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旅人カルナは太陽の子―魔装を巡る冒険―  作者: 星崎リョウ
第三章 炎の剣士と女騎士の帰還
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女騎士再び②

「そう言えば少し不思議だったんだけど……」


 カルナが言った。


「ドンシーラたちに対して、討伐隊が結成された事はあるんですよね」

「ああ。主にクライス公国が、何度か兵を差し向けている。しかし中隊を超える人数だと、輸送隊以外は奴らは相手にしなかった」

「中隊と言うと三〇人から六〇人、ドンシーラたちが合わせて三〇人だと考えても、一人で二人を殺せば壊滅は可能……という訳だ」

「しかし、それ以上を相手に出来ない、という保証もない。確実に、余力を残して壊滅させるなら、それくらいが丁度良いと言った所だ。で、センセ、何が気になっているんだい」


 ジャスクの問いに、ああ、と頷いて、カルナは言った。


「彼らはどうして、その討伐隊の接近に気付いたのか、です。まさかクライス公国程の大国が、幾ら疲弊しているとは言え、騎士中隊を徒歩で進軍させるとは考えられない」

「そりゃそうだろうな」

「それでドンシーラたちですが、彼らがたむろするマクール高原は、アムンから徒歩で一日、クライス公国までは二日程、馬ならば一日から一日半、掛かります。幾らドンシーラが三〇人程度の集まりであったとしても、討伐隊の数を把握して、先んじて逃げるなり、奇襲を掛けるなりする事は、難しいと思うんです」


「うむ……とすれば何らかの手段で、討伐隊の動向を察知しているという訳だ。魔装か?」

「ヘキサウィンドの魔装を使えば、確かに感覚が強化され、遠くのものを見る事が出来ます」

「だが、そこまでの力を発揮出来るのかな。魔装は持ち主の素養によって力を発揮したり、逆に殆ど力を使えなかったりする場合もある。俺の剣のような火の魔装は特にその傾向が強い、俺のような生気絶倫な男が使えばそれこそ相手の動きを読む事が出来るが、それも過ぎれば敵味方の判断が難しいくらいに凶暴化する危険がある。風の魔装の場合は、より遠くまでものを見通せたり、遠くの音を聞き付けられるようになったりする訳だ」


 ドンシーラたちの中に、風の魔装を使いこなせる人間がいたとすれば、近付いて来る騎馬の数をあらかじめ知って、戦うか、隠れるか、その対策を練る事が出来るかもしれない。


「センセは、それだけじゃない何かが、彼らにあると考えている……のかい?」

「ええ」


 そういう話をしていると、小屋の戸が外側から叩かれた。


「カルナさん、ジャスクくん、少しよろしいかな?」


 ダイパンだった。

 二人が小屋の外に出ると、ダイパンが嬉しそうな表情を浮かべている。


「どうしたんだい、爺さん」

「か、帰って来たのだ……!」


 ダイパンは、頭の芯から溢れようとするものを堪えて、震える声で言った。

 我慢し切れない涙が、その皺くちゃの眼の下を伝い、顎の先まで落ちてゆく。


「帰って来た? 一体誰が?」

「う、うむ、うむ……でぃ、ディアナが帰って来たのじゃ、儂の孫が……」

「何だって!」


 ダイパンの案内で、カルナとジャスクは中央広場に向かった。


 広場には大勢の人たちが集まっており、飲み物や食べ物を持ち寄っていた。

 その中心に、金色の髪をした鎧の女がいて、町の人たちと楽しそうに話をしている。


「ありゃ、確かにディアナだぜ」


 ジャスクはディアナの顔を知っていたようで、遠巻きに眺めて、それが彼女であると分かった。

 すると、ディアナの傍にいて、彼女のものらしい剣を胸に抱いていたイリスがカルナを見付け、手を振った。


「カルナさーん!」


 イリスに呼び掛けられてカルナが前に出ると、ディアナの周りに集まっていた人たちは自然と道を開けた。


 カルナとディアナが、広場の中央で向かい合った。


 ディアナは、カルナよりも頭半分背が低く、女性としては上背のある方であった。鎧を纏っている事もあって、肉の圧力ではカルナとほぼ同じであると言っても良い。


「君が、カルナくんか。イリスから話は聞いているよ」


 ディアナはカルナに右手を差し出した。

 手の甲に、三日月の形をした蒼い宝石が埋め込まれている。

 胸元には六芒星を形作る緑色の宝石、左腕には逆三角形の黄色い宝石、イリスに預けた剣には赤い宝玉が取り付けられており、ディアナは四種類の魔装を身に着けていた。


「貴女が、ディアナさん……」

「この町を守ってくれるんだって?」

「そういう事になっています」

「心強いな――そこに私も加われば、まさに百人力だ! 一緒に、この町を守ってくれ!」


 蒼い瞳でカルナを見つめるディアナ。

 カルナは、彼女の右手を鎧越しに握り締めた。

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