魔装講義②
「後は魔族の事もあるけど……」
カルナが説明の続きをしようとした所で、イリスが、
ふぁ……
と、あくびをした。
イリスは口元を押さえて、恥ずかしそうな顔をした。
「ご、ごめんなさい。別に退屈だったって訳じゃなくて……」
「いや、良いんだ。あくびをするって事は、酸素が足りないだけだよ。眠たいからあくびが出るのは確かだけど、それは酸素を取り入れて血液の流れを良くし、身体を少しでも覚醒状態に持ってゆこうとしているという事なんだ。俺の話を、君が真剣に聞いてくれているって事さ」
「へぇ……そう言えば、あの時もカルナさん、凄い呼吸をしていたわよね」
イリスを人質に取ったジルダに対し、悠然と歩み寄って掌打を放った時だ。
彼の周辺の空気の塵が舞い上がり、身体に絡み付いていた。カルナの呼気に色が付いたように見えたものである。
「クンダリニーを呼び起こしていたのさ」
「クンダリニー?」
「身体の中で眠っている力の事だよ。その力を呼吸法によって引き出し、全身に行き渡らせて、この掌から雷神嚆矢として打ち出したんだ」
「?」
異国の言葉を、説明なしにぽんぽんと吐き出すカルナに、イリスは首を傾げていた。
一方でカルナの方は、ジルダとの会話を思い出し、
「そう言えばあの男は、ムーンアクアの魔装とか言っていたな。そう考えると、火の呼吸で大地力を呼び、体内の水分を介して衝撃を伝えるシャクティは虚空の武技という事になる。魔装も同じだな……」
カルナは、羊皮紙に書いた六芒星✡の横に、二重丸◎を書き加えた。
「それも、魔装の属性?」
「ああ。ただ、この五つ目の魔装は、流通量や値段を除けば同列の四大元素とは違って、これらの上位に位置するものだ。属性としてはアーカーシャになるのかもしれないが、こっちの呼び方では確か、リングシャイン……光の魔装と言われている」
「光の……」
「光の魔法石は、四種の魔法石を組み合わせ、その属性を中和する事で誕生する紫色の魔法石だ。万物を揃えた光の魔装は四大元素の魔装を凌駕する力を発揮すると言われている。但し、その力を発揮する分の代償もあるらしいがね」
「力の代償……」
「無料より高いものはない、とは何処の言葉だったかな。万物は常に影響し合い、破壊と創造を繰り返す。人間の営みも同じ事だ。何もせずに手に入れた幸運には、何処かで必ず帳尻を合わせなくてはいけなくなる。自業自得、因果応報というものだな」
カルナは一つ、大きな息を吐いた。
イリスはもう一度あくびをしてから、訊いた。
「そ、それで魔装の事なんだけど、魔道具っていうのは? 魔族の身体の一部を加工したものって?」
「そのままの意味さ。獣の皮を剥いで服や靴にしたりするだろう。それと同じで、魔族の皮膚や骨格などの頑丈な部位は、幾らか手を加えてやれば道具として使えるようになる。あの男が使っていた剣は、恐らく柄と鍔がオークかゴブリン辺りの骨で出来ていたのだろうな」
オークとは、人間に似たシルエットを持ちながら、ライオンやバッファローのような怪力を誇り、低い知能と高い生殖能力を持つ獣人の事である。
ゴブリンは、オークが鬼人とも呼ばれるのに対し、小鬼などと言われる小柄なオークの事だ。
「奴らは基本的に大地の生き物だ。だから、地の魔法石と適合する。魔道具の素材となった魔族の魔力が、魔法石を起動させる鍵となり、魔法石によって増幅された魔力が人間に何らかの力を付与する。これが魔装という事さ」
「それは、他の属性にも適応される訳よね」
「ああ」
「水の魔法石には水辺の魔族……マーメイドとか、クラーケンみたいな?」
「うん」
「火の魔族だとサラマンダーなんかが有名ね。風だと……エルフとかペガサスとか? だとすれば捕獲するのも大変じゃない。あっ、だから風の魔装が、この四つの中だと貴重なのね」
イリスは、ぱん、と両手を叩き、得心がいったという顔をした。