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旅人カルナは太陽の子―魔装を巡る冒険―  作者: 星崎リョウ
第三章 炎の剣士と女騎士の帰還
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獣人オークの脅威①

「そう言えばセンセ、あんた、魔族とやり合った事はあるのかい?」


 ジャスクが訊いた。


「魔族と?」

「ああ。昨日は、ライオンや牛とはやった事がないって言ってたろう。でも魔族ってなるとどうなんだろうって思ってさ」

「何度かありますよ。と言っても、魔装を造る技術がある国なら、魔道具の材料となる魔獣狩り専門の組合(ギルド)がありますから、魔獣(マモン)くらいなら、倒した事がある人は少なくないんじゃないでしょうか」

「まぁ、かく言う俺も、こいつの材料は自分で採って来たんだがな」


 ジャスクは自分の剣を持ち上げて言った。

 ジャスクの剣は、刀身は通常の鋼だが、柄巻き――握りが滑り難いように、動物の柄に巻き付けるもの――と、魔法石を固定する部品は、どちらもサラマンダーの皮と爪から造られたものである。拵えも、その骨格を一部利用しているかもしれない。


「とは言え、獣人(ビースト)や、使途(セイント)なんてものはそうそうお目に掛かれるもんじゃないだろう」

「精々が、オークやゴブリン、ドワーフと言った所でしょうね。ドワーフは比較的、知能が高く、手先も器用で、道具を造る事に長けているから、滅多に敵対するような事はありませんが……」


 魔族は大別して、魔獣、獣人、使徒、と言われる。サラマンダーのような低級ドラゴンは魔獣に所属し、オークなどの人型に近いシルエットを持つものは獣人と呼ばれる。


「ただ、そのオークだって、普通は人間よりもずっと強いんだろう」

「ええ。奴らの皮膚も筋肉も、人間の物差しで測る事は難しいです。ただ、決して倒せないという訳ではなく、充分に訓練を積み、強力な魔装を使い、徒党(パーティ)を組んで挑めば、その限りではないでしょう。逆に言うのなら、それだけの準備がなければ、魔族に戦いを挑む事はやめ、自分の命を守る為に逃げる事が推奨される、という事です」






 空気の密度が、一気に変わったような気がした。


 静謐であった、森の中のブランクエリア。

 清らかな泉と降り注ぐ光で、自然の教会とも言うべき清浄であった空間が、それの登場によってまたたく間に鈍色に染め上げられてしまったようであった。


「嘘……な、何で……」


 かなりの長い年月、イリスはこの森へやって来ている。しかしそれまでの間、一度たりとも、その存在と遭遇する事はなかった。


「みんな、逃げろ! イリスちゃんも、立つんだ!」


 いつの間にかへたり込んでいたイリスに、ビルマンが言った。

 他の者たちを出口に向かって走らせて、イリスの前に跳び出してゆくビルマン。

 すらりと、ジルダが使っていた剣を引き抜いた。

 その銀色の切っ先が睨むのは、一見すると人間と同じシルエットをしたものだ。


 だが、その肉の圧力は、まるでライオンか犀が、後肢で立ち上がったかのようであった。


 どぶ色の皮膚の上に、硬質な獣毛や鱗が生えている。尻からはちょこんと、男性器のような短い尾が生えていた。芝生を踏み付ける蹄、巨体が通るのを邪魔する樹を払う熊の手。


 頸から上は、醜いイノシシそっくりだった。下唇を突き抜けて、黄ばんだ牙が上に向かって伸びている。


 オークだ。

 獣人(ビースト)と呼ばれる魔族の一種であり、知能は極めて低いが人間のような集落を形成する事が多い。


 一頭見たら、一〇頭はいると言われており、時には山の夜道でキャラバンを壊滅させる蛮行に出る。

 そして恐るべきはその生殖能力であり、彼らは牡しか生まれないものの、代わりに異種族の牝を何であれ孕ませる事が出来るらしい。


 オークに襲われた場合、男は殺されて喰われ、女は連れ去られてしまう。


 オークは泉の広場に出て来ると、その獣らしい嗅覚で人間たちの濃厚な香りを嗅ぎ取り、怯えて逃げ出すアムンの人々に襲い掛かろうとした。


「早く逃げろ、イリス!」


 ビルマンが剣に意識を集中した。鍔元に埋め込まれた三角形の宝石が黄色い光を放ち、ビルマンの身体を包み込む。


「うぉぉっ!」


 雄叫びを上げて、接近するオーク目掛けて突撃するビルマン。

 その剣が、空中に黄色い魔力の尾を引いて振り下ろされた。


 がきっ!


 鈍い音がした。

 刹那、ビルマンの身体が、宙高く舞い上がった。

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