表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅人カルナは太陽の子―魔装を巡る冒険―  作者: 星崎リョウ
第三章 炎の剣士と女騎士の帰還
38/104

炎のファイター③

 カルナは棒を、ジャスクの腹を叩くように、左側から打ち下ろしつつ、剣を躱すべく両足を揃えて後ろに跳んだ。


 バック宙で剣を避けつつ距離を置く際の牽制の引き胴だったが、棒を通じて伝わる打撃の手応えは、金属を叩いたものであった。鎖骨から肋骨の下部まで山なりになった鎧に当てれば、そのまま剥き出しのお腹まで棒が滑る筈だが、それとは異なる手応え、つまりジャスクは左手で剣を放ちつつ、右の手甲で引き胴をガードしていたのだ。


 着地したカルナに、今度は追撃を掛けなかった。

 ジャスクは口から熱い息を吐き出しながら笑った。


「凄いなセンセ。息一つ乱してないじゃん。ひょっとして本気じゃないとか?」

「いえ……この呼吸は体に染み付いているものなんです。横隔膜を制御する事で、呼吸を乱す事なく、極めれば驚きや恐怖の感情だって抑制する事が出来ます」


 火の呼吸だ。

 カルナが、壁の上で早朝に行なっていたトレーニングの際にしていたものである。


 又、横隔膜については、こういう事だ。


 人は何らかの感動をすると心臓の鼓動を速める。その鼓動を、横隔膜をせり上げる事で平生と同じにし、脳に鼓動が早まっていないと錯覚させる。心臓の鼓動が早まっていないという事は、この現象を引き起こす感動が脳の中に生じなかったという事になるのだ。


 それを分かっているから、カルナは表情にこそ出さないが、ジャスクの技術に驚いている自分を観測する事が出来ていた。


「火の魔装……精神を高揚させ、苦痛を薄め、肉体の限界を超えた運動能力を発揮する程度だと思っていましたが……成程、極めればそれだけの力を発揮するのですね」

「気付かれちゃったかな? その通り、こいつは俺に、相手の動きを予想する能力を与える。火っていうのは精神、心だ。自分の心を昂らせると共に、相手の心の動きを、或る程度予測する事が出来るのさ」

「風の魔装、顔負けですね。風の魔装は五感の鋭敏化が特徴ですが、これを使用すれば相手の身体の動きを読み、それに対応する策を練る事が出来た筈ですから。……ただ、火の魔装で精神を高揚させているという事は、これに加え、身体能力の限界を超える事への恐怖も薄れます。後の事を考えなければ、四大元素の魔装の中で、最も戦闘に適したものだと言えるでしょう」


 カルナはそう言うと、構えていた棒を放り投げた。

 そうして、腰の辺りに両手をやり、ジャスクに正面を向ける。


「どういう事だい、センセ」

「この辺りでやめましょう。貴方の力は良く分かった」

「いやいやいや……ここまで来て、それはないだろ、センセ」

「貴方が剣を向けるべきは俺ではない筈。昨日、ワライダに言った事ですが、手段と目的を間違ってはいけません。共に戦えるだけの実力がある事、それを証明する為の戦いでしょう。十二分に見せて頂きました」


「しかし、騎士はやめたが、俺にも誇りはある。せめて決着だけでも付けさせてくれ」

「駄目です。俺と貴方は仲間だ、仲間同士で戦う必要はない」

「――分かったよ」


 ジャスクはそう言うと、背負っていた鞘に剣を収めた。刀身が鞘に飲み込まれる時、物足りないとでも言っているのだろうか、蝋燭の火が掻き消される一瞬のように、赤い光が煌いた。


「ただ、これだけは言わせてくれ」

「はい?」


 ジャスクがそう言うと、カルナに歩み寄り、いきなりキックを放った。

 左膝を狙った蹴りだ。


 バックステップでこれを躱したカルナに、今度は深く入り込んでの左の後ろ回し蹴りを見舞う。

 足を、正面ではなく、身体の横から回り込ませて、腎臓の辺りを蹴ろうとしているのだった。


 カルナは、だんっ、と地面を蹴って、ジャスクの頭の位置まで跳躍する。

 これを追って、ジャスクも地面から跳び上がり、右の足刀でカルナの顔を蹴り付けて行った。


 カルナは両手首を交差して、ジャスクの右の脹脛を押さえる事で蹴りの威力を弱め、二人で落下してゆく力を利用して左足をジャスクの腰にあてがった。


 空中で弾かれるようにして、着地する二人。


「俺の方が強いって事さ!」


 ジャスクは自身を指差して、言った。

 カルナは唖然とした顔で、彼の手を握ると、


「俺より高く飛ぶ人を、国を出てから初めて見ました」


 と、微笑んだ。

 二人は固く、握手を交わした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ