朝焼けの襲撃⑤~カルナ、華麗なるバトル~
混戦の開始と共に、ガバーレの肚も決まった。
カルナが、敵の矢を別の敵の矢で防いだ、奇跡とも呼んで良い現象を自らの意思で引き起こした事で、彼の能力に全幅の信頼を寄せる決心がついた。
「ガバーレさん」
と、内側の窓から、別の場所を担当していたバンナゥが顔を出した。
「やりましょう。どの道、彼女たちはもう助かりません」
戦車の正面に磔にされた女たちの事だ。
ドンシーラたちの嬲りものとなって憔悴した所を、更に戦車の盾にされている女たちを助け出す事は、殆ど不可能である。それに、ジャスクも言っていたように、戦場では常套手段だ。
カルナの背中に矢を浴びせる不安は、最早ない。気掛かりなのはそれであった。
ガバーレはバンナゥの後押しもあって、他の者たちに指示を出した。
「石を打て! 矢を放て! ディアナとカルナさんを援護するんだ!」
六台の戦車の内、ドンシーラのものと、射手を乗せていた三台を除くものから人が下りて、武器を構えてカルナとディアナに襲い掛かっている。
射手を擁した戦車は、この間に町へ侵攻するつもりであった。防衛ラインを突破させまいと、ガバーレが命令を下す。
再び投擲が開始された。
戦車隊の方は、投石器の射程を見切って、これらが及ばない場所へ移動し、矢を放ちつつ、門へ近付こうとしている。
ドンシーラの盗賊団は何れも魔装を持っている。それを考えると、彼らの回避術とターゲッティングの正確さは、風の魔装による感覚強化の賜物だろう。又、降り頻る石と矢の雨の中を、平然と進撃出来るのは火の魔装によって精神を高揚させているからだ。
盾にされた女たちは、アムンの防衛隊からも見限られた事を知って絶望し、悲鳴を上げ、石で身体を潰され、矢で射貫かれて、人質という相手の精神面に訴え掛ける盾の意味合いを失ってゆく。
迎撃隊と戦車隊、一進一退の攻防が始まった。
カルナとディアナのぐるりを、一三人の野盗が囲んでいる。
この様子を、幾らか後退した場所から、部下に弓を構えさせて眺めているのがドンシーラだ。
野盗らの武器は――
ジルダと同じ刀を持っているのが六人、
槍使いが三人、
ハンマーを構えているのが一人、
短剣使いが一人、
双剣士が一人、
鎖の先に鉄球を取り付けたものを回しているのが一人。
「お手並み拝見と行こうか、お兄ちゃん」
ドンシーラが言った。
アムンの戦士二人を囲んだ一三人は、それぞれの得物を威圧的に構えながら、じりじりと包囲網を狭めようとしていた。
カルナとディアナは背中合わせになって、これらに対して構えている。
先ず、剣を持った一人が動いた。
「死ねェッ」
眼を見開き、舌を突き出して、大振りの剣を打ち込んでゆく野盗。
この剣の腹に左掌を当て、斬撃を斜めに反らしながら、カルナが左足を軸に回転して、右の裏拳を男の顔に炸裂させた。
「けぷぅ」
と、妙な悲鳴を上げながら、右の下顎を、頬骨を砕かれると共に外された野盗が倒れ込む。
「うりぁっ!」
二人の槍使いが、カルナの胸と腹目掛けて穂先を繰り出した。
跳んで躱すも、後ろに下がるも出来ないカルナ。
出来る事は身を伏せるか、横に移動するか、槍より高く飛ぶかのどれかだ。
しかしどの行動を採ろうと、別の剣士に斬り付けられたり、身動きの出来ない上空で狙い撃ちにされたりする。
カルナは右手と左手を、円を描くようにそれぞれ上下に振り出し、槍を左右に弾いた。
そして出来上がった空間に身を躍らせて、槍使い二人の顔面を掌底で押し飛ばした。
槍の間合いは、人間の身長よりもある。上方向へのジャンプは既にジャスクとの戦いで確認済みだが、平行移動まで同じか、それ以上の距離を飛べるのは、想定していなかったのだろう。
ぬるりと、別次元から出現したようなカルナの軌道に、槍使いは反応し切れなかった。
二人とも鼻を潰され、前歯を折られている。
だが、槍使いの片方は、鼻血を吹き出しながらもにやりと笑った。
次の敵に向かい合うべく踵を返したカルナの胸の前に、後ろから斜めに槍を持ち上げて、肩の辺りにやった左手で柄を掴み、カルナを手前に引き付ける。
「こ、こんな痛み、何て事はないぜ」
男の手首で、赤い宝玉が光っていた。
「そぉらっ!」
その眼前に、ハンマーを振り被った男が近付いていた。