戦士たちの夜③
「それもイリスちゃんから? お喋りだなぁ」
カルナは苦笑した。
ディアナはふふんと鼻を鳴らして、誇らしげに言った。
「それだけあの子が、私と、そして貴方を信頼しているという事だろうね」
「信頼……」
「その黒い魔装とやらを求めて、貴方は旅をしているんだって? 私がこれだけのものを持っているから、イリスは、貴方の手助けになるんじゃないかと思って、私に話したみたい」
ディアナは腰の剣を抜き放った。
ジャスクのものと同じで両刃の直刀だが、彼のものよりも細い。取り回しで言えば、こちらの方が扱い易そうではあった。
ディアナはこの剣を両手で握り、身体の前に切っ先を上に向けて立てた。
「はぁっ」
と、意識を集中する。剣だけではなく、右の手甲、左の手甲、そして胸元の宝石にそれぞれ気力を集めると、それぞれの魔法石からそれぞれの属性を表す色の光が立ち昇って来た。
魔法石の光、魔力の輝きは剣に纏わり付くと、ぶつかり合って相殺した。
相殺すれば消滅するものだが、それ以上の出力で魔力を放出するとやがて中和され、安定した一つの魔力の塊へと変化する。
ディアナの剣が、火の赤でも、地の黄色でも、水の蒼でも、風の緑でもなく、紫の光を宿していた。
これを何度か振るうと、その剣の後を追うようにして、紫の光が尾を引いた。
構えを解き、輝く剣を正眼に構え直したディアナの額に、汗の珠が生じていた。
「光の魔装は――」
ディアナが剣を鞘に納めると、紫の光は霧散して消え去った。
「持ち主を選ぶと聞いた事がある。何でも、四大元素が融合したお陰で、生命誕生に極めて近しいプロセスが踏まれ、意思、魂や精神のようなものが発生するから、らしい。だからこそ、使用者には絶大な力が与えられる」
「貴女のそれは、その光の魔装を疑似的に再現したものですね」
「ただ、全ての魔装を等しい力で発動させなければならないから、かなりの集中力が必要だけど」
「俺のシャクティと同じですね。俺もあの技を出す時は、自分の体調と気力、動作、相手に当てるタイミングなどが揃わなければ、巧くゆきません」
「それで、その黒い魔装の事だけど――」
「――」
「私がやってみせたのは、貴方の言うように疑似的な再現に過ぎない。でも、本当の光の魔装も、同じように紫の魔力を発生させると言う。それとも違う黒い魔装と表現されるという事は、つまり、闇の魔装という事か」
「いえ、ですからその話は……」
「私たちの町を守ってくれるんだろう? だったら、協力したい」
その話題を避けようとするカルナに対し、ぐぃぐぃと迫るディアナ。
そうしていると、
「こらーっ!」
甲高い声が、夜の路地を切り裂いた。
声の方向を振り向いてみれば、イリスが起こった顔をしてずんずんと歩み寄って来る。
「もぉ、お姉ちゃん、ベッドにいないと思ったら、何やってるの、こんな夜中に!」
「い、いや、ちょっと眠れなかったんだ。それで散歩を……」
「カルナさんと? 駄目だよ、お姉ちゃん! お姉ちゃんもカルナさんも、休める時に休んで置かないとその時になって大変な事になるからね!」
「わ、分かった、分かったイリス。だから静かに。みんなが起きちゃうよ」
眠りに就いている町の事を言って、ディアナが唇の前に指を立てた。
はたと気付いて、自分の口元を覆うイリス。
その姉妹睦まじい様子に、思わずカルナの表情も綻んでいた。
「じゃあ、ゆっくり休んでね、カルナさん!」
イリスとディアナはカルナに手を振って、自分たちの寝床へと戻った。
カルナも、自分が借りている東門傍の小屋へ、帰ってゆくのであった。