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旅人カルナは太陽の子―魔装を巡る冒険―  作者: 星崎リョウ
第三章 炎の剣士と女騎士の帰還
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女騎士再び①

 隻腕となったオークは、右腕の傷口から大量の血をこぼしながらどうにか立ち上がり、接近する女騎士に向かって威嚇の咆哮を上げた。


 だが金髪の女騎士は唇を僅かに持ち上げただけで、顔色も歩調も変えなかった。

 オークが残った左腕で殴り掛かる。

 女騎士は左手でこの拳を受け止め、


「ふんっ!」


 と、押し返した。

 その瞬間、女騎士の左腕が黄色い光に包まれたのを、イリスは見た。


 ――魔装だ、デルタグランド……。


 片腕を失くし、バランス感覚を失ったオークは、女騎士の身体がデルタグランドの魔装で強化されていたとは言え、呆気なくその場に尻餅を付いた。


 すると今度は、芝生ごと地面を毟り取って、女騎士の顔に向かって投げ付けた。


 その中には小さな石も混じっており、眼晦ましから眼球を守ろうと眼を瞑れば石がぶつかり、大きな動きで逃げればオークに次の行動を許してしまう。


 女騎士は眼を瞑った。

 それと共にオークが立ち上がり、覆い被さろうとする。


 だが、女騎士は眼を瞑ったまま石を躱すと、懐に入り込み、右腕を跳ね上げてオークの顎の下に剣先を放り込んでいた。


 がっ……詰まった音と共に、オークの口から血がこぼれる。剣の先は、内側から頭蓋骨の接合部を寸分の狂いもなく突き壊して、怪物の後頭部から生えているように見えた。


 女騎士は手首をくるりと回してから、剣を引き抜いた。

 オークの巨体が、その場に崩れ落ちる。女騎士の剣が、オークの脳幹を掻き回して、破壊したのだ。


 ――若しかして、あれが風の魔装の力?


 イリスは、女騎士が眼を瞑ったであろうタイミングで、彼女の胸元が緑色に発光しているのが見えた。緑色の光は、風の魔力であるという。そしてヘキサウィンドの魔装は、感覚器官を鋭敏にする。


 つまり女騎士は、ヘキサウィンドの魔装で感覚を強化し、視界ではなく、聴力と触覚で石を回避し、オークの急所を特定して、正確に剣を突き込んだという事になる。


 女騎士は剣の血を拭い取ると、鞘に納めた。その刀身がほんのりと赤く光った時に、鍔元に赤い宝玉が埋め込まれているのが分かる。あの剣は火の魔装であったのだ。


「あ、あのっ……」


 イリスは、身体を掴んでいたオークの手を外すと、女騎士に礼を言おうとした。すると女騎士はイリスの前に跪いて、腹部に右手を当てた。するとイリスは急に咳き込み始めるのだが、これが治まると不意に身体がリラックス状態に入った。


「あ、あれ?」

「あいつに身体を掴まれただろう? その時、内臓が圧迫されて、息苦しかったんじゃないか。だから、これで貴女の血流を戻したんだ」


 女騎士は右手の甲を見せた。三日月を模した蒼い宝石が埋め込まれている。ムーンアクア、水の力を持った魔装である。


「さて、もう一人の彼も助けてあげなくちゃね。幸い、魔装を使っていたようだし、命に別状はないだろうけど」


 と、気を失っているビルマンの元へと歩いてゆく女騎士。


 彼女の言う通り、ビルマンはデルタグランドの魔装で身体を強化していたので、オークの剛力を見舞われても助かったようだった。しかし内臓は傷付いており、ムーンアクアの魔装で細胞を活性化させる事で回復力が上昇させていた。


「あの、ありがとう御座います!」


 イリスは女騎士に駆け寄った。

 女騎士は少女を振り返ると、にんまりと笑った。


「まるであの日の再現だ……」

「え?」

「貴女と出会った日、私も貴女と同じような目に遭ったんだ。私もこうして助けて貰った……」


 女騎士は髪を纏める白いリボンをほどき、肩まで垂らした。

 その蒼い眼を、凛々しい瞳を、イリスは覚えている。


「久し振り、イリス!」

「――ディアナお姉ちゃん!」


 三年前、アムンの町から修行の旅へと出たディアナが、帰って来たのだった。

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