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旅人カルナは太陽の子―魔装を巡る冒険―  作者: 星崎リョウ
第三章 炎の剣士と女騎士の帰還
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タパス②

 全身の関節が軋むような体勢であったが、カルナの肉体は蛇のように柔らかく動いて、関節の存在を忘れさせる。


 手足の左右を入れ替えて、同じ事をやった。


 これを終えると、塀の上にうつ伏せに寝そべるような形になり、両掌と中足――足の指の付け根――で身体を支えた。


 そうして、ゆっくりと胴体を前方に滑らせ、恥骨を地面に滑らせるようにして、腰を反らし、咽喉首を前方に晒す。


 今度はその逆に胴体を動かし、顎で地面を擦りながら、尻を持ち上げた。


 この動作を、呼吸と同じで一三回。


 その後、両手を塀の際ぎりぎりまで広げ、折り畳んだ膝にその間をくぐらせる。

 下半身が、両手よりも前に出る形で、座っていた。

 ここから、太腿を持ち上げて、両足を揃えて頭上に突き出してゆく。


 両手を放して、持ち上げた脚と平行に空に向けて伸ばす。こうなると楽なのは背中を下に着いてしまう事だが、カルナは上半身と下半身でV字を作る姿勢をキープした。


 伸ばした四肢と、折り曲げた腹に、堪らない負担が掛かる筈だ。

 呼吸は、先程までと同じである。


 暫くこれを続けると、手足を下ろして、その場に仰向けになり、全身から脱力した。


 リラックスして体力を取り戻すと、背中は地面に着けたままで、もう一度下半身を持ち上げる。だが今度は、そのまま両足を頭の先まで持って来た。


 自分の下腹部を眺めるような形になる。両手は自然と、下に着いて、肛門の先に指先を向けている。


 これも終えて、塀の上に横たわって、リラックス。

 汗をたっぷりと掻いてはいるが、呼吸は変わらない。


 立ち上がった。

 壁の上に直立する。


 太陽が真っ直ぐに、カルナを射抜いていた。

 その眩さに眼を薄く閉じながら、踵を持ち上げた左足を正中線に寄せつつ、右足を持ち上げた。


 右の膝を折り、爪先を左側に向けるようにして、片足立ちになる。

 右腕を頭の上に伸ばし、左手は横にして腹の前辺りに置いた。

 右手と、頭蓋骨と、背骨と、左足とが、真っ直ぐ槍で貫かれたかのように、ぴんと張り詰めている。


 風がカルナを倒そうとするのだが、爪先立ちになっても男は揺るがなかった。


 このポーズを持続してから、今度は逆の手足で同じ事をやった。


 それも終わると、カルナは二の腕や脚を指圧しながら、衣を取って、壁から降りる事にした。

 攀じ登った時と同じように、壁の僅かな凹凸に指を掛けて、梯子まで下りてゆく。


 そうして梯子で、地上まで戻ってゆくのであった。






 町はもう目覚めていた。

 旅人の為ではなく自分たちの為に飯を作り、湯を沸かし、ものを修理して、売れる当てのないものを磨き、申し訳程度の花壇や街路樹に水をやっている。


 カルナは大浴場の一つに向かう前に、町の中央広場近くにある井戸に向かった。

 水源を近辺の地下水に持つ井戸である。


 釣瓶式になっており、井戸の上に通された梁に滑車があり、そこから伸びるロープの片側を引っ張って、もう片方の側に吊るされている桶を引き上げる。


 この桶の水を、井戸の近くに並んでいた桶に移し替えて、使うようだ。


 カルナが井戸までやって来ると、ガバーレがおり、

「やぁ、先生」


 と、挨拶をした。


「先生?」

「今日から色々と教えてくれるんだろう? だから、先生、さ」

「はぁ。……しかしこの町の事について、貴方たちが先生ですよ。それで、早速お聞きしたいのですが」

「何かな」

「これを洗いたいんですが、何処でどうすれば良いんです?」


 カルナはたっぷりと掻いた汗を拭った衣を見せた。衣と言っても、着方によってそう見えるだけで、折り畳んでしまえば単なる大きな布だ。

 しかも、所々ほつれたり破けたりしており、汗以外の匂いも染み付いているようだった。


「随分と使い込んでいるなぁ。これなら、買い替えた方が良いんじゃないのか? 幸い、布なら輸入物で、良いやつがいっぱいあるからね」

「愛着があるもので……治すなら兎も角、捨てるのは少し抵抗があります。本当なら洗わなくても構わないのですが、先生などと呼ばれる身の上になってしまったからには、小綺麗にしていたいのです」

「それなら風呂へゆこう。あそこには服の洗濯を生業にする人たちもいるから、その人たちにやって貰えば良い。それと、それを洗濯している間に着る服も、近くで扱っているよ」

「お世話になります」


 カルナとガバーレは、そうして、三つある大浴場の内の一つに向かった。

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