朝焼けの襲撃⑥~無双女騎士~
「がははっ、女だ、女!」
「お嬢ちゃん、おままごとはお家の中でしていな!」
「それとも大人のおままごとがしたいのか!?」
剣を持った男が三人、揃ってディアナに襲い掛かった。
彼らの嘲るような言葉を受けて、ディアナは軽蔑の眼差しを向けると、彼らの間を素早く駆け抜けた。
「このっ……」
と、振り返った時には、男たちの身体は糸の切れた操り人形となって、その場に崩れ落ちた。彼らの顎に、何れも赤い傷口がぱっくりと開いていた。
「ママのおっぱいが欲しいなら、お家でじっくりしゃぶると良い」
ディアナの剣の先に、半透明のオレンジ色をした薄い皮膚片が付着していた。ディアナはヘキサウィンドの魔装とジュエルフレイムの魔装を併用して彼らの動作を予測し、すれ違いざまに彼らの顎先を剣で撫でた。鉄の重みを持つ剣が顎を掠めた事で、その衝撃が頸骨を起点に頭部を回転させ、脳震盪を引き起こしたのだ。
そのディアナに、拳大の鉄球が襲い掛かる。
鉄球を、デルタグランドの魔装で強化した左腕で弾くディアナ。
鎖付きの鉄球を振り回す男の眼はどっしりと据わり、ディアナの動きを冷静に見極めようとしている。
その間に、ディアナの背後に、右から数えて、短剣使いと槍使い、刀を持った野盗が移動しており、何れも下卑た表情を浮かべて得物の先を光らせている。
一瞬の膠着状態の後、ディアナと四人の敵が動いた。
先ず、初めに槍を持った男がディアナの足目掛けて穂先を繰り出した。
向かって右に避けると予想した、火の魔装を持つ鉄球の野盗が、ディアナの左腕を狙って鉄球を放り投げる。
鉄球に怯んだディアナの背中を、刀の野盗が斬り付け、身を深く沈めた短剣使いが膝の筋を切り裂いて立てなくする。
そうしてしまえば、後はこちらの好きに出来た。
だがディアナは、鉄球使いの予想に反して自分の右手、相手から見ると左にステップを踏んだ。
既にアイコンタクトで鉄球の飛来する位置を分かっていた刀の男は、勢い良く迫った鉄球を胸にぶつけられて、大きく仰け反る。
ディアナは右足を軸に後ろに回転し、身を伏せようとした短剣使いの顔面に左の踵を打ち付けた。
そして槍を引き戻そうとする男の顔を、下から剣で打ち上げてやる。
鉄球使いに向き直った時、三人の野盗が倒れていた。
「うぬっ」
鉄球の男は鎖を大きくぶん回して、ディアナに投げ付けた。
だが、ディアナの挙動を充分に予想して投擲したにも拘らず、鉄球は虚空を貫き、鎖がぴぃんと伸び切った。
その間に、ディアナは鉄球の男の背後に回っており、柄尻で頸の横を殴打していた。
剣の鍔元に埋め込まれた赤い宝玉が、爛々と光を放っている。
ジュエルフレイムの魔装は、自らの精神を高揚させ、これを極めると敵の動きを予測する事が出来る演算能力を手に入れる。しかしこれは、経験則と相手の動作の起こりを合わせて算出された予測であり、未来予知のようなものではない。
ディアナは、逆にこれを利用して、自分の意識だけを動かし、身体にはそれとは別の動作を行なわせた。精神の象徴でもある火の魔装は、肉体よりも意識の動きに注目し、鉄球の男はこちらに気を取られてしまったのである。
「さっすが、つよーい私!」
ディアナは、カルナの方を振り返った。
槍使いに身体を固定されたカルナの腹部に、ハンマーが迫っている。
ハンマー使いの皮膚は鉄の色をしていた。地の魔装で筋力を強化しているのだ。
無抵抗のままその一撃を受ければ、如何にカルナとてもひとたまりもない。
しかしカルナは、上体を捕らえられたまま両足で地面を蹴り、背後の槍使いの男の顔を、左右の腿で挟み込んだ。
カルナの下半身が浮かび上がり、ハンマーの男の眼前を掠める。視界を遮られた一瞬、ハンマーの男は武器を止める判断を下す事が出来ず、そのまま槍使いの男の腹部に鈍器を打ち込んだ。
「ぎひぃぃぃっ」
火の魔装で精神を高揚させ、痛覚を無視してカルナの打撃に耐えた槍使いだったが、我慢の閾値を超える激痛に悲鳴を上げた。
カルナは、崩れゆく槍使いの顔の前でぬるりと反転して両肩に足を置いて立ち上がると、自身の体重で彼の身体を地面に落下させた。