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出会い―イリスとカルナ―③

 魔界――

 人間たちが文明を持つようになって暫く、人の手が全く入っていない未開の地は無数にあった。


 例えば森の奥深く。

 例えば暗い海の底。

 例えば高い山の上。

 例えば凍て付く氷原。


 環境の事もあるが、それ以上に人間たちが恐れたのは、そうした地に棲む人とも獣とも違うものたちであった。


 野生の獣よりも凶暴で、人間を遥かに凌ぐ攻撃力を持つものを、魔族と総称している。

 その魔族が生息する地域であるから、魔界だ。


 魔族には、様々な自然のパワーを扱うサラマンダーやノームのような魔獣(マモン)、人間に近しい文化を持つオーガやマーメイドのような獣人(ビースト)、そしてハイエルフやヴァンピーラといった使途(セイント)がいる。


 獣人や使途は、人間が住む区域とは遠く離れた場所に生息し、人間や他の動物の生活圏を侵犯する事は極めて少なかった。しかし魔獣たちは、森や山、海辺、渓谷などで、野生動物たちと同じ生活をしている種族も少なくない。


 中でも広い森は、人里とそう離れていないにも拘らず、太陽の射し込み難い一方で、豊富な栄養を確保する事が出来るという性質から、多くの魔族が生息している事が多かった。


 今、イリスの案内でカルナが歩いている森には、その魔族の気配がないのである。


「そうね。でも、昔からずっと、そうらしいわ。確かに、魔獣の体毛や皮膚、骨は使い道がいっぱいあるらしいけど、狩りをするにしても他の動物以上に危険だって言うじゃない。だったら、町の近くに魔獣なんていない方が良いわよね」

「そうだね……その通りだ」


 カルナは頷いた。


「所でカルナさん、さっきはどうして、あんな所にいたの?」


 泉の底に、死んだように沈んでいた事だった。


 イリスは、カルナが唇の隙間から小さな気泡を吹き出しているのを見て、辛うじて生きている状態であると考えた。生きているならば助けなければいけない、そういう考えから、カルナの身体を引き上げようとしたのだ。


 だがカルナは、自らの意思であのように沈んでいたらしい。


「タパスさ」

「たぱす?」

「“修行”という意味だよ。いや、“苦行”と言った方が良いかな」

「苦行?」

「腹の中にたっぷりと空気を吸い込んでから水の中に入り、どれだけの時間耐えられるか、自分を訓練していたんだ」

「そんな事をやって、何になるの?」


「肺の機能が強くなるんだ。一度の呼吸で空気を多く取り入れて、他の人たちよりも長い時間、呼吸をしなくてもいられるようになる。吸う力が人より強くなるんだ。そして、それだけの空気を吸えるという事は、その空気を入れる分の空間を身体の中に作る事でもあり、息を吐く力も強くなる」


「ふぅん……それなら、水の中に長い間、いられるって事? 魚みたいに?」


「そうだ。でも、水の中にいる事が目的じゃない。俺が魚になれるなら兎も角、俺は陸で暮らす人間だからね。だが、肺活量が強いという事は、陸で生きてゆく上でも便利な事が多くなる。飽くまでも水の中で耐えるのは、その為の手段に過ぎない、それが目的ではないんだ」


「へぇ……良く分かんないなぁ」

「やらなくても生きていけるという意味では、良く分からないというのも間違いではないと思う」

「やらなくても構わない事を、カルナさんはやっているの?」


「人から見れば、ね。俺には目的があるんだ。その目的を達成する一つの要素として、肺活量を鍛えるというものがある。その手段として、ああやって水の中で耐えている。……タパスをやっていると、時々、それが分からなくなる人たちが出て来る。どうして水の中で耐えるのか? 何が目的なのか? それを忘れて、ただ水の中で耐える事だけを目的とするようになってしまう事が、人にはあるんだ。何の為の苦しみなのか、どうして自らを痛め付けるのか? その目的を自分の中で明確にして行なう事で、苦行は手段としての修行の意味合いを持つんだよ」

地の文の間や、地の文と台詞の間は一行空ける、台詞と台詞は開けないようにしているけど、長い台詞の時は編集画面で三行以上になるのを開けようかなと。皆さんはどうされてます?

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