朝焼けの襲撃④~包囲陣中問答~
動きが、止まっていた。
ガバーレは左右に指示を出して、投石器による弾幕や目視による弓の発射を一旦止めさせている。
嚆矢型から、円形に変化したドンシーラの布陣――その中央に、カルナがいた。
投石器の弾幕による防衛ラインは、門からの直線距離にして、一般的な弓で射出した矢が下に五〇度は傾いて、鏃の硬さで漸く門に喰い込むくらいの距離である。
ドンシーラたちは、それよりも幾らか遠くにいたのだが、カルナは矢を投擲して戦車を一台戦闘不能にしてから、あっと言う間にその防衛ラインに辿り着いてしまった。
そして、ドンシーラの戦車隊に囲まれたのである。
混戦状態に入ったとしても構わず撃つように言われていたが、そこまでガバーレは戦士として徹底出来なかった。
カルナを囲んだドンシーラの戦車六台が、町からの投石を警戒しつつ、カルナに矢を向けているからだ。
戦車の正面はアムンを向いているのだが、これに乗る射手の四名が、四方からカルナに狙いを付けている。
「大した度胸じゃねぇか」
ドンシーラが、カルナに向かって言った。
「武器も持たずに、俺たちの前に殴り込んで来るとはな」
「……あんたが、ドンシーラという男か?」
「応ともさ。ジルダが世話になった男ってのは、お前か?」
「そうだ」
「あの腰抜け共に入れ知恵をしたのもお前だな」
「そういう事になる」
「良く、あの日和見主義の連中を焚き付けたもんだ」
「元から彼らに、あんたたちに対する敵対心があったという事だろう。俺の存在はきっかけに過ぎない」
「平和の町が聞いて呆れる……」
「その平和を乱す者に対し、怒りを覚えるのは自然だと思うよ」
「だが、もう終わりだ。小僧、先ずはお前を殺す。それからじっくりと町を手に入れさせて貰うぜ。あいつらから搾り取れるものは全て、な」
カルナに向けて四方から、矢が向けられていた。
それを見ていたガバーレは、投石器に石をセットし、矢をつがえて、カルナを狙う戦車隊の射手を射抜いてやろうとした。
だがそれより早く、ドンシーラの乗っていた戦車の射手が、ガバーレが顔を出していた窓目掛けて、正確な一射を打ち込んだ。
カルナがこれを止めようと踏み出した時、背後と左右から、ほぼ同時に矢が放たれた。
「――ふっ!」
カルナは地面を蹴って低く跳躍すると、低空で身体を回転させた。それまでカルナが立っていた場所に、二本の矢が斜めに突き立った。
カルナの胴体目掛けて地面と平行に打ち込んだのでは、向かいにいる戦車の射手か操縦士と相討ちになる可能性がある。だから、若干狙いを下げて、太腿から下に上から突き刺さるよう放った。
そして後方からの一本を、カルナは回転した際に後ろに跳ね上げた足で蹴り上げており、矢は上空に跳ね上げられると、そのままではガバーレが顔を覗かせている窓に一直線に進む予定だった矢にぶつかり、相殺して反対側に弾かれてしまう。
「ひゃはっ!」
と、別の戦車に乗っていた男が、ジルダが使っていたのと同じ形状の剣を打ち下ろして来た。
異なっていたのは、その剣の鍔元に、三日月型の蒼い宝石が埋め込まれている事だった。
カルナはその場で身体を半回転させようとしたが、カルナと男の間にディアナが滑り込んで来て、剣を受け止めた。
「はぁっ!」
ディアナは水の魔装である剣を弾き飛ばし、男の身体に鋭く斬撃を浴びせた。
袈裟懸けの一閃に血を吹いて倒れる男。
カルナは背後をディアナに任せ、正面のドンシーラが乗る戦車へと肉薄した。