利の宴、戦いの美酒②
夜が訪れた。
一部の人間以外は、ドンシーラ一味を撃退した、アムン始まって以来の快挙を寿いで、昼間から変わらない様子で騒ぎ立てている。
カルナは、壁の南側、町の外れにある建物に向かった。
元は人が住んでいたが、今回、町を迷路状に造り替えるに当たって、引っ越して貰っている。
その空き家となった場所に、捕らえたドンシーラ一味を拘留していた。
カルナとディアナが打ち倒した一三人と、カルナが矢を投擲して倒れた戦車の下敷きになった操縦士、ガバーレが射貫いた射手、防衛戦の折に戦車から落下した射手一人、合わせて一六人が、詰め込まれている。
大柄な男たちであるから、酷く窮屈な事であろう。壁際に並んで座っても、三人か四人は、中央にいなければいけなかった。
抵抗出来ないように、肩をカルナによって外されている。その上で後ろ手に拘束されていた。
両足にも、肩幅より外に開く事が出来ない長さの紐が、内側に括り付けられている。
出入り口の戸は外されていたが、代わりに、間口をレンガを重ねて狭め、大きめの板を交差させて張り付けており、一人が抜け出すのも難しいくらいになっていた。
この簡易型の牢獄の前に、二人の男が立っており、彼らが妙な事をしないように見張っていた。
カルナは、食堂で貰った食糧を乗せた皿を持って来て、板の下から建物の中に滑り込ませた。
「カルナさん、どうしてこいつらに食糧なんか……」
と、看守を務める男は怪訝な顔をする。
彼らにしてみれば、町の平和を脅かした敵である。
「彼らは何処か別の国に言って引き取って貰います。そこで人の為に働く事で、罪を償わせるのです。何処の国でも人手は欲しいでしょう。それに、命を奪う事を、例え悪人であっても肯定したくない。彼らが心を入れ替える機会を与えるべきだと思っています」
カルナは、ドンシーラに語ったのと、同じような事を言った。
マクール高原に蔓延っていた盗賊団を追い込み、何処かの国に捕らえた彼らを渡せば、幾らかの報奨金が出る事も分かる。今までアムンを避けていたキャラバンが、再びこの地を利用して町が活気付くきっかけとなる事も。
しかし感情的な部分で、彼らを生かして置く事を納得出来ないという気持ちが、町の人たちにはある。
それを分からないカルナではないのだろうが、そうだとしても、生命の扱いに関しては潔癖であった。
実力が上の人間がそのように言い、彼と共に戦ったガバーレやジャスク、ディアナ、ダイパン、イリスなどもその考えに賛成しているとすれば、看守たちには逆らえない話であった。
――俺は余所者だからな……。
カルナは、自分が厭われている一番の理由はそれだと分かっている。余所者が、事実上の長であるダイパンや、その孫娘の推挙を受けてとは言え、防衛の要として扱われているのが気に喰わない。これも亦、盗賊団の扱いと同じで理解しつつも納得し切れない要因であった。
カルナは囚人たちに食事を与えた後、中央広場へやって来た。
広場には、鹵獲した戦車が並べられている。
全部で、六台。迎撃隊とは、交えなかった戦車である。
前面の盾に磔にされた女たちの半分は、消耗が酷かったがどうにか生き延びており、医療技術を持つ者たちによって手当てを受けていた。
その戦車に、子供たちが群がって、興味深げに眺めたり、乗り込んだりしていた。
カルナがやって来ると、子供たちの様子を見ていたワライダが、
「お前ら、やめろ!」
と、厳しく言った。
そうして子供たちをカルナの前に集めさせると、頭を下げるように号令した。
子供たちの中には、その意味が分かっていない者もあったが、形ばかりは立派な軍隊だ。
「よしてくれワライダ。俺は、こんな事をされる身分じゃないよ」
カルナは苦笑した。
ワライダは、しかし彼に対する尊敬の念を別にする事が出来ないでいた。
風のように現れ、凶暴な盗賊団を捕らえるべく、闘争とは無縁であった町の人たちを武装させ、しかも華々しい勝利を勝ち取ってみせた英雄だ。
男なら、憧れない方がおかしいというものであった。
子供たちも、親や兄弟が誇らしげに話す勇士の活躍に思いを馳せて、眼を輝かせるのだった。
分不相応の敬礼を受けるカルナはすっかり困ってしまう。
すると、その姿を見かねたように、イリスがやって来た。
「カルナさん!」
渡りに船、カルナは自分をこの町へ案内した少女を見て、ほっと安堵の顔を浮かべた。