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戦士たちの夜①

 空に、月が昇った。

 町は緊張に静まり返っている。


 各家の明かりは消えているが、カルナくらいになれば、眠れないでいる人間が多い事は分かる。


 いつ、ドンシーラ一味の襲撃があるか分からないのだ。


 早くて今夜、とカルナは考えた。しかし、今夜は訪れない可能性がある。

 訪れない可能性はあるが、今夜襲撃を受ける事はないとは言い切れない。


 ドンシーラ一味を壊滅させ、彼らの身柄を何処かの大国に引き取って貰って、漸く安心する事が出来る。


 今日がその日でなくても、明日が襲撃の日であるかもしれない。

 明日は追い返せても、その時にドンシーラを捕らえられなかったら、次の日は町の警備に対する策を練ってやって来る。


 弾幕組も盾組も突破されてしまうかもしれない。


 有志たちが町の人々を避難させ、袋小路に追い込んで敵を倒す、という作戦は町の人たちに共有されている。これが巧くゆくとは限らない。


 避難が間に合わなかったり、そもそも眠ってしまって襲撃に気付けない事があるかもしれない。


 そう考えるととても寝てはいられないが、いつまでもベッドの上で起きている事は体力的に考えて難しい。


 それに、作戦を考えたのがカルナという余所者である事も気に掛かっている。どうして全くこの町と関係のない旅人が、大国でさえ切り捨てたこの町を守ろうとしてくれるのだろう。


 イリスという少女に頼まれたから。

 彼女を守ろうと撃退した男が、ドンシーラ一味であったかもしれず、彼の怒りを買って襲撃の時期を早めてしまったかもしれないから。


 そんな理由で、身一つで旅をする男が、一つの町を守ろうとするだろうか。


 警備の配置や作戦の考案、余りものによる武器の作成などの指示を出すのが、余りに迅速であったという事もある。


 初めからそのつもりだったのではないのか?


 そのように自分たちを動かしたのは、ドンシーラ一味の襲撃をより簡易にする目的があるのではないのか。


 暗闇の中で緊張に震える人々には、そのような心も生まれていた。


 多分、カルナを信じているのは、その実力を目の当たりにしたイリスと、実際に戦ってみたジャスクくらいのものではないだろうか。


 町を守りたいという思いは、誰しもが持っている。けれどもカルナという男を全面的に信じる事は、難しかった。


 そんな疑心が暗鬼を生じて、町を覆う暗闇の中に蔓延している。


 勿論、朝になれば、自分たちの平和を守ろうと尽力するカルナをありがたく思うのだろうけれど、それはそれとして、彼を疑う気持ちは抑えられない。


 そのカルナは、小屋で眠っていた。

 ベッドの上で、胡座をして、洗濯が終わった衣を身体に被せている。


 衣というが、紐と環があるだけで、ただの大きい布にしか見えない。その布を身体に巻き付けて、横たわる事なく眠っている。


 眠っているが、何かあればすぐに起きられるような、浅い眠りであった。


 静寂。


 小屋の外の風の音だけが、やけに大きく聞こえている。

 夜の闇を伝って、遥か遠くの獣の鳴き声が、耳に届くようであった。


 うぉぉぉ~~~~ん、

 あぉぉぉぉ~~~ん、

 あんぎゃ~~~ん、


 狼の遠吠えだろうか。

 それとも、獅子の咆哮か。

 或いはそれらとは違う、赤ん坊の声……


 いや……


 カルナは覚醒と睡眠の間で気付いていた。


 それは、町の外から届く声ではない。

 自分の内側から、滲み出る声だ。


 カルナの呼吸は大抵、あの火の呼吸である。

 深く息を吸い込んで、身体の中から全てを出し切り、再度大量の空気を腹にとどめる。


 起きている時は勿論の事、戦っている時も、話をしている時も、眠っている時も、ほぼ無意識のレベルであの呼吸を繰り返している。


 それが時折、乱れる事がある。

 カルナの唇が半開きになり、吸う息と吐く息の間隔が短くなった。


 すうぅ~~~~~~……

 はあぁ~~~~~~……


で、あったものが、


 すっ、すっ、すっ、すっ(はっ)、すっ(はっ)、すっ(はっ)……


と、変わっている。


 カルナの顔にじっとりと汗が浮かんで来た。今朝、壁の上で訓練をしていた時のような、爽やかな汗ではない。ガマの油のような、ねっとりとした汗が、額から浮き出していた。


 眉が険しくなり、眼をきつく瞑り、唾液を顎までこぼして、身をよじり始めた。


 と――


「カルナくん、起きてるか?」


 その声と共に、戸が叩かれた。

 ディアナの声だった。

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